第一章その九 『謎の印③』
――つーか何見せられてるんすか俺ら……?
そんなふうに思いつつもセンスは目の前の小芝居のような恋愛劇を冷めた目で観ている事しかできない。
「なんじゃ、なんじゃ? 愉快になってきたの!」
センスの隣に立つハクトは目を輝かせ、腹を抱えてそんな状況を見守っている。
「な、何よそれ、何よ!」
「で、どっち?」
「……く、う、す、す、好きよ!」
「えぇ!?」
なんと不憫な話だろう。
ついこの間失恋したばかりのカコは目の前で惚れた女が別の男に告白する瞬間を見せつけられたのだ。しかも男の方はヘラヘラとふざけているという……
「じゃ、今日のところはこの香水俺に預けて大人しく帰ってくれるな? 俺の事好きって言うなら言うこと聞いてくれよ」
「わ、わかったわよ、その代わり、で、で、電話番号教えなさいよ」
樅木が快く電話番号を教えると女性は嬉しそうに帰って行った。
その後ろ姿に樅木は叫ぶ。
「そういや、この眼帯はダサくねぇからな!! チョーカッコいいからな!!」
「あっ突然キレてたのそこに対してだったんすか……」
もうほとんど姿の見えなくなってしまっている方から「ハーイ」と嬉しそうな声が聞こえてきた。
「ーーそれにしても名前も知らない女の人にあんな簡単に電話番号教えてもよかったんすか?」
「ん、あぁ、あれ適当な番号教えただけだから」
「……なんじゃそりゃ」
「あぁ、また会えるかなぁ名も知らぬあの美しき人に、会えたら次こそはこの想いを……」
カコはまだ失恋を引きずっている。普段では考えられないカコの姿にセンスは驚きを隠せない。
「なんかキャラ変わってないっすか、カコ」
「いい加減目を覚ませ、バカコ」
「あいて」
樅木がカコの頭を軽く殴る。
それでもカコはポケーと女性がさって行った方角を見つめていた。
「ーーそれより今回のこと奥さんに何て報告します?」
「ま、今回の依頼は旦那さんが奥さんに隠れて誕生日のサプライズプレゼントを用意してたってことで、奥さんには浮気はしていないって報告しとけばいいだろ」
「それが一番すかね、実際旦那さんも浮気したくてしてたわけじゃなかったみたいすもんね」
「それがよかろ」
「ーーそれより、樅木さんその香水のマークって一体なんなんすか?」
何故樅木があそこまで驚いていたのかわからないセンスは正直に聞いた。
「あぁ、このマークかーーセンス、俺たちが初めて会った時に姿を消す男を倒しただろ」
「え? あぁそうっすね」
正直その男を倒した時にはセンスは気を失っていたので、どうやって倒したか覚えてはいないのだが……
「その男あの後逮捕されて、俺一人で面会に行ったんだがよ、話を聞くと男もこのマークが描かれたバッチを持っていたんだ。そして、それを使えば姿が見えないようになったんだとよ」
「え、えぇ?」
ひどくファンタジーな話だが、体験している以上夢でも妄想の話でもないとセンスは考える。
「で、そのバッチは今どこにあるんすか?」
「さぁ」
「さぁって……どういうことっすか?」
「それがよお、奇妙な話なんだがな、そのバッチは警察に押収されたらしいんだけど、警察にその事を聞いてもバッチのことは覚えていないとよ――バッチのことだけじゃねぇ、男の姿が消えたのも忘れてらしい」
「はぁ? ……そういえば、あんだけ野次馬がいたのにニュースにもTV番組にも特にバッチの事なんて何も報道されてなかったすね」
確かにニュースでは手口不明の大量殺人と報道していたし、連日何やら頭の良さそうな先生方がテレビ番組でどう言う手口を使ったのか議論していた筈だ。
「もしかすると、あの場にいた俺たち以外の記憶が無くなってたりしているのかもな」
「記憶が……無くなる?」
馬鹿げた話ではあるが、実際自分自身が記憶喪失なので百パーセントあり得ないとは言い切れない。
あり得ないどころかもしや自身の記憶喪失と何か繋がりがあるのではとセンスは固唾を飲み込んだ。
「それにしても一体なんのマークなんだろうなこれは、帰ってちょいと調べるとするか、いや、その前に今回の報告書を作って」
「ーーんなことより飯じゃ、飯!」
ずっと黙っていて、これ以上は我慢の限界だと言わんばかりにハクトが叫ぶ。
「あ? あぁ、もうこんな時間かーーそうだな、飯に行くとするかーーおい、カコどこ行きたい? 振られてかわいそーだし、晩飯くらいは好きなもん奢ってやるよ」
まだしょぼくれた顔をしているカコを見て、一応の気遣いのつもりで樅木は話を振った。
「……じゃ、じゃあステーキで」
「あぁ!? 高けぇもん言いやがって、こんなことならあの女からいくらか貢いで貰えばよかったなーー仕方ねぇ、近くのファミレス行くぞ」
その後センスたちは近くのファミレスに寄り、諸々の事情は一旦置いておき、先にお腹を満たすことにした。




