東坂あきら1
東坂あきらはいつものように風紀委員室の委員長机に向かっていた。書類を処理しつつ、奏介のことを考える。
「寝ても覚めてもって感じですね……」
自分には縁が無いと思っていた。男子を意識するなど始めてた。いわゆる恋心なのか、今はまだ定かではないが、何かきっかけがあればそちらに傾いてしまう気がする。
「まぁでも、菅谷君は気にしていなさそうですし」
ふうっと息をつく。
と、噂をすればというべきか、ノックと共に奏介とわかばが入ってきた。
「へぇ、そうなの」
「あぁ、しおはそういうの得意だな」
「ヒナも得意よ。今度聞いてみたら?」
同級生であり、同じ風紀委員。いつも言い合いをしつつ仲が良さそうで微笑ましい。
(ふふ。やっぱり見てる方が良いですね)
後輩達を観察しつつ、
「お疲れ様です。二人共、早いですね」
奏介とわかばははっとした様子で、
「お疲れ様です、委員長」
「お疲れ様ですっ!」
話に夢中だったのだろう。
「良いですよ、会議中はシーッですけどね」
やがて他のメンバーが集まり始め、会議は滞りなく済んだ。
「委員長お疲れー」
「はい、お疲れ様です」
挨拶をして、次々と出ていく風紀委員達。すると、奏介が歩み寄ってきた。
「今日も書類ですか?」
「!」
メンバーが帰った後にゆっくりとやろうと思っていたのだが、見透かされてしまったらしい。
そうこうしているうちに風紀委員室には彼と二人きり。
あきらはこほんと咳払い。
立ち上がって、奏介の頭に手を伸ばす。
「心配いりませんよ」
なでなでしながら笑いかける。この前の醜態をどうにかなかったことにして、彼の優位に立ちたい。他の女の子と仲良くしているのを見て、少しだけ意地になってしまっている。
「……」
奏介は目を瞬かせ、なでなで仕返ししてきた。
「えっ」
思わず固まってしまう。
「元気そうですけど、無理してませんか」
少しドキリとする。あの女子達に言われた言葉がまだ引っかかっているのだろう。見抜かれて、彼の頭から手を離してしまう。結局撫でられる側に。
「……菅谷君……なんでそんなに分かるんですか」
我ながら子どもっぽいが、拗ねた感じで聞いてしまった。
「あれから心配で気にしてましたからね。時々暗い顔をするので」
ふとした瞬間に思い出して、勝手に落ち込む。そんなことを繰り返している。隠しきれていないのだろう。
「また手伝うので、一緒に帰りませんか? 飯原先輩も気にしてたので」
やけに気にすると思っていたら、ハルノが頼んだのもあるのだろう。彼女は放課後からモデルの仕事に出ることが多いので久しく遊びに行っていない。学校で仲が良いクラスメートや風紀委員メンバーはいるが、一緒に遊びに行くのはハルノくらいだ。
「どうですか?」
あきらは諦めて肩を落とした。
「じゃあ、お願いしますね」
悔しい反面、嬉しい。そんな気持ちがどこかにあった。