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95話 子猫ちゃんたちの反撃

 

「はっ!」

「にゃあ!」

「ははっ、当たらないよ! 子猫ちゃんたち!」

 一華の木刀とティアの拳を瞬間移動で避けるヴェンシス。


「……当たらない!」

「一華、焦っちゃダメなのにゃ!」

 苛立ちを込めて吐き捨てる一華にティアが言う。


「うん!」

 一華は頷き、再びヴェンシスに向かって走り出す。


「何度やっても同じことさ!」

 ヴェンシスは余裕を崩さずに髪をかき上げ、別の場所に転移する。


「にゃ!」

 再び姿を現したヴェンシス目掛けてティアが突進する。


「おっと」

「もぉ!」

 かなりの速度のその突進ですら、ヴェンシスは余裕で回避する。

 空振りした拳を見て悔しそうにティアが呻く。


 ヴェンシスに翻弄される一華たち。

 ヴェンシスはその余裕からか、自分からは一切攻撃してこない。

 なので、一華たちは無傷のままだ。


 しかし、ずっと攻撃を続けているため一華たちには疲労が溜まりつつある。

 そのため動きが鈍くなり、更に攻撃が当たりにくくなっている。


「戦い方もうっざいのにゃあ……!」

 軽く舌打ちをしてティアが言う。

 その隣で肩で息をする一華。


「どうしたんだい? もう、お終いかい?」

「うっさい! ちょっと黙るにゃ!」

 ベッと舌を出してティアが言う。


「……どうしよう」

「うむむむ……」

 一華は隣に立つティアを見る。

 ティアは難しい顔をしてヴェンシスを睨み付けている。


 ヴェンシスは攻撃をしてこない。

 だが、一華たちの攻撃も当たらない。

 この状況を打破するには、まず攻撃を当てなくてはならない。


 だが、瞬間移動を持つ者相手にどうやったら攻撃を当てられるというのだろうか。


「目……」

 そこでティアが呟く。


「ティア?」

「あいつ、瞬間移動する直前に移動する方向を見ているのにゃん」

「それって……!」

 一華は目を見開く。


 それが分かれば、移動される前に移動する場所が予測できるのではないだろうか。

 しかし、ティアは首を振る。


「でも無理なのにゃ。速過ぎる。例え移動位置を予測して、その位置に攻撃したとしても、もう次の位置に移動されているのにゃ……」

「そっか……」

「あいつの呼吸を乱すことができればにゃあ……」

 眉をひそめてティアは言う。

 一華はヴェンシスの方を見た。


 ヴェンシスは余裕を崩さずに髪をかき上げている。


 呼吸を乱す。

 だが、攻撃を当てられない以上、それは不可能に近いだろう。


 一体どうすれば……


 と、その時。


 ティアがピクリと耳を動かした。

 ヴェンシスも首を傾げている。


 少し遅れて一華の耳にも届いた。


 足音だ。

 音からして、一人。


 一華たちの背後から聞こえてくる。


 どんどん近付いてくる足音。


「どうする? ティア」

「……ちょっと待つのにゃ」

 木刀を握り締める一華をティアが止める。


「おおおおおおおおおおい! ティアああああああ! 一華ぁあああああああ!」

 背後からそんな大声が聞こえてきた。

 その声を聞き、驚いて背後を振り返る一華。


 そして声の主の名を叫ぶ。


「凜!?」

「やっぱり! 一華とティアだ!」

 そこには手を振りながら駆け寄っている凜の姿があった。

 随分と久しぶりにその姿を見た気がする。


 それもそうだ。

 なにせ、この世界に転移して以来、一華たちは凜たちとは別行動だったのだ。


 一華は凜の元気そうな姿を見て安心した。

 どうやら無事だったようだ。


「やれやれ、子猫ちゃんがもう一匹か……」

 ヴェンシスのその呟きで一華は現実に引き戻された。

 今一華たちは敵の前にいたのだった。


 再会を喜んでいる暇はない。


「わ、イケメン!?」

 駆け寄ってきたヴェンシスを見て足を止める。

 その目は大きく見開かれていた。


「やれやれ……」

 まんざらでもなさげに髪を払うヴェンシス。


「凜、騙されちゃいけないのにゃ。そいつは顔は良くても中身は残念な奴なのにゃ」

「あと、敵だよ」

 ティアの後に一華は付け加えて言う。


「えと、どういう状況なの……?」

 ヴェンシスと一華たちを交互に見て困惑した顔をする凜。


「その人、私たちを捕まえようとしてるのにゃん」

「ああ、なるほど……」

 ティアの簡潔な説明で納得した様子の凜。


「さて、新しい子猫ちゃん。君も侵入者のようだね。牢に大人しく入る気はあるかい?」

「こ、子猫ちゃん……?」

 ヴェンシスの言葉を聞いた凜は、ぽかんとした顔をする。


「気にしたら負けなのにゃ」

「そ、そっか……」

 首を捻りながらも凜は頷く。

 そしてヴェンシスの方を見て言う。


