第一章その八 『怪しい香り②』
樅木に続いて各々が好きなように過ごしているとあっいう間に夜になり、教えてもらった職場の前まで行くとなぜか一同はあんぱんと牛乳を食べながら張り込みを始める。
「――あ、あの人じゃないっすか?」
しばし待っていると会社から写真の男が出てきた。女性はいつも夜遅く帰ってくると言っていたが時刻は聞いていた会社の定時を少し過ぎた位だった。
たしかに怪しいが男は今一人である。故に浮気とはまだ断言できない。
「ああ、たしかに写真と同じ男だな、よし、ついていくぞ、くれぐれも怪しまれないように」
「ういっす」
樅木たちは気づかれないようこっそり後をついていく。今更ではあるが尾行という行動にセンスは本当に探偵になったのだと実感した。
数分ほど後をつけると男は人通りのない路地裏に辺りを見回してから入っていった。
「いよいよ怪しくなってきたっすね」
「いや、この近くに秘密のプレゼント屋があるんだろ」
「もーサプラーズとゆー説はかなり低くなっとるじゃろ」
「あっ待って、誰か奥にいるよ」
センスたちは気付かれないように声を潜めて話していると、暗く、距離も離れているためよく見えないが、男性の前に女性が立っていて、二人は何やら話しを始めたらしい。
「ほれ、やっぱ黒だったのじゃ、ほれさっさと証拠写真をとらんか」
「まぁ、待て――センスあの二人の会話聞き取れるか?」
「……やってみるっす」
センス耳に力を入れるようにして聴覚を強化してゆく。
そしてラジオの周波数を合わせるように入り混じる他の雑音を消して二人だけの声が聞こえるように調整する。
「聞こえてくるっす」
「いいぞ、どんな会話してるか教えてくれ」
コクリと頷くセンス。聞こえてきた二人の会話の内容は大体こんな感じだ。
「もう、僕を誘うのはこれで終わりにしてくれないか」
「あら、なんでかしら?」
「僕には愛している妻がいる。今こうしている間にも僕の帰りを待っていてくれてるんだ」
「なによ、最初に誘ったのは貴方のくせに」
「あの時の僕はどうかしてたんだ、いや、あの時だけじゃない、最近君と会っている時の僕は何かおかしかったんだ」
「何よそれ」
「とにかくもう、僕と会うのも連絡してくるのもやめてくれ、いいね!」
センスは出来る限り二人の声真似をしながら会話の様子を三人に伝えていく。
「……センス」
「なにっすか?」
「女声きめぇ、普通に話せ」
「まじきもじゃ」
「えぇ……」
思いがけないダメ出しを喰らい、センスは助け舟を出してもらおうとカコの方をみる
「センスくん……普通に話してくれると嬉しいかな」
だが助け舟は出航せず、カコは申し訳なさそうに笑いそう言った。
「……わかったっすよぉ、えっとぉ、なになに」
センスは若干不貞腐れつつ、会話の盗み聞きを再開する。
「だいぶ、効果が薄くなってきたわね、こうなったら」
言われた通り女声をやめたセンスの口から何やら意味深な言葉が出てきた後、女性は鞄から何かを取り出した。
「……センスありゃなんだ?」
聴力の強化を一旦終え代わりに視力を強化させて女性の手元を確認すると、その手には中に液体の入った容器が握られていた。
「うーん、なんか香水……すかね?」
次の瞬間、女性はその香水らしきものを男に強く吹きかけた。
するとあんなにも女と別れたがっていた男の態度が一変した。
あんなにイライラした様子だったのに急にデレデレし始めたのである。
「すまない、やっぱり僕は君が好きだ、君のためならなんでもしよう!」
「ふふ、やっぱりすごい効果ね、これ」
そんな男の様子を見て女性は呟く。
「――なあ、なんか変じゃねーか? 何があったんだセンス?」
「さっき鞄から取り出した香水みたいなものを旦那に振りかけたっす、そしたら旦那の態度が一変して、君が好きだ、君のためならなんでもしようって言ってるっす」
「なんじゃそら? なんか香水にカラクリがあるってのか? ちょっとあの女の人に話を聞くか、よし誰か聞いてこい」
「えぇ、こういうのは普通依頼受けた人が行くもんすよね?」
「そーじゃーそなたがゆけ」
「出さなきゃ負けよ! ジャンケンぽい」
「あ、ずりっすよ!」
話している最中だと言うのに樅木はいきなりお馴染みの掛け声を放った。




