番外の章 『カコナビゲータ&ある日森の中 side樅木 (前編)』
「ったくよぉ、仕事っつーのは助け合い、支え合いが大事だろうが、俺は捜索苦手なんだからあいつらに全部任せても無問題だろよ」
仮にも探偵社所長という肩書きを持つ一国一城の主が吐くものではない発言である。
「なぁ、お前もそう思わないか? ケルベー」
「ガウル!」
そんな言葉に彼の部下兼ペットであるケルベロスは賛同する事なく、それどころか「ふざけたこと言うんじゃねぇ」と言わんばかりに歯を剥き出して怒りを見せる。
「ひぃっ、わーたってーーったく、犬の分際で偉そうに……」
「ガルル?」
「お、お前最近ハクト以外の人間の言葉も分かってきてねーか?」
「がう〜」
「そうだよ、すごいだろ?」と言うように誇らしげな顔をするとともに胸を張るようなポーズを取るケルベロスに
「ふ〜んーーバカ犬……痛ってぇ! ごめん、ごめんってぇ!」
どうせ理解できてないんだろとたかを括り馬鹿にした発言を放った樅木であったが、どうやらケルベロスはその言葉を理解しているらしく怒って脛にかみついた。
平日の昼間、眼帯に黒コートの大の男が、珍しい見た目ながらも愛らしい小型犬に謝るその姿は学校などで危ない人、近づいてはいけないやばい奴と注意喚起が伝えられるそれだろう。
どうやらケルベロスは相当樅木に対しておかんむりらしく、数秒経過しても脛から歯を離さない。
「いったい! ほんと痛いって!! ーーええい! これを見ろ! これが目に入らぬか!」
足を上げてそのまま持ち上げても、ぶんっ、と振っても、まるでスッポンの様にかみついて離れず、樅木は最後の手段としてある物をポケットから取り出した。
樅木がポケットから出した物はケルベロスの大好物であるチーズで、それを一眼見た瞬間かみつくのを辞めたケルベロスは目を輝かせ尻尾を振りながら樅木の前でおすわりをした。
「がうる!」
「はっはっはー! こんなチーズ一個で従順になるとはこの駄犬め、ホレッお手!」
今回は悪口を言われても特に気にせず、言われた通り差し出された樅木の手のひらに自身の前脚を置こうとするが
「がうる?」
「なーにやってんの? こっちよ、こっち」
ケルベロスが前脚をおこうとした瞬間に樅木は手のひらを動かしたため空振る。
すぐに、移動した位置にある手のひらに前脚を置こうとするもこれも空振る。
「がぅ〜」
樅木のいたずらにケルベロスはかみつくのではなく、悲しそうな顔と声で訴える
「うぐっ、わかったよ、わかった、わかった」
流石の樅木も小型のそれも愛犬にそんな顔を向けられてしまってはいたずらを続けることは出来ない。
「よ〜し、よし、いいかケルベー、この匂いをよ〜く嗅げよーーホレッ! 取ってこい!!」
「がう! がうる!!」
今にも飛びついてきそうなほどチーズをじっと見つめるケルベロスに匂いをしっかりと覚えさせると、樅木はそれを思い切り投げ飛ばした。
それと同時にケルベロスはチーズを追って駆けてゆく。
「がうる! がうぅ〜?」
しばらくしてチーズを口に咥えて嬉しそうにケルベロスは帰ってきたが、そこに樅木の姿は無かった。
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「ケルベーと一緒にいるとサボったのハクトにちくられちまうからなぁ」
樅木はチーズを投げてそれをケルベロスが追って駆け出した瞬間に逃げ出していたのだ。
「いや〜、にしてもいい天気だな、絶好のサボり日和だぜ」
両手を頭の後ろで組み、特に何も考えずに歩いている樅木、どうやら本当に捜索をするつもりは一切ないらしく
ーーハクトの能力がありゃ何とかなるだろう、ハクトが無理でもセンスもいるし大丈夫だな
本気でそんな事を考えていた。
しばらく何も考えずにぶらぶら歩いていた樅木はとある店の前で足を止める。
そこはゲームセンターであり、あろう事か樅木は悩む事なく中へ入る。
「子供だし、もしかしたらこん中にいるかもな」
そう呟くが、それはもちろんただの建前、誰に言ったわけでない自分自身への言い訳であり、事実樅木は子供の捜索ではなく、店内に設置されているUFOキャッチャーの景品を確認し始めた。
その後もメダルゲームや、対戦型ゲームなどを遊び尽くし、気づけば入店から二時間以上経過していた。
「んん? もうこんな時間か、さ〜てそろそろ飯でも食いに行するか」
もはや依頼の事など、この男の頭からすっぽ抜けているらしい。
空腹を知らせる音を鳴らせた腹をさすりつつ、長時間腰を下ろしていた椅子から立ち上がり店を後にしようとしていると、電話がかかってきた。
「ん? カコからかーーうぃっ、もしもしぃ〜こちら樅木」
「樅木さん、カコです」
「うん知ってる、なぜなら画面に名前が表示されていたからぁ〜」
「……なんですかその話し方?」
「最近お気にのアニメキャラの真似ーーんな事よりなんのようだ? 子供は見つかったのか?」
「その事なんですけど、センスくん凄いですよ、本当に子供の匂いを探し当ててくれたんです!」
「そりゃすげえな、それで子供はもう見つかりそうなのか?」
「それが、清太くんの匂いが山からするらしくってーーほら、覚えてます? 僕たちが出会ったあの山なんですけど」
「そりゃ覚えてるさ」
「なので、僕たちはこれから清太くんを探しに山に登りますね」
「おう、任せたぞ!」
樅木は携帯を耳から離そうとしたのだが、電話の向こうから
「……ところで」
と言う話を続けようとする言葉が聞こえてきた。なんだか先までと比べて冷たい感じがするのは気のせいだろうか
「なんだよ?」
「樅木さん今どこにいます?」
「な、なんだよカコ、束縛彼女ごっこか?」
「そう言うのいいですから」
震える心を落ち着かせ、いつものようにおちゃらけた感じで流そうとしたのだが、カコはそこまで甘くない。
「商店街だよ、しょーてんーがーい! 今まで聞き込みしてたんだっつーの」
樅木は嘘をつくのが上手いと自負している。普段おちゃらけている分少しでも真面目な雰囲気をだせば大抵の相手を騙すことができたのだ。
「そうでしたかお疲れ様でしたーーでもおかしいですね」
「なにが?」
「商店街にゲームセンターはありませんよ?」
しかしどうやら長年共に過ごしているカコには嘘が通じなかったらしく、笑いながらも低いトーンで言う。
「いぇっ!?」
「新しく出来たんですか? 今晩じっっくりと教えてくださいね、じゃっ」
「おい、ちょっまっ……」
問いかけ虚しく、電話の向こうから聞こえてくるは通話終了の音だけだった。
「……ヤッベェな、カコ怒っちゃってるよ、どーすっかなぁ」
頭を掻きながらとにかく一旦ゲームセンターを出て近くの店で軽く昼食をとった樅木はどうすれば説教から逃れられるか悩みに悩み、そしてある事を閃く。
「そうだ! くっくっく、久々に所長様の実力ってを思い知らせてやるとするか」




