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96話 凍てつくモノ

 

「フェイルさん!」

 茉菜はふらつくフェイルの背に手を回し、その体を支える。


「フェイルさん! 大丈夫ですか!?」

 頭から血を流すフェイルに茉菜は呼びかける。

 その茉菜の肩にフェイルが手を置く。


「聞こえて、います。あんまり、叫ばないでください」

「でも……!」

「大丈夫です。かすっただけ、ですから」

 頭に手を当てて顔を顰めて言うフェイル。

 そしてフェイルは正面に続く通路の先を見据える。


「ちッ、しぶとい奴だな」

 その通路の先から一人の男が姿を現す。

 手に持った小石のようなものを放りながら歩いてくる男。


「今のは、あなたですか……?」

 頭を押さえながらフェイルが男に問う。


「あ? ああ、そうだぜ」

 その問いに事もなげに頷く男。


「どうしていきなり……!」

「どーしてって、お前ら侵入者だろうが? なら何されても文句言えねーよな」

 憤る茉菜に首を振って男が言う。


「あなた、一体何者ですか?」

「俺か? 俺はラッサス。魔術騎士団〈暗影騎士団〉の副団長だ」

 フェイルの問いに男は軽く答える。

 その言葉に目を見開くフェイル。


「何故魔術騎士団がこんなことを!?」

「ああ? てめーらの立場はよく知らねーが……エドランド帝国からの命令だぜ。『監獄に侵入した者はぶっ殺しても構わねー』ってな」

「どうして……!」

「どうしてって、あれだろ。あの反逆者、『銀の悪魔』、プラタを外に出さねーためだろ」

 その言葉に顔を見合わせるフェイルと茉菜。


 そのプラタなら、先程脱獄したばかりだ。

 その脱獄を茉菜たちも手伝った。


「プラタ将軍閣下ならば既に脱獄しました!」

「おお、そうか──って、はぁ!?」

 フェイルの言葉に驚愕したように目を剥くラッサス。


「あ、あの化け物が、既に自由の身だって言うのか!?」

「そうです! 私たちがお助けいたしました!」

 胸を張って自信満々に答えるフェイル。

 茉菜はその袖を引っ張る。


「あの、フェイルさん、喋りすぎじゃ……」

「あ」

 やべ、と言う風に口を塞ぐフェイル。

 しかし、既にラッサスはそれを耳にしていた。


「て、てめーら、何てことしてくれてやがるんだ!? これじゃ、俺たちがエドランド帝国に殺されちまう!」

 頭を抱えてラッサスは叫ぶ。


「くっそ! 今すぐ捕まえに行けば……ああ、でも俺じゃ勝てねーし……くそ、どうすれば……」

 そこまで言い、ラッサスは顔を上げる。

 そして茉菜たちを見てにやりと笑った。


「ああ、いいこと考えた。ここでお前らをぶっ殺せばいいんだ」

「なっ!?」

 その物騒な言葉に茉菜は目を見開く。


「だって、そうだろ? てめーらは脱獄の幇助犯。なら、てめーらをぶっ殺せば俺の手柄になる。はっははっ! こりゃいい!」

 手を叩きながら笑い声を上げるラッサス。

 それを見て一歩後退りをする茉菜。


 マズい。 

 大丈夫そうとは言え、フェイルは負傷している。

 逃げ切れるだろうか。


「茉菜」

 そこでフェイルが茉菜の方を見る。


「私のことは置いて行って構いません。先に逃げてください」

「フェイルさんはどうするんですか……!?」

「私はここであの男を足止めします」

「そんな……!」

 茉菜は首を振る。


 無理だ。

 フェイルは怪我をしている。

 その状態で戦うのには無理がある。


「逃げてください。あなたまで命を懸ける必要はありません」

 茉菜と目を合わせてフェイルは言う。

 その目の強い意志の光を見て、茉菜は目を見開いた。


 そしてゆっくりと頷いた。


「わかりました。逃げます」

 その言葉を聞き、安心したように笑うフェイル。


「でも」

 だが、茉菜はさらに続ける。


「逃げるのは二人で、です」

「茉菜?」

 茉菜の言葉に眉をひそめるフェイル。


「フェイルさんが逃げないのなら、私も逃げません」

 茉菜はそう言いラッサスに向き直る。


「そんな! 茉菜、あなただけでも逃げてください!」

 そう叫ぶフェイルに茉菜は顔を向ける。

 そして微かに笑いこう言った。


「……嫌です」

 そして茉菜はラッサスに向かって走り出した。


「はっは! ガキ、てめー、逃げなくていいのか!?」

 ラッサスは手に持った小石を上に放る。


「私は、誰かを置いて逃げたりしません!」

 茉菜はラッサスに向かって走り出す。


「そうかそうか! そりゃ高尚なこった!」

 ラッサスは放り上げた小石を掴むと、それを茉菜に向けて投げつける。


 茉菜は迫る小石を割ろうと拳を振り上げる。

 しかし、そこでフェイルが叫ぶ。


「茉菜! 避けてください!」


 それと同時にラッサスも叫ぶ。


「“加速”ッ!」

「っ!?」

 茉菜の目の前で超加速する小石。

 茉菜は、それを間一髪のところで避ける。


 猛スピードで茉菜の顔の横を通り過ぎる小石。

