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ハイセンスワールド  作者: 桐生 ライア
五感探偵編
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第一章その五 『ある日森のなか④』

 僅か数分走った先にそれはあった。

 水捌けが悪いのか周りの土壌は泥濘んでいる所が多く、苔で覆われた自然産の洞窟である。


 「あ! この洞窟僕と樅木さんが会った所だ!」


 「本当っすか!?」


 「うんーーってそんな話ししている場合じゃないね! 早く入ろう」


 洞窟の中へ入ると、まだ陽が登っているというのに薄暗く、まさに一寸先は暗闇だった。


 「カコ灯り頼むっす」


 暗闇の向こう側からうん、と聞こえたと思えば、ぽわぁと蛍のような優しい光がカコの指先に灯った。

 と同時に明るくなった洞窟内で早速


 「あっ! 見つけたっす!」


 拍子抜けするほどあっさり行方不明の少年は見つかった。前述した通り洞窟の入り口付近は泥濘んでいるので少し中に入った地面が固くなっているところで、壁にもたれるように眠っており、付近には持って来ていたのであろうリュックサックや、お菓子の空き袋、ヒーローの人形が落ちていた。


 「大丈夫っすか?」


 近寄って揺すってみるが反応はない。少年はモコモコとかなりの厚着をしているが冬の夜をこんな所で過ごしているのだ。もしやと思い胸に耳を当てた。


 「どう?」


 「……大丈夫っす、心臓はちゃんと動いてるっす」


 「そっか、良かった」


 ひとまずは安心と胸を撫で下ろす二人だが、子供を見つける事ができたからって悠長にしてはいられない。これから来た道を帰らないといけないのだ。

 冬は日が暮れるのが早い、もしも山の中で暗くなってしまったらいくらセンスの能力があったとて子供を一人背負いながらの下山は困難だろう。


 「センスくん、直ぐにでも出発できそう?」


 その言葉にこくりと頷くセンス、別に痩せ我慢をしているわけではない。嗅覚を強化しなくて良くなった分足の痛みを消す方に能力を使えるようになったのだ。


 「よし!」


 センスからの頷きを確認して早速少年を背負ったカコは行くよ、と登山に向けて進み出した。


 「ーーおかしいっすね」


 疲労によりほとんど会話がなかった為カコが久方ぶりに耳にしたのはそんな疑問文だった。

 洞窟を出てからしばらく経つのに本来の登山道に繋がるルートに到達しない。


 「迷っちゃったのかな? ーーセンスくん匂いでなんとか帰り道わからない?」


 「ごめん、ちょっと無理っすね」


 自分の使い方が悪いのか、はなからそんな事は不可能なのかわからないが、目的地の目印(この場合鼻印というのだろうか?)となる匂いを嗅がない事にはその場所への行き方がセンスにはわからないのだ。


 「そっか、オッケーオッケー! 大丈夫! きっとこのまま進めばいつかは帰れるよ!」


 「カコ、大変ならいつでもその子背負うの代わるっすよ?」


 「え? ーー大丈夫、大丈夫! 僕見かけによらず体力あるほうなんだよね」


 カコだってセンスと同じく今日一日歩き回っていて相当疲れを溜めているはずなのに、そんな素振りすら見せず笑顔で返した。


 「それにほら、カッコいいとこ見せたいじゃん、先輩だし」


 眩しい笑みで、当然の如く放たれたそのセリフ

 何もしないくせに先にいたからと先輩面や、偉そうにして来る二人も見習ってもらいたいものだ。

 まぁハクトも一応こないだの猫を捜索中にコロッケを奢ってくれると言う先輩らしさを見せてくれてはいたが、少なくとも樅木はカコの爪の垢を煎じて飲むのを毎朝の習慣にしてほしいなんてセンスは酷く失礼な事を思う。

 またしても無言のまま歩き続ける二人、しばらく歩いた先でそれは起こった。


 「あれ? ここ……この茂みって」


 「本当だ! あの茂みじゃん! やったね!」

 

