第二章その一 『入社試験②』
「待ち合わせ場所、ここであってるすよね……?」
樅木が部屋から去った後とりあえず手紙にあった番号に電話をかけてみると手紙を差し出した張本人である秋風空が出て直接会って話すこととなった。
センスは少し早く待ち合わせ場所についたのだがそれらしい人物は周囲におらず、連絡を取ろうにもセンスは携帯を持っていない為、近くに公衆電話がないか探すも無かったので結局十数分ほどぼうっとして秋風が来るのをただ待ち続けた。
何をするでなくただ時間の流れを全身で感じるだけ……きっと過ぎ去った時間は体感しているほどではないのだろうが、時計を持っていないセンスにはそれを確認する手段はない。
「ーーすいません、クロモミ探偵事務所の方ですか?」
そんな虚無すぎる時にピリオドを打ったのは電話で聞いたものと同じ女性の声だった。
視線を向けるとまだ少し顔に幼さを残していながらも大人っぽいコーデを着た女性がセンスと無事会う事ができた安心感と依頼内容から来る不安感が半々で合わさりあったような表情をして立っていた。
「はいっそうっすーーえっと、依頼人の秋風さんっすよね?」
「えぇそうです」
「そっすか、会えてよかったっすーーえっと近くの店に入って話を聞かせてくださいっす」
そうは言うが初めての事務所外、それも一人での依頼者との顔合わせと言うこともありどの店に入ればいいのか分からない。
ーーそういえば樅木さんと初めて会った時は小洒落た喫茶店で話を聞いてもらったっすね
そんな事を思い出しあたりをぐるりと見回すが喫茶店のような店は無く、結局無難……なのかは分からないがどこにでもありそうなチェーン店のファミレスに入った。
「ーーきっと今夜もうちの両親は例の音楽会に行くと思うんですよ」
案内された席に座りとりあえずドリンクバーを二人分頼み、センスが飲めもしないブラックコーヒーを取って席に戻ると秋風はおもむろに口を開く。
「そうっすかーーじゃ、俺は二人にこっそりついて行って“幸福の音楽会”とはどのようなものか調査してくるっすよーーご両親はいつも大体何時くらいに家を出るっすか?」
センスは形から入り探偵に見えるように彼女の言葉を逐一メモしながら話す。
「大体いつも夜の十八時くらいですかね」
「わかりました。それではその時間帯まで近くで待機してますね」
話がひと段落ついてから、持ってきたブラックコーヒーを一口啜る。
かなり苦かったがこれが大人の味だと、感覚を操作して味覚を消すなんてことはしないでそのまま喉に通す。
「お願いします」
秋風はセンスの言葉にほっとしたような笑みを浮かべながらペコリと頭を下げてそう言った。
「ーーじゃ、この後家まで案内しますね」
「お願いっす」
そこまで話して二人の会話は終わり、流れる沈黙になんだか急かされているような気がしたセンスはカップに残っているコーヒーを無理やり胃の中に流し込んだ。
「じゃ、早速行くっすかーーげぷっ……」
中身を飲み干したカップをテーブルに置くと、ドリンクバーなのに苦手なブラックコーヒーをそれも一杯しか飲んでいない為
ーー勿体ないっすねぇ……
なんてケチくさい事を考えながら料金を払い店をあとにした。
その後特に会話も無くただ先導されるがまま歩いていると十数分で秋風と書かれた表札がかけられた家に着いた。
「それじゃあ私は帰りますねーーなるべく早く両親が家を出るようにしかけるので、申し訳ないんですけど少し待っていてくださいね」
「あっ、少し待ってくださいっす」
センスは自分に背を向けて玄関へと向かって行く秋風を慌てて呼び止めた。




