第二章その一 『入社試験①』
「センス、お前ここにきてどのくらい経つっけ?」
センスが昼食の片付けをしていると突然樅木からそんな質問をされた。
ちなみに今カコは買い物、ハクトはケルベロスの散歩に行っているため事務所内には二人しかいない。
「えっと、大体一ヶ月くらいすかね」
「そっか、もうひと月経つか……うーん」
樅木はこれの答えを聞くと腕を組んで何やら考え事をし始めた。そんな状態が数分続き、痺れを切らしたセンスはついに聞いた。
「ひと月がなんだって言うんすか?」
その問いかけに樅木は答えず、代わりに胸ポケットから茶色い封筒を取り出して机の上に差し出す。
――これって、もしかして、お給料!?
「これは?」
「まぁ、開けてみろ」
「は、はい」
正直センスは全く期待していなかった。
――普通の給料の相場なんかよりだいぶ下……一、二万入っていればいい方すかね?
と考えたがそんな期待はすぐに捨てた。
樅木の事だから千円、ニ千円と言う可能性も十二分にあり得ると思ったからだ。
センスは封筒を開けると中から出てきたのは
「これは……手紙?」
可愛らしいキャラクターが周りに描かれた手紙が出てきた。
「どうやら依頼書みたいだ、今朝うちのポストに入れてあった」
「はぁ」
――なんすかこの展開は?てゆーか金ですら無いんすか!期待しなくて良かった……いや、ちょっとは期待してたんっすよ!?
「で、この依頼書がなんなんすか?」
「ん? センスなんか怒ってる?」
自覚はなかったのだが、やはり心の何処かでは期待を踏み躙られた事に怒りを感じていたのだろう。
「別に、普通っすけど」
「まっ、いいや、とりあえずその依頼書読んでみ」
「はいっす、えっと」
手紙のような依頼書には次のように書かれていた。
『探偵さんへ、いきなりのお手紙お許しください。もし探偵事務所に入ったことが両親の耳に届くと色々とめんどくさいことになりそうなのでお手紙にて依頼させていただきます。いきなりなのですが、最近うちの両親の様子がおかしいんです。“幸福の音楽会”と言うものにハマって、週に何度も夜遅くまで帰って来なかったり、音楽が聴きたくなって機嫌が悪くなったりと、まるで人が変わったようなんです。もしかしたら“幸福の音楽会”と言うところで薬でもやっているんではないかと心配なんです。探偵さんお願いです“幸福の音楽会”と言うものを調査していただけませんか。』
裏面には依頼者のものであろう“秋風空”と言う名前と住所、電話番号などが書かれていた。
「幸福の音楽会、名前からしてなんかうかんくさいっすね」
「そうだな、書いてある通りほんとにやばい薬でもやってるのかもな」
「それで、この依頼書がどうしたんすか?」
「センス、お前さっきここにきてひと月だって言ったよな」
「言ったっすけどそれが?」
「だからここらでお前の入社試験をしようと思ってな」
「えっと、もしかして」
「あぁ、そうだお前には一人でこの幸福の音楽会とやらを調査してもらう、この試験に合格したらお前も晴れて見習いは卒業、クロモミ探偵事務所の正メンバーだ!!」
「――正メンバーになるとなんか変わらんすか?」
「ふふん、毎月給料を出してやろう」
――えっ? 俺マジで今タダ働きしてる状態だったんすか!?
「ちなみに給料っていくらぐらいなんすか?」
「……じゃ、依頼頑張って成功させろよ」
質問に答えず、笑顔を崩さずに樅木は手を振って立ち去ろうとする。
「ちょっ、ちょっと答えてくださいっすよ!」
センス言い終わると同時くらいに樅木の姿が消えた。時間を止めて逃げたのだろう。
――前から思ってたっすけどこんなにすごい能力を無駄遣いしすぎじゃないっすかね……?
「全く、仕方ないっすね」
ここへきて一ヶ月猫探しやら迷子の捜索やら浮気調査やらしてきたが、それらと比べれば謎の音楽会を調査するだけなら簡単だろう。ととりあえずセンスは依頼書に書かれてあった番号に電話してみることにした。
「ーーあれ?」
ーーそういやなんか俺いつの間にか入社することになってないっすか……?
最初はセンス自身も「記憶を取り戻して欲しい」という依頼主だった事を思い出したが、まぁいっかと電話が置いている所へ向かった。




