僧院ヒナ1
大学に入ってからの何度目かの同窓会。その会場の最寄り駅のホームに降りた奏介とヒナ。
「んー! 楽しみだなー。皆でご飯て久々だよね?」
「ああ、前回はプールで」
「その件は記憶から抹消でよろしく」
奏介は苦笑を浮かべる。
「だよな」
「あ、そうだ。今日はボクと奏介くんが付き合い始めたってことは内緒ね。後で個別にカミングアウトするから」
「良いけど、面倒臭くないか?」
「今日言ったらみんなに全力でいじられるもん。わかばとしおちゃんは絶対だし、モモや水果ちゃん、針ヶ谷君もナチュラルに冷やかしてくるに決まってるよ」
ヒナはむうっと唇を尖らせる。
「あいつらなら、ありそうだな」
「せっかく皆で集まるのにボク達の話題だけになっちゃいそうだし」
「ああ、そういうことか」
「皆との関係が変わるわけじゃないけど、高校生の時みたいにお喋りしたいしね」
ヒナはうんうんと頷く。
「……単純に、恥ずかしいのもあるんだろ?」
「うっ」
図星らしい。みるみる顔が赤くなる。
「と、とにかく、内緒ね!」
そんなやり取りをしていると、
「あ、奏ちゃん、ひーちゃん」
駅を出ると、買い物袋を持った詩音が手を振りながら歩み寄ってくる。
「二人とも早いねー。お店の予約、後一時間後だよ?」
「お前もだろ。なんかおばさんが朝早く出て行ったって言ってたけど」
「ちょっと買い物。今回のお店、完全個室だからさ、余興をね?」
何をさせられるのだろうか。少し不安になる。
「大丈夫、あみだくじだから」
「何が大丈夫なんだ。あ、そうだ」
奏介ははっとしたように、
「今度またうちにあいみちゃんが来るんだ。その時はしおも来る?」
「あ、行く行くー」
そんな会話をしていると、後ろから服の裾を掴まれた。
振り返る。
ヒナがこちらを見上げていた。
「ヒナ?」
ヒナは恥ずかしそうに視線をそらす。
「ボク、お餅焼いちゃおかなぁ」
奏介は首を傾げようとして、すぐにその意味に気づいた。
ちらりと見ると、詩音はそのまま歩いていってしまっている。こちらに気づいていないようだ。
奏介は小声で、
「一応確認しておくけど、俺の彼女はヒナだけだよ」
「!」
ヒナは目を見開いて、慌てて服の裾を離した。
「そ、そういうことじゃないんだけどな」
それでも嬉しそうだ。
「なるほど、お付き合い一週間てところだね?」
奏介とヒナは同時に横を向いた。いつの間にか詩音が会話に加わっていた。
腕組みをする。
「まったく、決まったその日にうちへ挨拶に来てくれてもいいじゃん。水臭いなぁ」
「いや、お前、俺のなんなんだよ」
「幼馴染みだね! 幼馴染みにお付き合いの挨拶は基本だよ!」
「相変わらずわけのわからないことを」
奏介が呆れていると、ヒナも苦笑を浮かべる。
「なんか、しおちゃんは変わらないね。別に奏介くんとしおちゃんが話してるのが嫌とかじゃないんだ。ただ、ちょっと、やっぱり仲良さそうだから、なんていうか」
ヒナ、もじもじ。
「うんうん。分かるよ」
と、詩音のスマホが鳴った。
「あ、ちょっと待ってて」
着信らしく、少し離れたところへ。
「はぁ。即効でバレた」
「ああ、ごめん、俺が」
「ううん。完全にボクの自業自得だからね。ま、切り替えて行こ」
ヒナは片目を閉じてみせた。