第一章その四 『カコナビゲータ②』
「お願いします! どうか、どうか、うちの子を見つけてください!!」
探偵事務所の開店時間と同時に飛び込んできた女性は玄関先ででそう叫んだ。
「少し落ち着いてください。――こちらに座って詳しい話を聞かせていただけますか?」
「は、はい、すいません失礼します」
女性は部屋に入り樅木が手で合図した席に着く。
「おい、お前らコーヒーと菓子持ってこい」
「はい」
樅木の命令にカコだけが答え、センスとハクトを置いて一人台所に向かう。
「あ、お気遣い無く」
「そんなことより詳しくお話をお聞かせください、お子さんが迷子と言うことでよろしいんでしょうか?」
「えぇ、うちの息子が昨日の夜から帰ってきていないんです」
「昨日の夜からですって?」
「昨日から戻っとらんって事はも〜し……」
コーヒーを女性の前に置いたハクトはいつものごとく余計な事を口走ろうとしたが
「っっっむぐっ」
「――ハクトちょっとこっちきて手伝って欲しいっす」
センスはヤバげな事をハクトが口走る前に、口を手で塞ぎながら台所へと連行する。
「センスくん、ナイス!」
「おうっす!!」
センスはカコとハイタッチをすると小さくガッツポーズをきめる。
「それにしたってハクトちゃん、君って子はほんとに、もう……」
「そうっすよ、不謹慎極まりないっすよ!」
「なんじゃ!なんじゃ! 途中で口塞っだ癖に、そなたらにわしが何言ってやろーとしとったかわかるのか?」
「……もう死んでるとか言おうとしてたんじゃ無いっすか?」
「……まーそんなとこじゃの」
正直否定してくれる事を祈っていたセンスだったが、そんな祈りは泡の如く簡単に消えていった。
「やっぱ口塞いで正解だったじゃないっすか!?」
「やかましーのじゃ、死んどると、思っとる時に死んどると言ってなにが悪じゃ!」
「お前は道徳学び直してくるっす!」
「――ちょっと二人ともお客さんに聞かれちゃうよ」
カコの心配通り台所が騒がしく、センスとハクトが口喧嘩している事は女性も感じていたが、幸い口喧嘩の内容までは聞かれていない。
「――騒がしくてすいません」
「いえ」
「それでお子さんが昨晩から帰られていないという事ですが、ここよりも警察へ行かれたほうが良いと思うんですけど」
「それはできません!」
食い気味に女性は却下した。
「うちの息子、清太は私たち夫婦と血のつながった本当の子じゃないんです、つい先日孤児院で引き取ったばかりの子なんです」
「そうですか――しかしその事と警察に行くことができない事がどう関係しているんですか?」
「それは……」
女性の目が明らかに泳ぐ
「どうしました?」
「……怖いんです」
「怖い? 何がです?」