第二章 『プロローグ』
真夜中の広い市民体育館……
その中では百人近い老若男女様々な人がステージの上をまだかまだかと待ち侘びている様子で見ていた。
照明はすべて切っている上に携帯を眺める人は一人もおらず館内に存在する明かりは非常口を知らせるための微かな物だけだった。
照明だけでなく冬真っ只中で厳しい寒さだと言うのにヒーターなどの暖房器具の類も一切なくかなり冷えきってしまっている為に鼻で息をすれば痛く、吐き出される息は白い。
それにもかかわらず文句を言う人は一人もおらず、どの人も厚着に厚着を重ねてモコモコしながらもニコニコとしていた。
少ししてステージ上が明かりに照らされ、それとほぼ同時に満を侍して裏から少年が登場すると皆一斉に拍手の嵐を鳴らした。
「――皆さん、あけましておめでとうございます。お正月はいかにお過ごしでしたしょうか?」
前置きを話し始める少年だったが、そんなものいらないから早く、早く、と言わんばかりにソワソワと多くの人がステージ上に熱い視線を飛ばしながら体を震わせた。
ステージ上の少年はそのことに気づきながらもあくまで自分が考えてきたスピーチを早めに切り上げる事なく予定通り話し、観客たちの興奮がピークにまで達した事を全身に感じ、それを受け止めると
「では、お待たせしました。それでは新年初の“幸福の音楽会”を始めさせていただきます」
ようやく放たれた少年のその宣言に拍手の勢いはよりいっそう激しくなる。
両手を広げ拍手を受けていた少年はしばらくして懐からある物を取り出す。
それは銀一色の輝く横笛であり、一見何の変哲もないチープなデザインのようにも感じるが、どこか見る者の心を奪うような、そんな不思議な魅力を放っている。
「それでは、早速演奏を始めます。まずはオリジナルの“夢”です」
その言葉にあれほど激しかった拍手の音はピタッと止み、皆食い入るようにステージ上の少年を見つめ出しすとステージ上の少年“三雲 琴音”はどこか気持ちよさそうに演奏を開始した。
誰もがその美しき旋律に心の底から聞き惚れ、中には感動のあまり涙を流す者すらいた。
側から見れば異様で奇妙で奇怪で不思議な光景であるが、しかしどういうわけかみんな心から幸福そうだ……




