第一章その五 『ある日森のなか②』
「あっ! 上履き! 上履きも持って来て欲しいって言われてたんですよ!」
センスの洗濯したのかという一言の質問に何が言いたかったのか悟ったカコは起点をきかせてそんな事をいった。
ーーナイスっす! カコ
「上履き? 洗えなかったし、もう汚くなっているけど?」
「ほんの少しだけしか使わないからそれで良いって言ってました」
「そう? ちょっと待っててね」
園長先生は再び園内に戻ると、汚れた上履きを紙袋に入れて持って来た。
「はい、お願いしますね」
その上履きも少し抵抗があったが、自分のくだらないプライドなんかより小さな子供の命の方が何倍も尊いと言い聞かせ一嗅ぎする。
うん、これなら大丈夫そうだと児童の匂いが残っている事を確認してカコに向けて頷く。
「ありがとうございました、園長先生、また今度ゆっくり話をしに来ますね、みんなもまたね!」
「えぇ、お仕事頑張ってね」
「行こうかセンスくん」
「おうっす!」
カコに続いて“微笑みの里”を後にしようとしていたセンスの肩を園長先生が叩いた。
「ん? 何っすか?」
「あの子……カコくんの事をよろしくね」
正直その言葉の意図がよく分からず、「はぁ」と疑問が混ざったまるでため息の様な返事をした。
「カコくんはね、優しいの……優しすぎるのよ。私はずっと昔からあの子のことを知っているけど、あの子が誰かに怒っているのを一度も見たことないわ、他人への怒り方を知らない、怒りを解放できない……臆病とも言えるわね他人に対してどこまでも懇篤な一方で、他人からそれが自分に向けられるのを異常に恐れているの、過去に囚われ続けているの」
仕方のない事だけどね、と続けて園長先生は目を閉じ小さくため息をつく。
「……カコの昔の事知ってるんすか?」
その言葉に驚き、閉じていた目を開くとセンスの顔をじっと見て優しく微笑んだ。
「えぇもちろんよ。ここへ来たばかりの頃は毎晩のように、僕のせいだ、僕が両親を殺した、なんて泣きじゃくって全然眠れなかったのよ、あれはただの火事でカコくん何にも悪く無いのに……可哀想な子よーーでもね、本目さんがボランティアに来てくれていた時だけは安心したようにぐっすりと眠れていたのよ」
「そうだったんすか」
「それにしても」
園長先生は続ける
「カコくんの昔の話カコくん本人から聞いたの?」
「えっ? そうっすけど?」
そう、と返す園長先生、その眼差しは暖かく優しい。
「あの子が他人に、それも同じ歳くらいの子に自分から話すなんて、よっぽどあなたの事を信頼しているのねーー改めてあの子のことをよろしくねセンスくん」
「了解っす!」
センスは満面の笑みで答えた。
「ありがとう、ごめんなさいね付き合わせちゃって、お仕事頑張って!」
「行ってくるっす!」
元気いっぱいに言うと見送ってくれている児童達に手を振り先で待つカコのもとへと急いだ。
「何話してたの?」
「カコがいい奴だって事っすよ!」




