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ハイセンスワールド  作者: 桐生 ライア
五感探偵編
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第一章その一 『始まりの感覚①』

「センスねぇな俺」


 少年は雪の降り頻る空を見上げそう呟くと、白い息を吐いた。


 正確な日時は把握していないが世間ではもうクリスマスシーズンに突入しているのか、街には光り輝く装飾品やクリスマスツリーが所狭しと飾られており、歩く人々は皆幸せそうな顔をしている。

 そんなまるで夢の中のような光景を少年はぼんやりとただ眺めていた。


 歩く人々はそんな少年の姿を見ると皆幸せな表情を怪訝そうな、あるいは不思議そうな表情に変える。

 それもそのはず、雪が降るほど寒いのにもかかわらず少年は薄手のシャツに薄手のズボンしか履かず、道端に座り込んでいたからだ。


 少年は、小さくため息をつくと人々の視線など気にせず目を閉じた。


 ()()()()()()()()()()

 一般的な言葉、常識、昔読んだ本の内容などは覚えているのだが、自分の事がどうしても思い出せず、名前も、今までどうやって生きてきたのかさえも、まるで頭に靄がかかったように思い出す事ができない。


 「ーーもしも〜し、お兄さん大丈夫?」


 突如声をかけられるながら体を誰かに揺すられ少年は夢から覚めた。

 眼を閉じたままだったが目の前にいるのが二人の大人の男性だと言う事を理解していた。

 そしてゆっくりと目を開き


 ――やっぱりね


 予想が的中し、目の前にいたのが二人の大人である事を確認すると半ば自傷気味に笑ったが、その二人の格好から警官だと分かり


 「え、えぇ、あ、あの大丈夫です、はい」


 明らかに動揺してしまった。

 人間悪い事をしていなくても警官に話しかけられると少なからず動揺してしまうものである。


 「そうは言ってもねぇーーこんな寒い日にそんな格好をして、明らかにおかしく見えるんだけどね? それに最近この辺り物騒なんだから、知ってる? 昨日も殺人事件が起きてんだよ」


 「い、いやほんと大丈夫っすから」


 「まぁまぁ、とりあえず署まで来てくれるかな? そこでゆっくり話を聞かせてくれないか? ね?」


 ――……やばい、いや、やばくないのか?


 実際には別に悪い事をしているわけではないと思うが、しかし記憶がないので、もしかしたら過去なんらかの犯罪を犯しており、それを思い出せないだけかもしれないと思い少年は焦りはじめる。


 ――というか俺が殺人犯じゃないっすよね……?


 そんな考えが頭をよぎり、少年の全身からは嫌な汗が滲み、体中虫に蝕ばまれているかのような感覚に襲われた。


 「さっ、立って」


 少年が思考を巡らせているうちに警官のうちの一人が手を伸ばしてきた。このまま大人しく着いて行くか、一か八か逃げるかそんな最悪な二択に迫られたその時


 「おまた〜」


 いつの間にやら警官の後ろに立っていた黒いコートに身を包み右目に眼帯をつけた茶髪の男がひらひらと手を振りながら少年に声をかけた。


 「君は?」


 「あぁ、俺こいつと待ち合わせしてたんっすよ」


 ――誰っすかこの人? もしかして記憶を失う前の俺の知り合いか何かっすか?


 じっくりと眼前の男を見るがやはり少年の記憶にはない。というかこんな怪しい男が自分の知り合いであって欲しくない。


 「さっ行こうぜ」


 「え? あ、あぁ」


 差し伸べられた手をとり立ち上がると


 「じゃ、そう言うことなんで」


 「いや、ちょっと待ってくれるかな」


 逃げるように立ち去ろうとしたが、やはりというか当然というべきか引き止められた。


 「いや、俺たちこれから用事あるんで」


 黒コートの男はそう言いながらながら馴れ馴れしく肩を組み警官の背後へと歩き出した。


 「……あっ、おい、ちょっと待ちたまえ君た……って、あれ? 新入り、あの二人は一体どこへ行った?」


 一瞬呆気に取られたもののすぐに警官は振り向いた。だがそこに少年と男の姿はなかった。走って逃げたのかと周りを見渡すが、二人ともあれほど目立って仕方なかったというのが嘘かの様にその姿はどこにもない。


