第一章その七 『メラッとゴーストリベンジャー⑤』
「本当にありがとうございました、これつまらないものですが……」
「これはどうもご丁寧に」
墓場騒動から二日経ち、お礼に訪れた瑠衣子と清太、今回はその二人のほかに義父も一緒に来ていて深々と頭を下げた後樅木に菓子折りを手渡した。
「その後清太くんの様子はどうですか?」
カコが問う。ちなみに義父にバレないよういつもの服装ではなく樅木から借りたアニメキャラが描かれたパーカーにマスクで口元を隠し伊達メガネをかけている。
「えぇ、体調の方は特に問題なさそうだし、新しい家にも慣れてきているのか少しずつ元気になってきているみたい。昨日もピクニックに言ったんだけど楽しそうにはしゃいでいたわ」
「へぇ、ピクニックですか、いいですね」
「ピクニックといってもお弁当持って近くの山のハイキングコースを登っただけだけどねーーそうだ、清太くんすごいのよ、登山中私たちも疲れているのにぐいぐい前に進んでいたのよーーね、あなた」
義父は「あぁ」と短く返す。
仲が良さような二人の姿にちくりと胸が痛むが、とりあえず義父から清太への虐待が止まっている事に安堵する。
「ほー凄じゃの」
ハクトに褒められて少しの間恥ずかしそうにしていたが、トテトテカコに近づき服の裾を引くと
「一緒に公園行こ?」
と言った。
もちろんと二つ返事で了承し瑠衣子達に一言断りを入れてから手を繋いでこの間の公園へと向かった。
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「あちゃー、残念だったね」
今日は前に訪れた時と違って休日、それも昼下がりのため、公園内は幼き闘士達でごった返しており、さながら戦場の如く遊具の取り合いに勤しんでいた。
まともに並んでいては一つの遊具を遊ぶためにもかなりの時間を有してしまうだろう。
「ううん」
しかしながら清太は別段落ち込んでいるようではなく、なにか言いたげにもじもじとしている。
「座ろうか」
「うん」
少し待っても言い出せそうにないと遊具達からかけ離れた位置に設置され誰からも眼中にされていないベンチに誘導し腰掛ける。
「あっ、そうだこれ返すね」
実際に使用することは無く、どちらかと言えば義父に取り上げられないために預かっていた指輪を清太に返す。
受け取った清太はそれを慈しむような目つきで見つめると
「ありがとう、僕の宝物……お母さんとお父さんを守ってくれて」
やっと形にすることのできたその言葉はカコにとってなりよりの褒美だった。
「どういたしましてーー新しいお義父さんにはあれからいじめられていない?」
瑠衣子は昨日楽しくピクニックに行ったと言っていたが、彼女の見ていないところでの様子も聞いておかないと、と考え質問する。
「うん、この前今までの事泣きながら謝ってくれたし、昨日もピクニックに連れて行ってくれて、それに帰りにお菓子をいっぱい買ってくれたんだ」
正直お菓子やモノで釣るのは汚いやり方だと思うが、それは自分の偏見かもしれないし義父だってそう言う接し方しか思いつかないのかもしれない。
なにより嬉しそうな清太の顔をみればそんな野暮なことは言えない。
「そう、良かったねーーまたいじめられたりしたらすぐ僕たちに言いに来るんだよ。絶対に今回みたいに家出なんてしちゃダメだからね!」
「うん」
そう答えた清太の頭を撫でながらそういえばとある疑問を思い出す、
「それにしても、晴太くんはどうしてあの洞窟にまで逃げてたの?」
センスやカコ達でも辿り着くまでそれなりにきつかった山道、ましてや幼い清太がなにを考えてあんな道外れの洞窟にまで逃げ込んでいたのだろう。
もしや昔の自分のように無我夢中で逃げた先にあの洞窟を見つけたのだろうか?
なんて考えるカコに清太は答えとなる理由を話し出した。
「えっとね、園でお友達にお話を聞いたの」
「お話? どんな?」
この時点でなんだか少し嫌な予感がするカコ。
「昔園を逃げ出した子があの洞窟でまるでヒーローみたいな素敵な人に出会えたんだって」
「……へ、へぇっ、そ、そうなんだ」
理由は完全に自分の過去話だった。
まるで一種の逸話のように園内で語り継がれていたのだろう。
ーーいや、しかしなんで?
園長先生には樅木との出会いの話をしているが、あの人はそんな事子供達に言いふらしたりしない人だし、他の先生方や瑠衣子だってそんな性格では無い。
ーーいったいなんであの話が子供達に広がっているんだろう? 他に知っている人なんて……
「……あ」
いた。一人あの話を知っていて、口も頭も軽そうな男が……
そう、樅木である。
昔強引に園のボランティアへ連れて行った時得意げになって子供達になにか話しているのを横目で見たが、きっとあの時だろう。(ちなみにこの時樅木は変な言葉や遊びを園内に流行らせたため、それ以来一切誘っていない)
噂が広がっていることを園長先生に伝えとくべきかなと思っていると
「でもあの噂は本当だったね」
「……え?」
「だって僕のピンチにお兄ちゃん達が助けに来てくれたんだもんーー僕も大きくなったらお兄ちゃん達みたいなヒーローになりたいんだ!」
「そっか、じゃあお義母さんの言うことをちゃんと訊いて、好き嫌いをしない事、あとは困っているお友達がいたらちゃんと助けてあげるんだよ」
「うん!」
今までで一番元気の良い返事だ。
それから二人はたくさんのことを話し合って、気がつけば夕暮れで遠くから聞こえてきていた少年少女の喧騒は収まっており、前回同様瑠衣子が迎えにきた。
「ありがとねカコくん」
「いえいえ、そういえば旦那さんは?」
「今日の晩御飯の買い物に行ってもらってるの」
「そうですか」
瑠衣子は嬉しそうに答える。
「あの、瑠衣子さん」
「ん? なあに?」
「旦那さんはいい人ですか?」
その顔を見れば帰ってくる答えなど分かっているし、ただ傷口を抉るだけだと言うことも分かってはいるが聞かずにはいれなかった。
「えぇ! 少し怖く見えるけどとっても優しくて頼りになる人よ」
予想通りの答えに胸を締め付けられたカコだったが
「そう……ですか……良かった! お幸せに!」
涙は見せない。
代わりに太陽の如く微笑みで、心から瑠衣子の幸せを祈った。
そして二人と別れた後の帰り道をカコは走った。思いっきり走った。胸がどれだけ苦しくても、心臓がどれだけ鼓動を早めてもただ走った。とにかく走った。
鼻がツーンとしてきても、視界が滲んできても、立ち止まることはなかった。
火酉鹿子 十六歳、彼の幼少期より長く続いていた初恋は失恋という形で苦く切なく幕を閉じた。




