第二章その二 『幸福の音楽会①』
「ーーようやく出てきたっすか」
センスは二人に気づかれないように尾行を開始していく。二人はまるで遠足前の小学生の様に何か待ちきれない事があるのだろう背後から機嫌がいいのがわかるほどうきうきと足早に歩いている。
そうしてついて行くこと数分後
「――え、ここって……」
二人はとある建物の前で足を止める。その建物ははなんの変哲もないありふれているが強いて言うならば「ちょっと大きいかな?」と思うくらいの市民体育館だった。
「ただの体育館じゃないんすか?」
正直地下のBARや、人気の無いビルみたいな所に行くもんだと思っていたので拍子抜けしたが、二人はその体育館に入って行くのでセンスも後に続き入る。
体育館の中はステージ上の照明以外ついていないため薄暗く、暖房器具が一つも置いていない為に凍えてしまいそうなほど寒い。
だと言うのにざっと見るだけでも百を越す人がいて、皆もこもこと厚着をしながらステージ上をじっと見ている。
なんだか奇妙な感じだ。
「ーーよう、あんたここは初めてかい?」
不意に隣にいたおじさんに話しかけられる。
見るからに小汚い格好をしているおじさんだった。服はボロくしわくちゃで髪もボサボサおまけに少し匂う。
薄暗い館内でぱっと見ただけでソレらに気づいたのだから明るい場所で見ればもっと酷いのだろう。
にも関わらず周りの人達はニコニコとしているだけで誰も咎める者はいない。
「えぇ、そうっすけど、ここって一体なんなんですか?」
「ありゃ、あんた知らずにきたのかい?」
「幸福の音楽会と言う名前だけはしってんすけど……」
センスはの言葉におじさんは笑い出した。
「はっはっはっは、そんだけ知っとけば十分さ、なにせその名前通りだからね、ここの音楽は聞くだけで本当に幸せになれるのさ」
「幸せに?」
「あぁ、わしも仕事をクビになり、家も売ることになってこの年齢ではずかしながらホームレスになってしまってね、一時は自殺も考えたんだ。けどここの音楽をたまたま聴いて元気をもらえたのさ、そしてね――あっと、時間だ静かにしよう」
おじさんは話を途中で止めてステージ上を指さした。すると高校生くらいの少年が裏から出てきてそれと同時に一斉に拍手が起こる。
「ーー皆さん、今日もお集まりいただきありがとうございます」
少年が一言そう言うだけで人々の興奮は最大にまで上がったようで、拍手はより一層大きなものへとなる。
ここまでうるさければ騒音公害と言ってしまっても過言ではないだろうと思いながらセンスは能力で聴力を少し弱めた。
「それでは今日も“幸福の音楽会”を始めさせていただきます」
少年が懐から笛を取り出し演奏を始める様子を見せるとあれほど五月蠅かったはずの拍手はピタリと止んだ。
代わりにシーンと静まり返った館内には昂る鼓動の音があたかもこだまのようにあちこちから聞こえ始めた。




