第一章その三 『にゃんこ大捜索②』
「ーーうちのミルクちゃん……猫を探していただきたいんです」
樅木の言葉通り昼過ぎに事務所に訪れた依頼人は大学生くらいの女の人で促されるまま席につくなり緊迫の表情で言った。
「なるほど、依頼は猫探しということですね」
「えぇ、もう二ヶ月も帰ってこないんです」
「……もー死んどるんじゃねーのか?」
「え、えぇ!?」
――マジかこの女……
「コラ! ハクト」
ハクトの心なきひとことに泣きそうな顔になってしまう女性を前に慌てて樅木がハクトの頭を少し強めにはたいた。
「てちっーーこりゃ! レデーに手を出すんじゃねーのじゃ!」
「黙レディ! お前ごときがレディ名乗るなど百年早えんだよ!」
「んじゃと!? きさま」
「もう二人ともお客様の前ですよ、困られているじゃないですかーーご、ごめんなさいね、えっと」
「あ、名乗り忘れてました。私、小須木ねねと言います」
「小須木様ですね、わかりました、我々一同力を合わせて必ずしもあなたの猫ちゃんを見つけ出して見せましょう」
隣で掴み掛かろうとしてくるハクトの顔を押さえつけながら言うが、どう見ても力を合わせれるようには見えない図である。
「ーーで、猫ちゃんの写真とかってあります?」
「それが持ってないんですよ、携帯もこの前壊れてしまってデータが全部飛んでしまいまして……一枚実家のアルバムにあったと思うので探してもらっているんです」
「そうですか、それでは何か探す目当てとなる特徴とかってありますか?」
顔を押さえつける手から脱して、再度掴み掛かろうとしたハクトだったが、逆にチョークスリーパーをかけられてしまう。
「メスで、毛は真っ白で、体に黒色の模様があります。首輪とかはしていないです」
「そうですか、わかりました。少々お待ちくださいーーちょっとこいお前ら」
樅木はそう言い残してギブアップと言わんばかりに首を絞める手を叩くハクトを犬のように担ぐと、センスたちに合図を出すと奥の部屋へ行き、二人がついてくるなり小須木に聞こえないように声を潜めて
「お前ら今聞いた特徴の猫みたことあるか?」
「俺は記憶ねーすからわかんないっす」
「僕は見た事何度かありますけど、特徴が、特徴ですからね」
「ゲホッ、ガホッ、まさか今日だけで既に二度も死にかけるとはの」
「全面的にお前が悪い!」
「言い切ったっすね……」
「貴様! この仕事手伝わんぞ!?」
「お〜いいぜ、いいぜ、休め休めーーでもなうちの社訓は“働かざる者食うべからず”だぜ? つまり働かないなら晩飯は抜きだ! 良かったなぁ、ハクトちゃん三度目の臨死体験を餓死で体験できるじゃんか」
「ぐぬぬ」
キャハキャハと笑う樅木を白い肌を燃えてしまうんじゃないかと思う程真っ赤に染めながら怒りの形相で睨みつけるハクトだが、笑いが止まる事はなかった。
「で、ハクトちゃんは猫ちゃんの事知ってるかな? お腹ぐーぐーが嫌なら答えよっか?」
「……わし、そんな猫三十匹くらいしっとる」
「そうか、よし、ハクトは猫と話して依頼主さんの言っているミルクかどうか、違ったらミルクを知ってるかをきいてみてくれ
「……」
「ん? 返事が聞こえないなぁ?」
「……らじゃー」
ニコニコと色んな意味で楽しそうな樅木に隠す事なく舌打ちをうつが、それすらも樅木にとっては愉快な物であったのだろう。
「うんうん、挨拶は大切だよねーーんじゃ、戻るぞ」
ハクトを宥めつつセンスたちが席に戻ると樅木は、事務所に設置してある樅木専用の机から紙を取り出すとそれを小須木の前に置いた。
「それでは、こちらの用紙に記入をお願いします」
「はい」
それはどうやら依頼書なるものらしく小須木は言われた通り、氏名、携帯番号、住所、依頼内容などの欄を埋める。
「では料金についてなんですが」
そして小須木がある程度依頼の紙に記入し終えると、樅木は笑いながら、そう話を切り出していく。