「あ、私、牢屋に入るつもりはありませんよ」

「そうかい……残念だよ」

 そう言い、こちらに向けて足を一歩踏み出すヴェンシス。


「凜、気を付けるのにゃ! あいつ、瞬間移動を使うのにゃ!」

「わかった、ありがと!」

 ティアが凜に警告を発した。


 一華は地を蹴ってヴェンシスに向かって突進する。

 それを瞬間移動で躱すヴェンシス。


 再び現れたヴェンシスに向かって凛とティアが突進する。

 しかし、それも瞬間移動で避けられる。


 一華は、ヴェンシスの目の動きを注視して、次の移動位置を予測する。

 そしてその方向へ向かって走り出す。


 一華が予想した位置に寸分違わずで現れるヴェンシス。

 突進してくる一華を見てヴェンシスは目を見開いた。


 しかし。


 空振る一華の木刀。

 また瞬間移動で避けられた。


 一華は背後に飛び、凛とティアの横に並び立つ。


 パチパチと言う音が聞こえる。

 少し離れた場所でヴェンシスが手を叩いていた。


「素晴らしいよ、子猫ちゃんたち。この短時間で僕の癖を見抜くなんてね。でも、残念だったね。それでも僕には追い付けないようだ」

「うっざぁ……」

 それを聞き、嫌そうに顔を顰めるティア。


「はぁ……攻撃当たんなきゃ何も出来ないのにゃあ……」

「そうだよね……」

 ティアと一華は顔を顰める。


「ね、二人とも。私できるよ。絶対必中の攻撃」

 その二人に向かって凛が言う。


「え、どうやって……!?」

「それは、秘密。ここで話したらバレちゃう」

 驚く一華に向かって口に指を当ててウィンクをする凜。


「二人とも、私が合図したら目を瞑ってね」

 小声でそう言い、凜はヴェンシスに向き直る。


「作戦会議はもうお終いかい?」

「うん、お終いだよ」

 訊ねるヴェンシスに頷く凜。


「聞こえていたよ。絶対必中の攻撃だって? そんなものがあるのかい?」

「うん、あるよ」

 自信満々に凜は頷く。


「まあ、僕に当たるとは思えないね」

「じゃあ、試してみようか? ──二人とも!」

 叫ぶ凜。

 一華とティアは合図と共に目を瞑った。


 その瞬間。

 薄暗い地下に、強烈な眩い光が差す。

 閉じた瞼越しにもその光は感じ取れた。


 光は一瞬で収まった。


「二人とも、もういいよ」

 凜の言葉で目を開く一華とティア。


 特に何かが変わった様子はない。

 ヴェンシスの様子を除いて。


「くッ、何をした!?」

 目を押さえてフラフラと後退りしているヴェンシス。


「え? ただ単純にピカッてしただけだよ? 眩しかったでしょ?」

 事もなげに凜は言う。


「二人とも、今なら攻撃できるよ」

「助かるのにゃん」

 ティアが凜に礼を言う。

 そしてヴェンシスの方へ向き直るティア。


「さーて、さっきまではよくも虚仮にしてくれたにゃあ?」

 指をポキポキと鳴らしながらティアがヴェンシスに言う。


「ッ!?」

「ぶっ飛ばしてやるのにゃん!」

 ティアがヴェンシスに向かって突進する。


 しかし、その拳は空振る。


「にゃ!? この期に及んで!?」

 驚愕したようにティアが叫ぶ。


 ヴェンシスは再び瞬間移動で回避をした。

 しかし、その位置はそう遠くない。


 一華はヴェンシスに向かって突進した。


「“落星”っ!」

「くッ!?」

 木刀を振り下ろす一華

 鈍い音を立てて、木刀がヴェンシスの肩を打ち据える。


「……ぐッ……」

 苦悶の声を上げてヴェンシスは崩れ落ちた。


 床に倒れ込むヴェンシス。

 ティアがその体をつま先でつつく。


 そしてぐっと親指を立てる。


「気絶してるにゃん!」

「よし……!」

 ハイタッチを交わす三人。




「で、この後どうしよう」

 ヴェンシスを縄で縛りながら一華は言う。


「まず、情報を整理するのにゃ。私たちは瑠香、隼人、日和、茉菜、リーと一緒にいたのにゃん。凜、そっちは?」

「私は充、珠輝、心、実辰、スズと一緒だった」

 その凛の言葉を聞き一華とティアは顔を見合わせる。


「つまり、今この国には全員が揃っているってことかにゃ?」

「そうなるね」

 一華はティアの言葉に頷く。


「まず、みんなと合流しなきゃね。凜、他のみんなは?」

「今、別行動中。そっちは?」

「こっちも別々になってる」

 状況を確認する凜と一華。


「私と充と実辰は、一華たちがこの建物に入るのを見て追いかけてきたの。瑠香ちゃんと茉菜もここにいるんでしょ?」

「うん、いると思う」

 凛の言葉に一華は頷く。


「だれかと合流できた人から地上に出て待ってようって話になってるの」

「そっか、じゃあ、取り敢えず地上に出ようか」

 一華たちは頷き合うと、地上に出るための出口を探すために歩き始めた。



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