60話 過去の苦しみ
ルミング・ハーストは今は魔王の右腕、スレイスに命令され嫌々、【傲慢】のデルサとアルファ王国襲撃に来たまでだ。
(確かこの街にはベルゲンドを倒した奴がいるんだよな。)
ベルゲンドが手も足も出ずに負けたと聞いたが、本当にそんな奴がいるんだろうか。
ベルゲンドは幹部の中では最弱だったが、どこぞの馬の骨に簡単に負けるほど柔くない。むしろ硬いくらいだ。
敵を喰らうほど強くなる【暴食】スキルに加え、ルミングの腰と同じほど太い腕を持つ彼に力勝負で勝てる奴は魔王軍にはいないだろう。
それに幹部はオブラートに包んで言えば頭抜けた、悪く言えばぶっ壊れた部分を持っているわけだが。
それがルミングなら怠惰、ベルゲンドは暴食だったということだ。
(はー。めんどくさ。さっさと帰って美味しい物でも食べたいな。)
だが、そんな彼にも嫌いなものがある。それは、人間だ。
ルミングは、クズな男と性に溺れた女の間にできた——言わばたまたま出来ちゃった子なのだ。
そのため待遇は最悪。ストレス発散の道具として扱われていて、ろくに食事を取ることがなかった。
しかし、そんな中で出会ったのが、朱色の目と髪が目立つ、ロングの髪をゴムで纏めた少女——アカネだった。
食べるものがなくゴミ箱を漁って食べ物を探していたところ、後ろからアカネに声をかけられた。
彼女は世話焼きで、ゴミ箱を漁るルミングにパンをあげたり、体を風呂で洗ってあげた。
ルミングは当時、アカネをご飯をくれるいい人くらいにしか思っていなかっただろう。
それから毎日アカネはルミングの元に通い続けた。商店街に売っていた美味しいものを買っては、ルミングに届ける。そんな生活が習慣になっていき、二人はかけがえのない存在になっていった。
ある日、アカネがルミングの元に来ない日があった。
そこで心配になってルミングは前にこっそりとアカネの家につけたことがあり、家の場所を知っていたため、訪れてみると、そこには自分のよく知る少女の遺体があった。
白く上品な服だったものは、真っ赤に染まっていて、アカネの目からは光が消えていた。
ルミングは息を飲んだ。そして何度も自分に言い聞かせた。”これはアカネではない”と。
しかし、現実を直視するたび行き場のない怒りと哀しみと孤独が襲ってきた。
(人間ってなんて愚かなんだろう。)
自分を産んだ母も、道具のように使った父も、太陽のように笑うアカネも、そんなアカネに淡い思いを馳せた自分も———。
今までの出会ってきた全ての人間を頭の中で否定し始めた。
そして復讐を心に誓った。アカネを殺した神の使いを皆殺しにすることを。
彼は幸か不幸か才能があった。剣術、魔術、体術。気がつけば彼は一国を滅ぼせるくらいの実力となっていた。
一人で人間滅亡を掲げて殺しをしているところを、魔王に拾われた。
「お前も、一緒に人間を滅ぼさないか?」
魔王軍は魔族だけの軍ではない。人間を嫌い、妬み、憎しむ。そんなものたちの集まりなのだ。
故にルミングにとって好都合だった。人間滅亡をに近づけるだけでなく、魔王という後ろ盾もできるのだ。
そして【怠惰】として魔王軍幹部に返り咲き、今に至る。
彼の復讐は人間を滅ぼすまで終わらない。