 「え、いや、あの、あの二人今消えたんじゃ……まさか瞬間移動……?」


 「馬鹿を言うな、そんなことあるわけないだろ」


 「いや、だってほら最近SNSで噂になっているんですよ、謎の力を持った人間だの、神から道具を頂いただのって」


 「なんだそれ、漫画の読みすぎだな、ほらアホなこと言ってないでさっさと探しに行くぞ、多分意表をついて人混みに隠れたんだろ」


 「は、はい!」


 そう言いながら走り去っていく警官の後ろ姿を、少年と黒コートの男は警官たちがいたすぐ隣の店の中から眺めていた。

 一体何が起こったのかさっぱり分からず少年が黒コートの男の方をチラッと見ると


 「そして時は動き出す……ってか」


 よく聞き取れなかったが、男は何かをボソッと呟きながらニヤリと笑っていた。そして少年の視線に気づくと


 「――お前、連続殺人事件の犯人?」 


 とんでもない事をサラリと聞いてきた。


 「ブフォ、ちょ、ちょっと、待ってくださいよ、そんなわけないじゃないですか!」



 ――いきなり何を言い出すんだこの人は、周りに人がいたらどうするんっすか!?


 少年はキョロキョロと挙動不審な動きで周りに人がいないことを確認し、誰もいなかった事に気づいてホッと胸を撫で下ろした。


 「そっか、そっか、そりゃそーだよな、なーんだそりゃ悪いことしたな、めんご、めんご」


 ――なんすかこの男のノリは……?


 「しっかし、これで事件も俺が解決してやったと思ったんだけどな」


 「事件?」


 「あれ? お前知らないの? 最近ここらで連続殺人事件が起きてんだぜ」


 ――そういえばさっきの警察もそう言っていたっすね


 「あーあ、お前が犯人だったら捕まえて警察に突き出してやったのに、そうすれば俺の仕事も客が増えたのによ」


 「仕事……って?」


 「あ、申し遅れたな、ホイこれ」


 男は名刺を差し出してきた。差し出された名刺には


 [クロモミ探偵事務所所長 樅木黒乃]


 受け取った名刺をみて、男の名前と男が探偵だということが分かった。


 「樅木さんって言うんすね、それに探偵なんすか」


 「そーそー俺探偵なの、捜査、謎解きなんでもござれ」


 樅木は謎にポーズを決めて格好つけながら得意げに言うと次は俺の番と言うように少年に質問する。


 「で、警察に職質されていた、こんな寒い日にそんな見窄らしい格好をしている、とても怪しい君は一体何者なのかね?」


 「それが……」


 少年は一瞬記憶を失っていることを話すべきか話さないべきか迷い、そして閃く。


 「そういえば俺たちってどこかで会ったことないっすっけ? 樅木さん覚えてないっすか?」


 ――これだ! 探偵ならば新聞やニュースで報道された事件やその犯人くらい覚えているだろう、これでこの人が知らなければ俺は無罪っす。


 樅木は顎に手を当てて難しそうな顔で見てきたが


 「悪りぃ、ちょっと覚えてないわ」


 その言葉に少年は内心ガッツポーズをし、自分の事を話してみることにした。


 「……実は俺記憶がないんっす」


 「……はぁ?」


 「ま、そう言う反応になるっすよね、正直俺もまだ信じきれてないっすもん」


 「それ本当にマジかよ、じゃそんな格好してる理由もわかんねぇのか?」


 「ま、そうっすね、こんな寒い時にこんな格好してるなんて、記憶失う前何してたんだって話っすよね」


 「そうだな、うーむなかなか興味深いーーあっそうだ、俺、いやこの私クロモミ探偵事務所樅木黒乃が、貴方様の損失された記憶を取り戻してみせましょうか?」


 樅木は何やらかっこよくポーズを決めてそう言った。


 ――あっ、店の外を歩く人に見られてる、恥ずかし……いや、そんなことはどうでもいいか……


 「記憶を取り戻すって、できるんっすか? そんなこと」


 「任せろ! こんな展開漫画で十回は読んだわ」


 実に不安である……


 「よし、それじゃあちょっと近くの喫茶店まで移動しようや、そこで軽く話でもしよーぜ、あっ、ちーとまってろ」


 樅木は何かをレジに持っていき購入すると、袋に入れる事なくそれを少年に手渡す。


 「ほら、そんな格好じゃ喫茶店行く前にまた職質されちまうぞ、これに着替えてこい、俺は店の前で待ってるからな あ、記憶が戻ったら金返せよ」


 そう言い残し樅木は店を出る。


 樅木から渡された服を見ると、赤が主体の所々黒い線が入っているなんとも派手なつなぎだった。少年は店を出た樅木の背中と手に持つつなぎを何度か交互に見た後、心の中で呟く


 ――センスねぇっす……

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