第一章その七 『メラッとゴーストリベンジャー②」
「ーーどーじゃセンス? わしには何も聞けんが、カコの作戦とやらは成功しそーか?」
お気づきの方もいるかと思われるが、今現在男の背後で首を絞めている自称幽霊はカコであり、センスとハクトの二人は少し離れた所で様子を伺っていた。
と言っても状況を十分に把握しているのは暗闇でもよく見える目と、離れた場所の言葉を聞き分けれる耳を持ったセンスだけで、一般時と同レベルの視力と聴力のハクトにはぼんやりと火の玉が見えるくらいでカコたちの会話などまるで聞こえていない。
「……」
「センス? どーかしたか?」
「……いてっ、いきなり何するんすかハクト」
自分の言葉が続けて無視された事に腹を立てたハクトはセンスの頭を軽く小突く。
「先輩をシカトとは良しな度胸じゃの」
「無視? あっ、なんか話しかけてたっすか? ごめんっす、あっちの会話を聞くのに集中しすぎて聞いてなかったっす」
それは半分嘘で、実際には二人の会話を聞くのに集中していたのでは無く、カコの雰囲気の変貌ぶりに驚いてしまっていたのだ。
「ハクトちょっと聞きたいんすけど」
「……なんじゃ?」
ハクトはわかりやすく臍を曲げて、睨むような目つきを向けているが構わずに続ける。
「カコが本気で起こった事見たことあるっすか?」
「カコが? ーーん〜モミにグチグチ言っとるのは何度か見るが、マジギレは見たことねーかもの」
「そっすか」
「でもそれがどーかしたのか?」
「別に、なんかちょっと気になっただけっすよ」
言葉を濁しつつ会話もそこらで切り上げて再度二人に視線を戻す。
やはり見間違いではなく、カコは今も男の首を絞めている。その光景に微笑みの里で園長先生から聞いた
ーーあの子が誰かに怒っているのを一度も見たことないわ、他人への怒り方を知らない、怒りを解放できないのよ
と言う台詞を思い出し、センスはなんだか嫌な胸騒ぎを覚えた。
ーーそういえば俺らに作戦を話していた時も様子がおかしかったすね……
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時は数時間ほど巻き戻り、清太たちと別れた後事務所に帰ったカコは清太が語った家出の理由を皆に報告した後の事
「……それが本当なら、すぐにでも清太くんを助けるべきっすね」
「……そーじゃ! その義父が清太に乱暴しとるって瑠衣子に言ーのはどーじゃ?」
「……馬鹿かお前は」
いかにも名案だろ? と言いたげなドヤ顔を浮かべたハクトへとすかさず樅木がつっこむ。
「誰が馬鹿じゃ!? なんで馬鹿じゃ!? 理由を言ってみー!」
「自分で考えて分からねえんなら、お前は十分立派な馬鹿だ!」
「んじゃと!?」
「ーーごめんハクトちゃん、僕もハクトちゃんの案は反対だよ」
いつもであれば二人の会話もとい言い合いをやんわりと宥めているだけのカコがキッパリとハクトの案を却下した。
「なんでじゃ?」
いつもと違うカコの言動にハクトはきょとんとした顔で素直に聞く。
「……ハクトちゃんの案を採用したとして、一番悲しむのは誰だと思う?」
「そりゃ、罪がバレる義父じゃねーのか? まっ、百パー自業自得じゃがな」
「外れ」
鼻で笑うハクトにカコは冷静に答える。その眼差しはどこか悲しそうだ。
「正解は清太君だよ……」
「にゃ!? なんでじゃ?」
「あの子はそう言う子なんだよ……優しすぎるんだ、自分よりも他人の気持ちを優先してしまうんだよ、だから……」
「ーーだから昔の自分の姿と重なって見えたってのか?」
続きをなかなか話出そうとカコに代わり、分かった風に発せられた樅木の台詞、それに驚いたように目を大きく見開いた後小さく笑みを見せる。
