第一章その一 『始まりの感覚④』
「どうしたんだこりゃ?」
樅木の後ろを歩いて行き商店街の前についたが、そこには沢山の人で溢れていた。その中にはセンスに職質した二人の警官もいた。その二人は何かをメモしているようだったが、こちらを見ると
「あっ、君たち! 先刻はどうやって逃げたんだ!?」
少し怒りつつ近づいてきた。
「まぁまぁ、そんなことより何かあったんですか?」
そんな警官をいなしつつも話を変えよう、逸らそうと樅木が質問で質問を返す。
「……殺人事件だよ、この商店街の中で人が刺されて死んでいたんだ、君たち何か知っている事無いかね?」
「なんか俺たちが犯人じゃないのかって言いたそうですね」
「まぁ、こんなこと言うのもあれなんだけど、君たちだいぶ怪しいからね、話だけでも聞かせてもらえないか?」
「怪しいとは心外ですね、俺たちはこう言うものです」
そう言って樅木はセンスにも渡してきた名刺と同じものを警官に渡す。
――あれ? 俺たちって俺も?
「クロモミ探偵事務所? 探偵? 君たちが?」
「そうなんですよ、何か依頼があれば捜査、謎解きなんでもござれです」
樅木は警官に臆す事なく、これまたセンスにした時と同じポーズを決める。
――すごいっすねこの人
「本当に君たちが探偵なんてやっているのかい?」
二人の警官はまだ疑いの眼差しを向けている。
「あ、信じてませんね、いいですよとっておきの証拠がありますから」
「ほう、その証拠とは?」
「退職した刑事さんに田所さんっていたでしょう」
「あぁ」
「その人に依頼されて、俺たちは難事件を解決しました」
「本当かね?」
「イエース」
樅木は得意げに両手でピースを作る樅木を見て
――探偵なんて遊びだと思っていたんすけど、警察から依頼されるなんてこの人思ってたよりすごい人なんすかね?
なんて自身の中で凄い勢いで暴落してゆく樅木の株の再評価を検討する。
「田所さんなら、さっき会ったよ、ほら、あそこ、おーい田所さん」
一人の警官が声をかけたのは、歳をとってはいるが大柄な人だった。声に気づくと田所と呼ばれた男性はこちらへ来て
「おぉ、樅木くんではないか、その節はお世話になったね」
「いえいえ、また何かありましたら是非ともクロモミ探偵事務所まで」
「はっは、そうさせてもらうとするよ」
「すいません、田所さん、この男性が探偵って本当なんですか?」
「あぁそうだよ、昔ちょいとお世話になったんだ」
その言葉を聞いて警官は申し訳そうに変な疑いをかけた事について悪かったと詫びてきた。
「まーまー別にいいですよ」
殺人犯に疑われたと言うのに、別段怒りを見せることも、悲しげにもせず、樅木は笑いながら答える。
きっと過去何度もこう言うことがあったんだろうな等と失礼な事を思いながらもセンスの中で樅木の株が少し上がる。
「ところで田所さん」
センスは気になっていることを聞くことにした。
「ん? なんだい?」
「樅木さんが解決した依頼ってどんなものだったんですか」
「あぁ、樅木くんにはうちのニャンコちゃんを探してもらったんだよ」
「え?依頼って殺人とかじゃなかっ……」
「そんな昔のことどうでもいいじゃないか、それより田所さん今回の事件について詳しく聞いていいですか?」
警官からの依頼と言うからには、殺人やら、強盗と言った事件性のある依頼かと想像していたセンスは(勝手に)上げすぎていた樅木への評価を下げるが、猫探しといえどちゃんと依頼を達成しているらしいので、最終的に最初よりもちょっぴり高い位置に留まった。
「おいおい、私はもう引退したんだよ、事件のことならこっちの二人に聞いてくれよ」
「で、どうなんです?」
