人生うまくいかねえよなあ
暇すぎィ!
俺は近藤卓也。24歳のバキバキ童貞だ。無職であり、毎日酒を飲んでは寝て、起きては食って寝てを繰り返すエリートニートである。今日も今日とて適当に過ごしている。家族構成は双子の兄が一人、そして親は十年前に蒸発した。学生のころは祖父母の世話になった。兄はと言えば証券マンとして、エリートサラリーマンの人生を歩んでいる。俺はそのおこぼれを貰って暮らしているわけだ。
……我ながら最悪な自己紹介だと思う。しかし俺だって初めからそういったわけじゃない。俺にだって頑張っている時期はあった。高校生までは勉学に励み、夢を追いかける爽やかな青年であったのだ。
「卓ちゃんは偉いわねえ」「将来は銀行員か?はっはっはっ」
こんな風に将来を期待されていた頃が懐かしい。しかし現実は非情だ。俺は今は何もせずにただ酒を飲んでは「こんなはずではなかった」とのたうち回っているだけだ。俺がこうなったのにはある失敗が原因だ。簡単な話である。女に騙されたのだ。
具体的言うと、友達に誘われて行った初めて合コンで作った彼女に「親が病気なの…、助けて…卓也君…」なんて上目遣いで迫られて大金を用意した一週間後に蒸発された。後で聞いた話だが、彼女は男癖が悪くホストの男に貢いでいたらしい。俺は出汁にされたわけだ。それだけではない、ありもしない噂を学内で吹き込まれ俺は大学を中退にまで追い込まれた。バーカ、バーカ。死んじまえよ。何も知らなかった友達は俺に何度も謝罪してきたが、それで俺の心の傷が癒えることはなかった。なんせ人生で初めての彼女だったのである。今でも思い返せば涙が出てくる。
幼稚園から高校までずっとエレベーター式の男子校にいた俺は「彼女」という存在に憧れを抱いていた。周りの奴らが女を作ったと聞くと「ふーん、興味ないね」なんて返してた俺だが、本当は興味ありまくりだった。ありありのありだった。キスってなんだ…、セックスってなんだ…。初めての彼女を作った時は「俺もとうとうその喜びを知れる!」なんて息巻いたものである。しかし冷静に考えると女経験がないやつに上手くいくわけがない。結局はさっき言ったようになったのだ。
「俺いつまでこんなことしてんだろうな…」
俺ももう24歳。これ以上こんな生活していたら本当に戻れなくなってしまう。立ち直らなければならないのはわかっている。大学の同期はもう就職先を決めたと聞いた。自分でもわかっている。こんな風になっているのは俺が弱いからであると。
変わらなければならない、俺は玄関を開けて外に出た。空は青く澄み渡っている。どこまでも広がる大空に俺は自分の悩みはなんて小っちゃなものなんだろうと感じた。気付いたら俺は走り出していた。まだ俺の人生は全然終わっていない。これからじゃないか。兄貴に言って人生をやり直そう。まだまだ。
「ふふっ、あっはっは!なんか馬鹿見てえだ!」
俺の人生はまだまだこれからなんだ、どこまでも行ける。まだ諦める時じゃない!風を背中に感じた。まるで何かから背中を押されているような気分だ。行こう、気の赴くままに。きっと何とかなるーーー
グシャっ
そうして俺は信号を無視していたことに気付かず、トラックに轢かれて死んでいった。多分上を向きながら走っていたからであろう。