「そうなんです……かね?」
「おいおいカコ、お前自分の感情すら分かんねぇのかよ」
困ったように眉を下げて樅木は笑う。
「ま、話を聞く限りじゃ俺はお前らは似たモン同士だと思うけどな、清太のあの態度も出会った時のお前そっくりだったし」
「ーーへぇっ、意外に結構人の事見てるんすね樅木さん」
相手が子供であれなんであれ他人の観察を欠かさないのは、腐っても探偵所所長という自覚を心の片隅には持っているからなのだろうか
「あぁそうだぜ、なんたって俺の趣味は人間観察だからな」
……そんな事は無かった。
「人間観察? そんなもんしてるの一回も見た事ないんすけど」
「ば、ばーか、バレたら監察になんねーだろうがよ」
明らかに嘘だろうとセンスとカコは理解する。
きっと“人間観察”と言うものが好きなのではなく、“人間観察が趣味って言っている自分”が好きで、あらよくば“そんな趣味を持っているなんてカッコいい”と思ってもらいたい。なんて幼稚な考えから来た発言だったのだろう。
「いやー人間観察も案外奥が深くてな、まずは目の位置、そう会話中相手の目がどこについてあるかで何考えているかわかるんだぜ」
ーー目の位置なんてみんな一緒に決まってるっすよ
呆れ顔に気づかないままにいい気になってよく知りもしない人間観察のなんたるかを語らんとする樅木を見てるとセンスはなんだか顔に熱を感じてゆく。
「あとはえっと、……鼻な! 鼻の穴が何個開いているかでも……」
いよいよ嘘が雑、というよりもトンチンカンになってきた。
「ま、まぁ人間観察の事は一旦置いとくっす、話脱線しすぎっすよ」
これ以上黙って聴いているのは無理だった、なんだか全身がむず痒く、鳥肌すら立つ。
「あぁ? そうか?」
「そうっすよーーカコ、どうやって清太くんを救うか考えているっすか?」
「うん、もう作戦は考えてるんだーーあのさ、悪いんだけど協力してもらってもいいかな?」
「もちろんっす」
「まっ、子供助けるためじゃし、しゃーなしじゃな」
「ありがとう二人とも」
二人は快くカコのお願いを承諾したのだが、一番の問題児は悪く微笑む。
そして言う。
「俺も手伝ってやっても良いけど、報酬はきっちりと払ってもらうぜ?」
咲夜あれほど迷惑をかけた男とは到底思えない台詞をいとも容易く口にする。
「……そうですか」
「樅木さん、あんたって人は……」
すでに呆れにもならない表情を見せているセンスに
「センス君、樅木さんの事どれだけ評価してる?」
突然カコはそんな質問を投げかけた。
「えっ? 樅木さんの評価っすか? 昨日の件でめちゃくちゃ下がってかなり低いっすよ」
「へ?」
冗談でも何でもなく、ただ自分の思っている事を正直に答えたセンスへと樅木は勢い良く視線を向ける。
「ハクトちゃんは?」
樅木の反応など気にせず、ハクトにも同様の質問をなげる。
「わし、そもそもモミの事なんか評価してねーのじゃ」
「えぇ!?」
「……これが社員たちの心からの本音ですよ樅木さん」
「んだよ、何が言いてえんだよ?」
もしかしたら泣いてしまうのではないかとおもうほど気持ちを沈める樅木、代わりに今はカコが悪く微笑む
「樅木さん、僕の作戦を手伝ってくれたらきっとみんなの評価上がりますよ?」
「……わーたって、やるよ、やるやる! 何でも手伝ってやるっつーの」
「おぉー俺、樅木さんの評価が上がったっすー」
「わしもー」
演技である事を全く隠そうとしていない明らかな棒読みのセリフに樅木は若干眉をひそめ今にも文句を言い出そうとしていたが、長くなりそうだったので樅木の口が開く前にカコは自身が考えた作戦を三人に伝え始めたのだった。




