プロローグ
「ーーねぇ、まだ覚えてる?」
雪が降り頻る中、少女は冷え切った掌で目の前に座り込む少年の顔を包みながらいつもと変わらない表情で聞いた。
「お前が覚えているんなら忘れてるわけないだろ」
「それもそっか」
そうつぶやいて少女はクスリと笑う。
落ちてきた雪達はそんな少女の長い栗色の髪については溶けてゆく。
「……こんなことになって怒ってる?」
少し聞きにくそうに眉を下げながら発されたその言葉に
「怒るわけないって」
少しも考える事なく少年はそう答えると先程の少女の様に優しく笑いかけた。
そんな表情を見た少女の目からは思わず涙が滲む。
「ーーもう、そろそろかな?」
「そっか」
少女は少年の頭を包んでいた両手を動かし少年の頭強く抱きしめ、しばらくそのまま動かなかったが、抱いている手を緩め少年の顔を見ると
「じゃあね」
まるでその言葉が引き金になったかように、少年の視界は暗く、薄く、モノクロ調に変化し始めてゆく。
ーー初恋……だったんだよな?
色褪せてゆく世界とは別に過去の記憶は美しく色付き、思い返しているだけで笑みが溢れる。
だが、少しして少年から笑みが消える。まるで何枚か写真を抜かれたアルバムのように記憶の辻褄が合わなくなりはじたのだ。
「……怖い?」
もうほとんど見えなくなった眼前の少女に心配かけまいと
「別に……ただ寒いだけ」
震えを寒さのせいにして少年は目を瞑ると一瞬にして意識が深く落ちていった。
ーーああ……センスねぇな俺