第一章その四 『カコナビゲータ⑦』
「前も言ったと思うけど僕は自分の能力が怖いんだよ、能力のせいで大切な人や物を失ってしまったからね」
そこまで言って色々と思うことがあるのだろう。カコは足を止めて目を瞑る。
大切な人を、それもカコの言葉通りなら自分の能力で失った。それは記憶を失う事とどちらが辛く、苦しい事なのだろうとセンスは考える。
しばらくの間静寂が二人を包む。
「ーーあっ、ごめんね、ちょっと考えた事してたよ」
恐らく相当辛いはずだろうが、そのような素振りは一切見えずに笑っていた。
「……別にいいっすよ」
ーーこういう時ハクトなら迷わず考えていた事を迷わず聞けそうっすね
カコと今一緒にいるのが自分で良かったと思う反面であの無神経さを少し羨ましく思う。
カコは特に何も話す事も無く歩みを再開させ、センスも何もいえずに後ろをついて行った。
「さっきの話の続きなんだけどね、家族を失った僕は何軒かの親戚の家をたらい回しにされたんだけど、どこからも歓迎される事はなくってね、結局は今向かっている孤児院に預けられたんだ」
「……そっすか」
センスはなんと返すべきか少し迷い、迷った中で一番無難と思う返しをした。
「孤児院のみんなは僕なんかにも優しくしてくれたよ、それこそ本当の家族のようにね。でも僕はその優しさが辛かった」
「辛い?」
「そりゃ、意図してなかったとはいえ僕は能力で家族を殺してしまったんだ、樅木さんも、ハクトちゃんでさえ気を遣って言わないけど僕は人殺しなんだ。それに炎が出る身体なんて普通じゃないだろ、そんな僕は優しくしてもらえる権利があるわけないじゃないか」
淡々とカコは話していく、口元は隠れている為笑っているか見えないが、服から覗く目は笑っていない。
センスの目には話すのがとても苦しそうに映った。
「カコ……話すのがキツイならもう辞めたら……」
「え? ……あっごめん、顔に出てた?」
カコは両手で頬を叩くと笑みを見せた。
「そんなに無理して離さなくても……」
「いや、どうしても聞いて欲しいんだ」
「そうすか……分かったっす! じゃあ、続きをお願いするっす!」
「ありがとうーーえっと、どこまで話したっけ……? そうそう、みんなの優しさが辛かったってところまでだったねーーそう、あの日……忘れもしない六年前の八月、僕は施設から逃げ出したんだ」
「えぇ!? カコがっすか!?」
「意外?」
ふふっと微笑みながら小さく笑うが、まったくもってその通り、まさかカコが家出(この場合施設出というのだろうか?)したことあるなんてとセンスはポカンと口を開けて唖然としてしまう。
だがすぐに、それも仕方ないことなのでは? と気づく。
先程のカコが両親を殺めてしまったと言う話は、どこまでが真実で、真相はどうなのか定かではないが、それほどの罪は大きすぎる呪縛のようなものだろう。
払おうとすればするほど、より大きく、より強く纏わり付き、かと言って何もしなければただ沈んでいってしまのだろう。
「みんなの優しさに耐えきれなくなった……というより、みんなに嫌われたかった、欲を言えば僕のことなんて忘れて欲しかった」
カコのように誰よりも優しく、それも子供の脆く、弱く、小さな心には優しさというものが恐怖に感じてしまっていたのだろう。
結局カコは逃げ出すという一番楽な選択を選んだ。それは責任感など無い子供らしくも狡く卑怯な事だった。
「宛も未来も無かった僕は誰にも見つからないように山の奥へ奥へと逃げ込んだんだーーあたりはだんだんと暗くなっていき、風が強く草木を揺らして、鳥なのか獣だったのか分からなかったけど周囲を何かが音を立てて蠢いていたーー夜が……暗闇が怖かった僕は大嫌いだった自分の力を頼りにしてずっと歩き続け、その果てに洞窟を見つけてね、そこにしばらく住もうって決めたんだ」
「そ、それでどうなったんっすか?」
まるで御伽噺かのようなカコの語りに聞き入ったセンスは先が気になり、急かす様に聞いた。
「そこで樅木さんと出会ったんだ」
「へ?」
まさかの展開に気の抜けた声が口から漏れる。意味がわからない何故樅木はそんな夜にそれもカコの話を聞く限り山の奥の奥にいたのだろう?