 ようやくの事で最初に入ってきた茂みを見つけた。二人からすればあたかもゲームのクリア画面のように映る。

 だが、入ってきた時とは違ってガサガサ、ガサガサッと来た時は特に何もなかったはずの茂みの奥からそんな音が聞こえてきた。


 「ひぃっ、なんすか!?」


 「大丈夫、きっと鳥さんか何かだよ」


 カコは落ち着いてそう言うが、その音は止まる事はなく、それどころか段々と近づいている様である。

 流石にカコも異常に感じた様で、茂みに視線を置いたままゆっくりと後退する。

 ゴクリッ、茂みの揺れる音の他に唯一固唾を飲み込む音が聞こえる。

 

 そして、茂みの奥から満を持して登場したのは、


 熊だった。ゲームやアニメに出てくる様な巨体ではない。

 今は四つ足で歩いているが、立ってもセンスやカコよりも小さいだろう。

 しかしそんなサイズだとしても現実では脅威というには十分すぎた。


 「ど、どうするっすかカコ?」


 「……ごめんセンスくん、この子背負うの変わってもらっていいかな?」


 まさかの出来事に戸惑いを隠せずにいるセンスと比べ、カコは冷静だった。


 「え? あ、ああ」


 「ありがとう、そのままちょっと離れて」


 言われた通り清太を背負い後退して数歩下がると、カコを中心として円を描くように、そしてカコ自身からも畝る紅き炎が上がった。


 「逃げて!」


 燃え盛る炎の中心でカコが叫ぶ。


 「で、でも」

 

 「良いから早く!! 大丈夫! 僕なら熊さんも撃退できるから」

 

 センスは動かない。というよりも動けないと言った方が正しいだろう。足が石のように、胴体が氷のように感じ、一歩すら踏み出せない。

 

 「早く!!」


 「ん? その(こー)は? ーーやっぱそなたらじゃったか」


 炎に怯える熊に引き続いて茂みの奥からひょっこりと姿を現したのは、他でもないハクトであった。


 「え? ハクトちゃん?」


 ハクトの登場にカコは周りと自身を取り巻く炎を消す。


 「な〜にしとるんじゃ? 子供は見つかったのか?」


 「あ、あぁ」


 センスは背負っている清太をハクトに見せた。


 「そーか、良かった、良かったーーわしも沢山の動物(どーぶつ)達から情報(じょーほー)を|聞ーてここに来たんじゃ、それでこやつにナビゲーシンして貰ってたのじゃよ」


 ハクトは熊の頭をごくろーと撫でながらここにいる経緯をざっと話すも、カコとセンスは聞いておらず、足から力が抜けたようにヘナヘナとその場に座り込んだ。

 

 ゆっくりと時間をかけて抜かした腰を戻し事務所に戻ると、玄関前でおすわりしているケルベロスが三人を迎えた。


 「なんじゃ? モミはどーしたケルベロス」


 「あれ? 鍵かかってるっす」


 合鍵で事務所の鍵を開け中に帰ったが、部屋内は真っ暗なままだった。


 「樅木さん?」


 最初はこの前の如く依頼をサボってアニメを見つつ惰眠を貪っているのかと思っていたのだが、どうやら樅木は外に出掛けているらしい。

 

 「なんか知らんかケルベロス?」


 「がう、がうる」


 「ふーん、そーか」


 「ケルちゃんは何て?」


 「途中(とちゅー)から別行動(べつこーどー)しとったから知らんって」


 「そうなんだ」


 カコは樅木の携帯に電話を掛けたのだが、何度かけても繋がらないらしい。


 「まっ、どーせ、ゲームセンターかどっかで楽しんどるんじゃろー」


 ハクトのその言葉に二人もだろうなと思い、特に気にする事なく夕飯の準備を始める。

 だが、数時間経っても結局樅木は帰ってこず、街中探すハメになるのはまた別の話

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