第一章その九 『謎の印②』
去って行く男性の背を見て項垂れる女性を横目に、樅木は女性を優しく慰めようとしているカコヘ視線を移す
「――カコ」
「は、はい!?」
「お前は減給な」
「えぇ!!? そ、そんな……もともと給料なんてないに等しかったじゃないですかぁ!!」
様子がおかしかったのはどうやら香水のせいだとわかっていながらも冷酷無情な制裁を与える樅木。
その無慈悲な宣告により目が覚めたのかカコは悲痛な声で訴える。
――嗚呼やっぱり給料安いんすか……俺いくらもらえるんすかね……そもそももらえるんすっかね?
女性と同じように項垂れるカコへ不安げな顔を向けるセンス、そしてハクトはカコを見て大爆笑している。
三人三色なこの状況を他所に樅木はまたも女性に問う。
「あんた、もう一度聞くぞ、この香水どこで手に入れた?」
「……もらったのよ、知らない男から」
そっぽを向き、どこか不貞腐れていながらも、ようやく女性はまともに質問に答えた。
「知らない男?」
「えぇ、半年くらい前かしら? この香水は“見惚れの聖水”って言って吹き掛ければどんな異性でも数日間思いのままに惚れさせれるって異性関係で悩んでいた私に渡してきたのよ」
「その男ってどんなやつだった?」
「どんなって、いたって普通の男よ、スーツ姿で眼鏡をかけているような……」
「……ふーん、ま、いいや、情報提供あんがとよ、これは俺が預かるからあんたは帰っていいよ」
「ちょっと何勝手なこと言ってんのよ、その香水は私の……」
「ーーはいよー」
樅木はまだ喋ってる途中の女性の顔に突然香水をふきかけた。
「ちょ、ちょっとあんた!! ……なにすんのよぉ、もぉ〜」
口では文句を言いつつも女性の態度は明らかに変わった。
頬は微かに赤みを帯び、樅木を見つめるその目つきも鋭いものからどこか穏やかなものへと変化している。
「へぇ、こりゃ、ほんとに効果がありそうだなーーなぁ、あんた俺の事好き?」
「は……はぁ〜? そ、そんなわけないじゃん、馬鹿なんじゃない」
「ふーん、じゃ、嫌いなんだ」
「い、いや、好きじゃないけど、き、嫌いまではいかないわよ」
「えー好きか嫌いかどっちかはっきり言ってくれない?はっきりしない女って嫌いなんだよね俺」
樅木はニヤニヤしながら言う。その姿はあたかも新しく今まで無かった玩具を見つけ楽しみ遊ぶ児童の様であった。