センスの顔に出たその至極真っ当な疑問にカコはすぐピンと来たらしく
「樅木さん山に秘密基地を作ろうとして迷ったんだって」
「何してんすかあの人……つーかその時あの人何歳なんすか?」
「え〜と、確か僕が十歳の時だから樅木さんは高校一年生かな?」
「……マジすか」
その年齢で、夜遅くに、山の奥でそれも一人で秘密基地を作ろうとするたわけ者はどれだけ探したとてこの広し世界の中でも樅木一人だろう。
中学生、いや、小学生ですらそんな事はしない。もはや面白いという段階など遠に超え、センスは恐怖すら感じ始める。
恐怖と共に
ーー三つ子の魂百までって言うっすし、もう樅木さんのあの性格は一生治んないっすね……
樅木に対して諦めの感情を向けた。
「まぁまぁ、気持ちもわかるけど、この後を聞いて欲しいんだよ」
正直その後の話を聞いたところで樅木に対するセンスの評価は上がりそうにないが、どうしても聞いて欲しい風だったため、特に何も言わずに聞きに入る。
「僕は一人にして欲しかったのに、樅木さんは話しかけてきたんだ、無視してもずーっと、仕方なしに別の場所に行こうとしても後を着いてきたりもされたなぁ」
「あ〜」
ーーやりそうっすね……
「いい加減鬱陶しくなった僕は脅かしてやろうと能力を見せたんだーーそしたら樅木さん、なんて言ったと思う?」
「カッコいい、とかっすか?」
ーーいや、流石にそれは無……
「おぉすごい、正解!」
ーーマジなんなんすかあの人!?
「ふふっ、その顔ーー多分言われた張本人の僕もそんな顔してたと思うよ」
「やっぱそうっすか」
「うん、あの時は本当に驚いたよーーそのあと色々とあって樅木さんの家に引き取ってもらって、今のクロモミ探偵事務所で働いているんだ」
「……え? 今なんて?」
「ん? クロモミ探偵事務所で働いてるって」
「いや、その数秒ほど前」
「樅木さんの家に引き取って貰って……」
「えぇ!? やっぱ聞き違いじゃなかったっす!?」
「あれ? 言ってなかったっけ? 僕、樅木さんの家に養子として引き取られているんだよ、だから本名は“樅木鹿子”になるんだ」
「えぇぇぇ!」
またしても明かされたカコの衝撃的な過去!!
「ちょっと驚きすぎじゃない?」
クスクスと笑いながら覗き込んでくるカコ、その表情からはもう苦しみが消えていてその事にセンスは安堵した。
「いや、ほんとびっくりっすよーーそれで、樅木さんに感謝しているんすね」
「いやいや、樅木さんにはいつも感謝しっぱなしだよ」
「いつもって、今現在もっすか?」
「そうだよーーだって」
恥ずかしげな表情でなかなか口から出てこない先の言葉をセンスは何だろと待つ。
「だって、樅木さんのお陰で、センスくんと友達になれたんだもん」
時間をかけ、勇気を出して言い切ったカコは、そうだよね? 違う? と言う様にチラチラと目で訴えかけてくる。
「俺たちなら親友になれるっす!」
センスは小さく笑うとそう断言して、カコと肩を組んで走り出した。
視界の端に“微笑みの里”の文字と笑っている子供達のイラストが見えた。
目的地まであと少し




