第一章その三 『にゃんこ大捜索⑤』
「ハクトってさ、変なこだわり持ってるすよね、ほら、話す時母音を使わないっとかいう」
「それがどーかしたか?」
「そのこだわりっていつからしてんすか?」
「さ〜、もー三年近くなるかの?」
「三年!? まじでその間母音使ってないんすか?」
「そーじゃ!」
ハクトは得意気にいっているがセンスは
――コイツ馬鹿っす
という感想しか抱く事は無かった。
「大体なんでそんなに母音を使おうとしないんすか、そんなにボインが嫌いなんすか?」
「そーじゃ、ボンは超嫌じゃ」
ハクトは即答する。
「なんでそんなボインを毛嫌いするんすか、まさか本当にただ自分がボインじゃないか……」
「それより先は言葉をちゃんと選択したほーが良しじゃぞ?」
「……悪かったっす」
デリカシーのない言葉にハクトはものすごい形相をしてセンスの事を睨みつけている。
――まぁ、今のは俺が完全に悪いすね………
センスの心内での反省通り今のやり取りは完璧にセンスが悪く、もしここが会社であればセクハラで訴えられるのは免れ得ないだろう。
「それに胸の大小を気にするのなど、人間だけじゃ、猿やゴリラも人間に似た生物じゃが胸なんか関係なく交配しとるじゃろ、胸なんてくだらんもん気にするのは人間だけ、じゃからわしは人間が嫌なのじゃ」
さっきから注意して聞いていれば、本当に母音を使っていない。そんなことにちょっとした謎の感動を覚えながらも
「人間が嫌って、ハクトも人間っすよね?」
そうツッコミをいれる
「……そっか、そーじゃったーーふふっセンスはにーちゃんと似たよーなことをゆーの」
そのツッコミにハクトは懐かしそうに笑ってそう返す。
「にーちゃんってハクトには兄さんがいるんすか?」
「そーじゃ、喧嘩別れをして、もー何年も仲直りできてねーんじゃがの」
「そうなんすかーーいつか仲直りできるといいっすね」
「そーじゃな……って、センスみてみー!!」
「いきなりどうしたすって、あ! 白猫」
「捕獲じゃー!!」
その後二、三時間ほど捜索して数匹の猫を見つけて、ハクトが、迷い猫かどうか質問してたが、どの猫も違うと言っているらしい。
一応飼い主に送るための写真を撮って帰えることにしたセンス達が事務所に着くと、玄関前にケルベロスが座っていた。
「がうる」
「やっぱ自分で帰てたか」
「がう、がう」
ケロベロスは、何かを咥えてセンスの前に持ってくると受け取ってと言うようにそれを差し出した。
「これは、コロッケ?」
それは大丸に奪われたコロッケだった。ところどころ齧られていたり、唾液的なものがついている。
「がう!」
ケルベロスは尻尾を振ってセンスを見ている。
「もしかして……取り返してきてくれたすか?」
「がうる、がん」
ケルベロスは尻尾の振りを強くして答えた。正直センスにとってはありがた迷惑であるが、ケルベロスの向けてくる期待の眼差しの前に捨てることなどできず、センスは嗅覚と味覚を消してひとくち食べる。
「……美味しいっす、残りはあとで食べるっすね、ありがとうっす……うぇっ」
「がうん!」
コロッケを食べてもらえてケルベロスは嬉しそうにないた。
「じゃ、とりあえず事務所に入るすか」
センスはとりあえずコロッケの入った袋をつなぎのポケットに入れて事務所に入ると
「ぐがぁ」
うるさくいびきをかきながら口元からだらしなく涎を垂らした樅木がパソコンでアニメを流したままぐっすりと熟睡している姿がそこにあった。