「部外者に教えることはいかないなぁ、と言いたいところなんだげども、実際何にもわかってないんだ、ただ普通に歩いていた男性がいきなり倒れ、刺された傷はあるんだが、倒れた時の監視カメラを見ても周りには誰もいない、今回だけじゃないそんな事件が最近何度も起きているんだ」
「ふーむ、なんとも奇妙な話ですね」
「ーーあれは、天罰だな」
不意に野次馬の一人だった壮年の男性が樅木達の会話に混ざってくるとそう言った。それはまるで断言するかのような口調だった。
「天罰とは?」
「今回刺し殺された男は相当な不良だったらしいからな」
「あなた何か知って……」
「何か知っていることがあるならぜひこの樅木黒乃によろしく」
樅木は警官を押しのけてそう言う。本当にやばいなこの人、とついさっき折角上げた樅木への評価を地に落とすと共にセンスはとある事を感じた。
「君、邪魔をするなら公務執行妨害で逮捕するぞ」
「いいじゃないですか、手伝ってあげますよ」
「頼んでないよ!」
樅木と警官は、やいの、やいのと言い争っている。そんなことなど気にせず、センスは男性へと言葉を向ける。
「なぁおっさん」
「あ? なんだ?」
「あんたが犯人すよね?」
「な!?」
聞こえてきたまさかの発言に樅木と警官は言い争いをやめ、なんだ? とこっちを向く。
「な、何を言っているんだ、お前は…」
「センスねぇっすねあんた、じゃあ、あんたの靴下に付いているその血はなんなんすか!?」
「な、なに!?」
男は焦って、それに続きセンスの叫びを聞いた警官や樅木、周りにいた野次馬達は靴下を見るが、
「……なんだ、血など、つ、ついてないじゃないか、出鱈目だ!」
もちろんである。靴下に血がついているなどただの嘘なのだから。
「やっぱセンスねぇっすよあんた、じゃあ何で今あんなに焦って確認したんっすか?」
「うぐっ、ちが、違う! 俺じゃない!」
「とぼけんなっす! あんたからは匂うんっすよ、俺には分かる、血の匂いがぷんぷんっと感じるんっすよ!」
センスの操作して強化された嗅覚は目の前の男から人の血の匂いを嗅ぎ取っていたのだ。
「匂うだぁ!? 何を阿呆な事を……」
「少しお話を聞かせていただけますか?」
しばし会話を聞いていた警官が男に詰め寄ると野次馬達もなんだ、なんだ?と群がり始める。
すると
「な、えっ? 消えた!?」
男の姿が一瞬にして消えてしまった。
「どこだ? どこへ行った?」
「能力を持った人間って単なる噂ではなかったのか!?」
たちまち現場はパニックになり警官たちや、野次馬たちはあたりを探すように見渡しているがどこにも男の姿は見えない。
センスはそんな周囲を気にせず目の前に向かって思いっきり拳を振るう。
「ぶべら!」
突如何もなかったところから吹き飛んだ男が影を表すとその手からは血のついたナイフが落とされた。
「……な、なんで?」
「あんたと似たようなもんっす、感じるんっすよ」
「お、お前、まさか能力を持って……? と言うことはあの男達の……」
「……あの男達?」
「ーー今だ! 確保!!」
話している隙に警官たちはすぐそこまで近づいており、捕まえようと一気に男との距離を詰めたが、男はすぐさまナイフを拾うと今度は姿を消す事なくセンスに突き刺しにくる。
「てめぇは死にやがれ」
ーーあっやばい、これは避けれない。
気づいた時にはナイフと腹の距離はもう数センチほどであり、センスは恐怖のあまり目を強く閉ざす。
「ーーゲフゥ」
ナイフがセンスの腹を貫くまであと一秒にも満たない刹那の瞬間と言うところで男は再び吹き飛んだ。
「な、なん……で?」
自分が今何を体験したのか何故飛んでしまったのかわからないままに、それだけ言って男は気を失った。
どうやらいつのまにか男の横に樅木が立っていて男を蹴り飛ばしたらしい。
「ふふっ、俺が時を止めた……って、あれ?」
格好つけて振り返った樅木が目にしたのは気を失って倒れていたセンスの姿だった……




