檜森リリス1
檜森リリスは駅ビルの入口前に立っていた。ちらりとショーウィンドウを見ると、昨日買ったばかりのワンピース姿の自分が映り込んでいる。
(覚えてないですよね、菅谷さん)
上は白いブラウス。スカート部分は白と黒の細かいチェック柄。小学生の頃にお気に入りだったワンピースに似たものをチョイスしたのだ。何しろ、当時の奏介に似合ってる、可愛いと言われたことがあったのだ。当然、その時は何も思わなかったが。
(気持ち悪いですかね? わたし)
ため息を一つ。学校関係なしに初デートだから舞い上がってるのかも知れない。
「あれ、リリじゃん」
顔をあげると、喜嶋安登矢が立っていた。その他男子三人。全員見知った顔だ。小学生の頃の同級生である。
「檜森!? ひっさびさだけど、なんか」
男子達にジロジロ見られ、少したじろぐ。
「えと、なん、ですか?」
「あ、ごめんごめん」
男子達はそれぞれ謝ってきた。
「檜森、めっちゃ美人だなって思ってさぁ」
「ミスコンとか出てそうだし」
「あ、そうだ。一緒に飯たべねぇ? 久々だから話聞きたいし」
「あ、すみません、今待ち合わせをしているので」
安登矢はため息を一つ。
「無駄だって。リリは今彼氏いるしな。お前らじゃ敵わないから」
彼らがあからさまに残念そうな顔をする。
「えー……。残念過ぎる」
「そうだ、番号交換しようぜ。今度同窓会やろう」
「いいな、それ。学年全部に声かけてさ」
大規模な同窓会。何気にそれは初めてかもしれない。
「そういうことなら」
中々楽しそうである。
「そんじゃな」
安登矢達が去っていく。ヒソヒソと聞こえてきた。
「彼氏ってどんなやつよ?」
「オレ、普通に狙いたいんだけど」
幼い頃から一目惚れをしたことがないので、その感覚はわからない。
(顔で付き合いたいか判断するものなんですね)
それが普通なのだろうけど。
と、その時。
「檜森」
聞き慣れた声に振り返る。
「あ」
「ごめん、ちょっと待たせた。今のって小学生の頃の?」
「はい、皆で遊んでるみたいです」
奏介は、そっかと頷いて、
「で、喜嶋もいたっぽいけどおれの話でも出た?」
表情は穏やかだが、目が笑ってない。
「で、出てないですよ。ご飯誘われたんですけど、断ったところです」
「そう」
しかしながら番号を交換してしまったわけで、こういう場合、後で個人的に連絡が来る場合が多い。
「じゃあ、行くか」
「はい、そうですね」
邪魔が入ったが、今更ドキドキしてきた。
「檜森」
「ん?」
「そのワンピース、似合ってるな。かわいいよ」
「ふぇ?」
いつもの流れで言われ、一気に赤面した。
「そ、そそそそうですか!?」
「ああ、なんかその服、懐かしい感じがするんだけど、なんだったかな」
覚えていないが、やはりどこかで覚えているのだろう。
リリスは嬉しくて、ニヤケ顔をうつむいて誤魔化した。