 小石は爆音と共に茉菜の背後の壁に突き刺さった。


「くっ!?」

 それを見て目を見開く茉菜。

 茉菜は即座に足を止めて背後に飛び、ラッサスと距離を取る。


「今のは……!?」

「魔導です! 恐らく、投げた小石に“加速魔術”を使用しています!」

 目を見開く茉菜にフェイルが叫ぶ。


「正解だ。どうだ、俺の“加速”は? 当たったらその部分が弾け飛ぶぜ!」

 小石を放り上げながらラッサスは言う。


 だが、茉菜は微かに笑う。


「あなたの技はもう見切りました。先程のものであれば、難なく避けられます」

「んだと!」

 茉菜の言葉に顔を顰めるラッサス。

 次の瞬間、茉菜はもう一度ラッサスに向かって走り出す。


「ちッ! “加速”!」

 舌打ちをして茉菜に向かって小石を投げるラッサス。

 茉菜の目の前で再び加速する小石。


 茉菜は顔を傾けてそれを避ける。


 大丈夫だ。

 避けられる。


 だが。


 小石を避けた茉菜を見て、ラッサスは厭らしい笑みを浮かべる。

 その表情を見て嫌な予感がする茉菜。


 ラッサスが口を開く。


「いいのか──避けて?」

 その言葉に目を見開く茉菜。


「っ!?」

 背後を振り返る茉菜。


 途轍もないスピードで飛んでいく小石の凶弾。

 その向かう先には、フェイルがいた。


「フェイルさん!」

 茉菜は叫ぶ。


 迫る石を見て目を見開くフェイル。

 フェイルは避けようと顔を動かす。

 茉菜はフェイルに向かって走り出そうとした。


 全てがスローモーションのように見える。

 間に合わない。


 石がフェイルに当たる寸前、茉菜は思わず目を瞑った。


 そして。

 ガツンッ、と言う衝突音が響く。


 寒い。

 一気に気温が下がった気がする。


 冷気が、漂ってきた。


「あれー? なーんか楽しそうなことしてるじゃーん。──あたしもぉ、混ぜてよ」

 聞き覚えのある声。

 だが、聞いたことのない喋り方だ。 


 その声を聞き、茉菜は目を見開く。


 どうして。

 なぜ、ここに。


 実辰が、いるのだろうか。


「──碓氷さん!?」

 茉菜は実辰の名を叫ぶ。

 だが、すぐに訝し気に顔を顰める。


 目の前でニヤニヤと笑う少女は、本当に茉菜の知る碓氷実辰なのだろうか。


 茉菜から見て、碓氷実辰と言う少女は少し臆病なところもある普通の少女、と言う感じだった。


 だが。


 見たこともない表情。

 見たこともない目つき。


 その目を見て、茉菜は体を震わせる。

 まるで、獲物を見つけた『蛇』だ。


 爬虫類のように縦に割れたその瞳孔。

 薄暗い地下の中で爛々と輝く赤い瞳。


「あれ、茉菜じゃーん。ひっさしぶりー」

 実辰はすぐに茉菜に目を向けると手を振る。


「この人たち、茉菜の知り合い?」

 そう訊ねる実辰の声を聞き、茉菜はハッと我に返る。


「そうだ、フェイルさんは……!」

「……私なら、大丈夫です」

 茉菜の声を聞き、フェイルが返事をする。


 フェイルは無事だった。

 その目の前には氷の壁が起立していた。


 その氷の壁にめり込んでいる小石。

 どうやら、実辰がフェイルを守ってくれたようだ。


「ちッ! 仲間かよ!」

 考えに耽っていた茉菜は一瞬反応が遅れた。


 ラッサスの声と共に、風切り音が迫る。

 そちらの方を振り向いた茉菜は、自分に迫る石を見て目を見開く。


 だが。


 ガツンッ、と言う音と共に石は氷の壁に阻まれる。


「ダメだよぉ、茉菜。知らないの? 一つ、敵に背中を見せるな。二つ、敵から目を離すな。三つ──」

 指を立てて実辰がそう言う。

 そして口の端を吊り上げる実辰。


「──敵は殺すまで、敵」

 そこまで言うと、実辰は身を屈め疾走の準備に入る。


「くっそ!」

 それを見て、ラッサスはこちらに背を向けると走り出す。


「“加速”!」

 そう叫ぶラッサス。

 するとその体が超加速し、その背があっという間に遠くなる。


「酷いなぁ、女の子を見て逃げ出すなんて」

 実辰がくつくつと笑って首を振る。


「くッ!?」

 その瞬間、走るラッサスが足を滑らせた。

 その足元には氷が張っている。


 次の瞬間、実辰の姿が消える。


 走り出した実辰は一瞬でラッサスに追い付くと、その背に向かって拳を振り上げる。


「きゃはッ!」

 実辰は小さく笑い声を上げ、口を歪める。

 その顔を見てラッサスは戦慄したように目を見開く。


 そして。


「ぐがッ!」

 実辰の拳が思い切り振り下ろされる。

 その拳はラッサスの背中に突き刺さり、その体を地面に叩き付けた。


 苦悶の声を上げて地に伏すラッサス。


「今のは……」

 茉菜は目の前の光景が信じられず目を見開く。


「あ、茉菜」

「……は、はい」

 実辰に呼ばれ、茉菜は体を震わせる。


「今の、みんなには秘密ね」

 口に指を当ててそう言う実辰の目は、普通の黒目だった。


 


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