第一章その六 『クロモミアフターサービス③』
「ごめんね、辛いことを思い出させちゃって」
「ううん、僕こそ泣いちゃってごめん」
清太は泣き止んだ後とりあえず近くのベンチに座り、リュックサックからフレアマンの印刷されたポケットティッシュで涙や鼻水拭いて無理に笑った。
ーー僕はこんな小さい子に気を遣わしちゃってるのか
「これ開けてもいい?」
「もちろんいいよ」
胸を痛めるカコを前に清太は喜びを装うべく精一杯の作り笑いを見せる。それにまたカコの胸はちくりと痛むが、出来ることはこちらも笑顔を作って返すことだけだった。
「ありがとう!」
無理した笑顔のままに袋を開ける清太の姿に、こんな事くらいしかしてあげる事のできない自分の力の無さにカコは腹を立てる
「お兄ちゃん見て! バーニング男爵だ!」
清太は、袋の中に同封されているおまけのカードを確かめ出てきたキラキラと日光みたく輝く加工が施されたカードを見せてきた。
「うわぁ、カッコいいね」
“バーニング男爵”は何も考えずにただ怪人を燃やして倒すだけのフレアマンと違い、苦しんでいる人は絶対に見逃せない、それが例え敵であろうと持ち前の太陽の如く暖かい心で救いの手を差し伸べる
作中では甘い奴などと評されているが、カコにとっては子供の頃からの憧れであり、目指すべき人だった。
ーーもしもバーニング男爵ならこんな状況でどうするのだろうか?
なんて既に答えのわかりきった事を考えていると、不意にすっと清太はカコヘカードを差し出す。
「え?」
「お兄ちゃん、バーニング男爵が好きなんでしょ? だからこれあげる」
少し恥ずかしげに照れながらも屈託のないその笑顔と優しさに
ーー僕は馬鹿か!
答えが既にわかっているのなら、取るべき行動も既に決まっているだろう、と気合を入れるように両手で頬を叩く。
「お兄ちゃん?」
「清太くん、なんで家出をしたのかお兄ちゃんに教えてくれないかな?」
目をパチクリさせる清太の両肩に手を置き、真っ直ぐ目を見て聞くが、やはり樅木と瑠衣子が聞いた時同様俯いてしまう。
だがその反応は想定内であり、カコはこう続ける。
「実はお兄ちゃんはねフレアマンのお友達なんだよ!」
思惑通り清太は顔を上げて見開かれた目で見てくる。
「ほんとう?」
「もちろん! ーー見ててね」
空へ向けた手のひらからぽわっと優しい温かさを発する火の玉を出現させてからシャボン玉のようにふわふわと宙に浮かし動きを操作すれば、直ちに清太はそれに釘付けになる。
数十秒ほど空中飛行させてから手のひらに戻すとそのまま握りしめ、再び手を開いたとてそこには何もない。
「ほらね本当でしょ? だからなんで家出したか教えてくれないかな? 悪いものは全部僕が燃やして解決してあげる!」
「じゃあさ、あのね……あのね」
「うん、なあに?」
言いづらいのかもじもじと地面を見つめていたが、腹を決めたのかどこか引き攣った顔をカコに向け
「僕のこと燃やして?」
「……え?」
カコは空いた口が塞がらなかった。耳では無く目を疑う。
一瞬……ほんの一瞬だけだが重なって見えたのだ。
目の前の少年と過去の自分の姿が……
「燃やしてって……なんで……?」
「僕は僕が嫌なんだ……だから」
「馬鹿!!」
公園内に怒声が響く。
それにびくりと反応した小さな体をカコは力一杯抱きしめて
「馬鹿! 馬鹿馬鹿馬鹿! 馬鹿ぁ!!」
何度も何度も、まるでこだまのように連続して叫び、その度に抱きしめる力を強くしてゆく。
「……お兄ちゃん……どうして泣いて……」
涙ぐむカコにそこまで震える声で問いかけ清太もつられて泣いた。
先刻の声を殺して静かにでは無く、まるで感情という名のダムを爆発させたように、張り詰めていた糸が切れてしまったように公園の中にも外にも声が届くほど大きく声を上げて泣いた。
「僕ね……いらない子なんだ、だから新しいお父さんは僕の子嫌いで……僕の事を叩くの……でも新しいお母さんは僕に優しくって……」
リュックサックからフレアマンが描かれた小さなポーチを取り出し、中身を全部膝の上へと放出する。
キャラ物のカードやシール小さな人形が、大半を占めていたが、その中にどう見ても不釣り合いな豪華な造りの箱が二つ紛れ込んでいた。
「……これね、パパとママの形見って奴なの」
「そっか、大切な物だね」
「……」
「どうしたの?」
「……新しいお父さんって僕のお父さんの弟なんだって、だからこの指輪は自分のものだから寄越せって取ってこようとしてくるの……だから僕逃げて……それに……」
突然語り始められた恐らくは家出をしたであろう理由にカコが反応をどう返すべきか考えているうちに清太は服の裾を捲った。
「……僕が渡したくなかったから指輪隠したって嘘言ったら殴られたの」
ごくりっ、といくつかの青あざが浮かぶ清太の体を見て恐怖や怒りなどの感情にカコが喉を鳴らす。
「その事、瑠衣子さん……新しいお母さんには言ったの?」
「言ってない」
「なんで!?」
思わず荒げてしまった声に清太はびくりと体を跳ねさせ、カコは慌てて謝罪する。
「あぁ、ごめん、怒ってない、怒ってないよ」
「……から」
「え?」
「……あの二人……仲良いから……僕が言ったら……仲悪くなっちゃうかも……」
ーーこんな状況で不幸な自分よりも、自分を不幸にしている原因とも言える人の心配をするなんて
「……君は本当に優しいんだね」
目頭がじんと熱くなりながらもなんとか言い終えてから清太を心配させまいと気づかれないよう目元を拭った。
「よし、僕に……僕達“クロモミ探偵事務所”に任せて! 新しいお父さんが清太くんに意地悪しないようにしてあげる」
「ほ、ほんと!?」
「うん! ーーそのために二つお願いしてもいいかな?」
「……なあに?」
「まずその二つの指輪を貸してもらえる?」
「いいよ、はい」
驚くほどあっさり清太は指輪を差し出した。
清太のその行為に自分は信用されているのかなとこんな時だというのにカコは少し嬉しくなってしまう。
「もう一つは?」
「家に帰って新しいお父さんに指輪はどこだって聞かれたらこう答えて欲しいんだ。お墓に隠したってね」
「……? わかった」
「お願いねーーよし! じゃっ遊ぼうか!」
「え?」
「せっかくこんな広い公園にいるんだよ、今くらい嫌な事を忘れて楽しもうよ!」
「……うん! ーーうわっ!」
「お兄ちゃん号発進!」
カコは清太を肩車して公園内を駆け回りその後も設置されてる全ての遊具で遊び尽くした。




