須貝モモ1
モモは待ち合わせ場所の駅舎の前に立っていた。
スマホで時計を確認すると、九時五十分だった。待ち合わせまで後十分。
モモは額の汗をハンカチで拭い、眩しい夏の空を見上げた。暑さと少しの緊張でくらくらする。
「須貝」
その声に視線を向けると、奏介が手を振りながら歩み寄ってきた。
「早いな。まだ結構時間が」
「ちょっと、早く着きすぎて」
「そっか。それにしても、行き先が大型ホームセンターで良いのか? 一応、今日は」
初デートなのに、と言いたいのだろう。
「なんか、緊張するから、最初は慣れたところの方が良いかなって」
「慣れたところって」
奏介が苦笑を浮かべる。
「まぁ、確かにね」
二人で再会した時もホームセンターだった。そう考えると思い出の場所というのは間違いない。
「じゃあ、その後でお茶でもしようか。丁度お昼になるし」
モモは頷いた。
「あ、そうだ。あのね、菅谷君。ちょっと相談があって」
真剣な表情で見つめると、奏介も表情を引き締めた。
「どうした?」
「実はうさぎを」
「うさぎを……え?」
どうやらうさぎの話題だと思わなかったらしい。
「もう一匹買おうと、思ってるの」
「もう一匹……か」
モモはこくりと頷いた。
「どの子が良いか、一緒に選んでもらってもいい?」
「そんな不安そうな顔しなくても付き合うよ」
奏介の様子にほっとする。
「じゃあ、行こうか」
「え、ええ」
モモはおずおずと奏介に寄り添って、躊躇いながら、腕を回した。
「……須貝? 突然どうした?」
「恋人同士ってこんな感じなのよね? ちょ、ちょっと熱いけど」
頬を赤らめる。
「いや、何を参考にしたか知らないけど、熱いならやらなくても良いって」
「そうなの?」
「ああ」
「なら」
モモはほっとした様子で奏介から離れた。
「実は、男の人と付き合ったの初めてで」
「あぁ、うん。それはなんとなく分かる。ていうか、俺も彼女が出来たのは初めてだよ」
モモは目を見開いた。
「詩音と付き合ってたのかと思ってた。ヒナとかわかばとも付き合ったことあるわよね?」
「……俺、どう思われてるの? 高校の時は皆一緒にいてそんなことなかっただろ」
「仲良さそうだったから。……菅谷君、モテるから彼女がわたしでいいのかなって思うの」
「俺を須貝が選んでくれたから、付き合ってるんだし。それともやっぱり俺じゃ嫌か?」
モモ首を横に振って、恥ずかしそうに笑う。
「わたしも、菅谷君が良いわ」
不安だったが、間違いなく、彼はモモの彼氏なのだ。