第一章その七 『メラッとゴーストリベンジャー④』
男の匂いがだいぶ遠ざかったのを確認してからセンスとハクトはカコを労うためにそばへと歩いて寄る。
「いやー、火の槍をあの人に打ち込もうとした時は驚いたっすよ」
「そーじゃ、突然台本にねー事するんじゃねーのじゃ」
カコが三人に話した当初の作戦では火の玉と振り返っても誰もいない事で男を驚かすだけで、首を絞める事と火の槍はぶっつけ本番でのアドリブだった。
だが、当初の作戦だけでは男もまだ強がり、やり返す気力を保ち改心などすることも無かったであろうから、結果としてそのアドリブは大成功と言ってもいいだろう。
「ははっ、ごめん、ああした方があの人ももう清太くんに意地悪できなくなるかなって咄嗟に閃いたんだ」
「……カコ、震えてるっすよ」
「え? あ、本当だ……今更になって震え始めるなんて、
「無理もないっすよ、あの人ブチギレてて遠くで見ていた俺も怖かったっすもん、よく冷静でいれたっすねカコ、流石っす!」
「いや、そうじゃなくて僕が怖かったのは……まぁいっか」
顔つきを神妙なものから笑みにシフトチェンジしてカコは痛てて、と何度も殴られた顔を痛そうにさすりつつ話をはぐらかす。
「それにしても派手に殴られていたっすね」
「怪我の方は大丈夫か?」
「うん、ちょっと痛いけど絆創膏貼っておけば大丈夫だよ。まさかあの状態から攻撃されるなんて思ってもなかったな」
「ーーおいおい、お前ら、俺も褒めろよな」
そんな馬鹿げた事を本気で言うのは非常識にも墓を背もたれにしてぐったりと座る樅木だった。
「樅木さんもお疲れ様でした」
厚かましい申し出ではあるが、今だけは正直に感謝を讃えることにする。
「凄かったっすよ樅木さん」
「わしもちっと見直したぞ」
「マジでくたくただぜ」
そうは言っても褒めてもらえてどこか嬉しそうにしている樅木。
薄々気づいていた人もいるかもしれないが一応種明かしをすると、カコが何度も男の背後に回ったり、跨られている状態から逃げ出せたのはカコに瞬間移動の能力が新しく芽生えたからでない。
全部樅木が時を止め、その間に一人でカコの位置を移動させていたのだ。
つまり今回のMVPはカコではなくどちらかと言うと樅木なのほうがそれにふさわしいのだ。
ちなみにカラスにはハクトが命令し、犬の遠吠えはケルベロスによるものであった。
「昨日の俺らの気持ちがわかったんじゃないっすか?」
「いやいや、普通社員ってのは所長の十倍以上苦労するもんだろ?」
「もう帰ろうか」
「そうっすね」
「そーじゃのさっさと帰って寝るとするのじゃ、夜更かしは美容の敵じゃからの」
樅木の軽口に付き合うものはおらず、三人とも完全に無視をすると墓に向かって手を合わせ
「今度また清太くんと一緒に来ますねーーよし、じゃあ帰ろうか」
「そなたらもサンキューの!」
墓地から踵を返すさなかハクトは手をメガホンのようにして夜空のカラスたちにお礼を言うと、カラスたちは「カァァッ」と鳴いて夜空の一部に溶けるように飛び去っていった。
ありがとうと感謝を告げながら手を振る
「ーー夜食でも食べに行こうか? 手伝ってくれたし僕が奢るよ!」
「ほんとっすか!」
「やったのじゃ! わしラーメンが食べてーのじゃ!」
「ラーメン? いいけどこの時間に空いている店あるかな?」
ハクトが嬉しそうに携帯を取り出し近くのラーメン屋で検索をかけると、ここはどう? ここもいいんじゃないっすか、等と楽しそうに話しながら歩く。
背後からは、おーい、とか、黒のんの事忘れてるよ〜、なんて声が聞こえるが
ーーきっと幽霊の声っすね
なんてセンスは気にしない。
「……信じられねぇ……あいつらマジで所長様を置いていきやがった」
勿論声の正体は幽霊などでなく、一人暗い墓地に置いてけぼりをくらった樅木のもので流石に一人で夜の墓地は怖いのか清太の義父みたく体を震わせている。
「くっそぅ、あいつら最近生意気になってきやがって、カコのバーカ、センスのナンセンス野郎〜、ハクトの胸なし!」
どんなに強がって悪態をついても帰ってくるのは静寂のみ。
仕方ない、怖いけど一人で帰るしかないかと周囲を照らすために懐中電灯を取り出そうとポケットに手を伸ばす。
「がうる!」
「ぎぃやぁぁ!!」
がその途中で突然すぐ隣から聞こえた声にそこそこの悲鳴をあげてしまった。
震える手で懐中電灯を取り出し照らしてよく見れば隣に立ち尻尾を振るのはハクトに樅木を連れてくるように頼まれたケルベロスだった。
「……な、なんだよケルベーかよ脅かすなよ」
口ではそう言いながらもその小さな身体を強く抱きしめる。
たとえケルベロスでも一人では無いと言う事はかなり安心できたのだ。そして心臓の激しい暴れを感じながらもこんなところ一刻も早く出て行きたいとケルベロスを抱きしめるままに立ち上がった。
ちょっぴり下着、それもパンツが湿っているのはきっと疲労によって大量にかいている汗のせいだろう。




