伊崎詩音1
詩音は大学の食堂で頭を抱えていた。先日のことだ。流れで奏介にとんでもないことを言ってしまった。
「うう、これ付き合ってるってことで良いのかな? いや、でも奏ちゃん何も言ってなかったし。いやでも、好きとか言っちゃったし」
あの時聞いておけばよかったのだ。一生の不覚である。
正直なところ、告白して、肯定してくれて、抱きしめられて……むしろ付き合っていないというのは不自然ではないだろうか。
「あぁ、でもなぁ」
あの程度のことは幼なじみだから小さい頃に済ませている。
「奏ちゃんはいつもの幼なじみ的なノリで、わたしが泣いてたから慰めてくれたという可能性。そして、ずっと一緒、それは幼なじみとして……ううううう」
混乱してきた。
「……しお、大丈夫か?」
「あ、奏ちゃん。うん、ちょっと悩んでて」
「悩み? しおが? 高校の土岐関係の時以来だね」
「うん、実は奏ちゃんと」
奏介が定食のトレーを持って、正面に座ってくる。
「俺と?」
詩音は固まる。
「なんでいるの!?」
「いや、昼ご飯。知り合いがいたから声をかけたってだけだよ。前もあっただろ。なんでそんな驚き方するの」
「う……確かにわたしもそうするけど」
「この前から変だよな。ほら、デザートの杏仁豆腐あげるよ」
「わーい」
詩音はいつものように受け取ってしまい、はっとする。
「うう、思った以上に好物を把握されている」
「何年の付き合いだと思ってるんだ」
奏介は定食の唐揚げを一口。
非常に聞きづらい。びっくりするくらいいつも通りだ。
(確かめるにはどうしたら……)
うんうん唸っていると、奏介がじっと見て来た。
「しお」
「うん?」
「今度、ここ行くか?」
奏介が差し出してきたのは水族館のチケットだった。
「何これ? どうしたの?」
「針ヶ谷にもらったんだ。割引券だけど、連れて行ってやるよ。随分、深い悩みがあるみたいだからね。元気ないし」
「もしかして気を遣われてる!?」
「しおらしくないしね」
詩音は思う。
(完全に奏ちゃんのせいなんだけどね)
とはいえ、デートだ。二人で出かけるなど、よくあることだが、デートということにしよう。
詩音は考えた末に、
「とりあえず、最後に夕日を見たいんだけど、オッケ?」
真顔で言うと、奏介は目を瞬かせる。
「なんで……?」
「なんていうか、そういう気分だから」
雰囲気を作って、聞いてしまおう。自分をどう思っているのかを。