第一章その四 『カコナビゲータ④』
「それじゃ、カコはセンスを連れて“微笑みの里”へ行って清太くんの服を引き取るとそのままセンスの能力で捜索を始めてくれ」
佐賀瑠衣子が帰るなり樅木は皆にそう命令した。
「わかりました」
「案内よろしくっす」
「うん! ーーそれにしても行くの久しぶりだなぁ、最近忙しかったし半年ぶりくらいだっけ?」
「んで、ハクトはいつも通りそこらの鳥とか犬とかに写真を見せて聞き込みしながらさがしてくれ」
「ふふん今日はどの服にするかの……ところでモミはどーすんじゃ?」
「俺はここでポスターを作ったり、ネットで清太くんの行方を知っている人がいないか書き込んで調べてみる」
「……いや、ダメっすよね?」
「は? 何でだよ」
「だめに決まっとるじゃろーが」
「だから何でって!?」
「だって瑠衣子さんは清太くんがいなくなったって、他の人に知られたくないって言っていましたよね? そんなポスターを街中に貼ったり、ネットにいなくなった事を書き込んだりしたら“微笑みの里”にも情報がいく可能性が高いじゃ無いですか」
「あっ……」
「それにどーせネットで仕事するとか言っときながらくだらん動画見て寝てるじゃろーが」
「そんな事わかんねぇじゃん! そんな事わかんねぇじゃん!!」
「……なんで二回言ったんすか? とにかく今日は聞き込み……も、するのは危険か……まっ、一人で地道に探すっす」
「えぇ〜やだよめんどくせぇ」
心底面倒くさそうな顔をしながら、心底嫌そうな声を漏らす。今の樅木を知らない人が見れば絶対に探偵には見えないだろう。
「もう、そんな顔しないでくださいよ、所長でしょ?」
「……所長っていえばずーっと机に向かって気ままにネットサーフィンしているイメージだったんだがな」
「なんつー偏見っすか…………」
センスは呆れ顔でそう言う。出会ってもまだ二週間ほどしか経過していないのにも関わらず樅木の性格を熟知し始めていた。
「……ねぇ、ハクトちゃ〜ん、一人で探すのは大変だし暇よねぇ? 俺が話し相手になってあげるよ?」
よほど一人で捜索するのが嫌なのだろう。樅木はセンスに反論するのをやめて気持ちの悪い猫なで声を発しながらハクトに近づいてゆく。
「寄るな、気色悪野郎が!」
「シンプルに酷い! ーーなぁカコォ、僕もついて行って良いかな……かなぁ……?」
「さっ、センスくん、もうそろそろ出発しようか、持ち物とか準備は大丈夫?」
「おう、いつでもいけるっすよ」
「じゃ行こっか」
二人はこれ以上樅木の相手――もとい無駄な時間を潰す事はないと判断したのだろう。樅木を無視して玄関へ向かう。
「――おい!お前ら無視するんじゃねーよ、泣くぞ!」
とても成人済みとは思えない情けなすぎる特に脅しになっていない脅しになど二人は耳を傾けない。
本当に泣いているような声が聞こえたような気もしたが気にせず外へ出ると二人は“微笑みの里”へと歩き始めた。
「……ねぇ、ハクトォ……俺、本当についていっちゃダメ?」
少し目を潤ませながらさっきとは別のベクトルで気持ちの悪い声を出してハクトを見つめる。二十歳超えの男のこんな姿は正直見ていられない。
「……は〜――しゃーなしじゃの、ちと待っとれ」
流石に根負けしたのだろう。それだけ言ってハクトは部屋に戻る。
数分後、もこもこしている黄色いひよこの顔を模してある帽子を被り、全身黄色のコーディネートを決めたハクトは部屋から出ると持って来たものを樅木に手渡す。
「ホレッ」
「……がうる?」
ハクトが樅木に手渡したのはケルベロスで、先程まで寝ていたのであろう。眠そうで何が起こったのかいまいち理解できていない顔をしたまま抱いている樅木の顔を見つめた。
「……え?」
「んじゃ、ガンバー」
「……えっ、あ、おい、こらっ、ちょっ、まて」
樅木がキョトンとしている隙を見てハクトも出て行き、我に帰った樅木が必死になって止めようとしたが既に扉は閉められておりハクトに声は届かない。
「――んーだよ!? んだよ!? あいつら所長を蔑ろにしやがって……もう黒のん、みんなのことなんて知らない! このままサボってアニメ見てやるんだから!」
怒りを露わにした樅木は何故かオネェ口調になると、机に着きパソコンを開く。
「今日は遠慮しないんだから! アニメ十二話全部見ちゃうんだから、六時間ぶっ通しなんだからね………って痛ってぇぇ!!」
サボってアニメを見ようとしている樅木を止めようとしているのかケルベロスが足に噛み付く。
「んだよ、所長さまを舐めてると飯抜きだぞ!?」
「ガウル、ガウ!! ガウ!!」
「ひぃっ、ごめんなさい」
成人が怒って吠える小型犬らしき生き物に謝る姿はひどく滑稽なものであった。