第一章その七 『メラッとゴーストリベンジャー③』
「いいか? 正直に答えろよ?」
「……あんま調子にのんじゃねぇ!」
男はいきなり怒鳴って背後に立ち首を握るカコヘ向けて肘鉄を繰り出す。
こんな状態で反撃してくることはないだろうと高を括っていたため完全に不意をつかれてしまいそれを避けることは叶わず横腹に男の肘がめり込む。
「ぐふっ!?」
予想だにしていなかった激痛に思わず男の首から手を離してしまい、その隙に男は振り返りカコの腰あたりを蹴りつける。
「つっぅ!」
「……なんだぁ? お前、子供じゃねぇか」
倒れてしまったカコを見下ろしながら踏みつけた後男はカコに馬乗りになる。
「舐めた真似しやがって、顔見せやがれ」
男は身動きの取れなくなったカコの口元、正確には口元の火傷を隠している服のチャックを下ろしてやろうと手を伸ばしたが、その手はカコが発生させた炎によって防がれる。
「あっつ! んだよコレーーこの周りをふよふよしてる火の玉とか背後に移動しまくってたのもどうせなんかのトリックなんだろ? くだらねぇんだよ!」
幽霊なんかではなく、目の前の子供の悪戯だと気づいてしまった男にもはや恐怖心などは無く、靴を脱ぎ手にはめると、それでカコの顔を殴る。
「っっつ!」
「足のねえはずの幽霊が靴で殴られるなんてなんか笑えるなあ?」
「ぐぁっ、がぁっ」
「オラっ! 大人舐めたらどうなるか理解させてやんよ! 清太みてぇによ!」
「カコ!! ーーんぐぅ!?」
身動きが取れないままに何度も何度も顔を殴られ続けるカコの姿に隠れて見ているセンスは思わず声を上げて近くへと駆け寄ろうとしたが、隣のハクトがその口と体を押さえる。
「ちょっと待つのじゃ、センス」
「……待つったって、早くカコ助けにいかなきゃ……」
「カコを助けるのは大丈夫じゃ、もー助けを頼んどるからの」
「助けって?」
「大人舐めてたらどうなるか教えてや……うぉっ!?」
ハクトが答える事もなく、言葉の意味は男の驚く声によって判明した。
夜空を覆っていたカラスのうちの一匹が男のすぐ目の前まで目掛けて飛んで行ったのだ。
カラスの鳴き声に五月蠅いと思っていながらも、意識のほとんどを眼前のカコヘと向けていたため、意表をつかれた男は大きく体を反らせた。
「んだよ、びびらせやがって……アレッ?」
カラスはすぐに再度闇の一部に戻るべく飛び去っていき、視線を戻すとカコの姿が消えていた。
驚いていたほんのコンマ数秒の隙を見て逃げたのだろうか……
いや違う、と男は即座にその考えを否定した。
どんなに隙だらけだったからと言って、ついさっきまで跨っていた為そんな状態から抜け出された事に気づかないわけがないだろうと思ったのだ。
「なん……で……?」
さっきまでカコの頭が今はただ防草用の砂利が敷かれているだけの地面をありえないと見つめていたら、そこに突然変異靴が現れ
「清太くんの事もさっきみたいに殴ってたんだな……このクズが」
「ひぃっ!?」
声がする方、すなわち頭上に視線を上げるとそこにはやはりカコが立っており、何度も殴りつけた顔を火の玉の光に照らしてこちらを睨みつけている。
「お、お前、ま、ま、マジな、なんなんだよ!?」
「もう、そんな事どうでもいいだろうが」
静かに、それでいて十分以上に怒りを感じさせる目つきを向けたままカコは右手を横に伸ばす。
するとふわふわと舞うように浮かんでいた火の玉が吸い寄せられているようにそこへ集まり合体してゆき、やがて一つの大きな火の玉になった。
「……」
男は何も言えない、口からは呻きに似た何かしか出せない。
火の玉の巨大化に伴って強くなった灯りによって口をただバクバクと動かしているのが見える。
パチンッ、カコが指を鳴らすとその火の玉は捩れ始め、一本の燃える槍のような形態へと姿を変えた。
「……コレで今からお前を撃ち抜くからな」
「え!?」
と言う男と同じような反応を遠くで聞いているセンスも見せていた。
「どーした?」
急に驚きを見せたセンスに問うハクトへと今回は無視する事なくちゃんと返す。
「カコがなんか火の槍で男を攻撃するって言ってるんすけど、そんなの作戦で言ってたっすっけ?」
「火の槍って、そんなのわしも別に聞ーてねーのじゃ」
「やっぱそうっすよね……」
ーーじゃあなんであんな事をしてるんすかね? ……もしかして怒りで我を忘れてるんじゃ!?
センスたちの不安など知らず、火の槍はまるでドリルが如く回転を始め、男へ向けて発射された。
「死ね!」
「うわぁァァァァァっっッッッ!!」
虚勢を張るような余裕なんてものは無く、ただ迫る人生で体験したことのない初めての恐怖に男はついに顔を涙や鼻水、汗でくしゃくしゃにさせる。
そんなこんなの間についに火の槍は男の服に当たった。
「ギャァッッッ」
火の槍が当たった瞬間男は激しい熱ではなく、じんわりとした温かさを股に感じていた。
見れば男は尿を漏らしていてそれを故人が眠る墓の土地に染み込ませてゆく。なんと罰当たりな事であろうか。
「あっ? あれ? あれ?」
しばらく目を瞑ったままだった男はいつまで経っても何も起こらないので、目を開き火の槍が当たったであろう場所を確認した。
そこはただ服の腹部分の一部が焼けて穴が開き中の肉体が見えているだけであり、その周辺を撫でてみるがどこにも火傷の跡はない。
「……火の槍はお前の体内に入れてやった」
「……た、体内?」
「ああっ、もしお前がまた清太くんに暴力を振るったりしたら体内から炎が上がって焼け死ぬ事になるからなーー逆に言えば清太くんに何もしなければ炎は出ないようにしてある」
「わ、わかりました」
みっともないほどガチガチ歯を鳴らせている男は涙声になっていた。
「ーー清太くんに感謝しろよ?」
「え?」
「あの子な貴方にいじめられていながらも貴方の幸せを考えていたんだよ、じゃなきゃ貴方は今頃消し炭だったよ?」
「せ、せ、清太が……?」
カコが怖いのだろうか、死ぬかもしれなかった恐怖から立ち直れないのだろうか、それとも清太が自分を庇っていてくれていた事実に感動しているのだろうか? はたまたそれら全てなのか
さまざまな情景によって男の表情からはイマイチ何を考えているのか読み取れない
「まぁいいや、さっさと帰れ、さもないと次は本当に燃やすぞ?」
カコは静かに言うが耳に届いていないのか男は何もない宙を何やら思うことがあるのだろうか、ただ見つめていた。
「帰れって!」
「……は、はいっ! す、すみませんでしたぁ!」
強めに叫ぶ声にハッと意識を戻した男は脱いだ上着で股を隠しながら、震える足で墓地からよたよたと走り去っていった。
「ふうっ」
その背中を見てカコはヘナヘナとその場に座り込んだ。
「ーーナイス演技だったっすよカコ」




