第二章その一 『入社試験③』
「……どうかしましたか?」
「あの〜悪いんっすけど携帯貸して貰えないっすかね?」
「携帯ですか? 別にいいですけど今時電話持ってないなんて珍しいですね? 不便じゃありませんか? 探偵さんなら尚更」
「探偵って言っても俺まだ見習いなんで……あっ」
「え? 見習い……?」
失言だと気づきすぐさま口を押さえるも時すでに遅し、“見習い”という言葉によって安堵の色を見せていた秋風の顔色は徐々に青ざめてく。
「い、いや……見習いって言ってもアレっすよ、アレ……今まで色んな依頼をこなして……みたいな?」
弁解に必死になればなるほど逆効果のようで秋風の顔はもしかしたら泣いてしまうのでは? と思わせるくらい絶望の色を濃く出し始めている。
勿論、センスも焦りが募る。
「たとえば……迷子の猫や子供を見つけたり……浮気の調査をしたり……」
ーーえっと、後は……後なんかあったっすっけ………あ!!
心中で頭を捻らせたセンスは、一ヶ月前、樅木と出会った時に起こった時間を思い出した。
「秋風さん、一ヶ月に起こった連続通り魔事件って知ってるっすか?」
「……えぇ、おじさんが若い人達を何人も殺害したっていう事件ですよね? この間もまだ手口は不明のままって言っているのをニュースで見ました」
「実はその事件の犯人を推理したのは俺なんすよ!」
「ええ!? 本当ですか!?」
「本当っす!」
絶望から驚愕のものへ表情を変えた秋空へ立てて親指と共にキメ顔を向けた。
推理だなんて大層な事言ったが結局犯人を見つけ出したのは頭脳など一切使わない全て能力頼りだったので推理もクソもなかったのだが、
ーー嘘は言ってないっす……
とこの場はそのまま乗り切る。
実際、全国的に有名となっている事件を解決したというセンスの実績に秋風の表情は元の安堵を取り戻しつつあった。
「そうだったんですか、凄いですね! ーーすいません疑うような反応見せちゃってーーどうぞこれ使ってください」
「ありがとっす」
快く差し出された携帯を受け取り、その場から少し離れるとクロモミ探偵事務所の電話番号を打ち込んで着信ボタンを押すと数回のコールで電話が取られた。
「ーーはいお電話ありがとうございます。クロモミ探偵事務所です」
「カコっすか、俺っす」
「あっ、センスくん? どう、一人の依頼は? 大丈夫?」
「今んとこ順調っす」
「そっか、僕に手伝える事があったらいつでも事務所じゃなくて僕に電話……あっ、そういえばセンスくん携帯持ってないんだっけ?」
「そうなんっすよ、今も依頼主さんから携帯借りて電話してるんっすよ」
「それは大変だったねーー今度一緒に携帯買いに行こうよ、お仕事で必要な物だしきっと樅木さんがお金出してくれるよ……多分」
「……本当に出してくれると良いんすけどね」
「大丈夫! もしも樅木さんがお金を出さないなんて言ったとしても僕とハクトちゃんが樅木さんを説得するよ!」
「ははっ、ありがとっす」
「当たり前のことだよーーそれよりも電話してきたってことは何かあったの?」
「あぁ、ちょっと伝えたい事があるから樅木さんと変わって貰って良いっすか?」
「了解」
電話先からはカコの声の代わりに何処かで聞いた事があるようなありふれたメロディーの保留音が鳴り始め、かなりの間曲がループを続けたあとにようやく樅木が電話に出た。




