92話 『銀の悪魔』
地を蹴り、メシウスに突進するプラタ。
右腕を大きく振り被り、そのまま地面に叩き付ける。
爆音と共に砂埃が舞う。
すぐさま地面から腕を引き抜き、顔を覆っているメシウス目掛けてプラタは拳を振るう。
衝突音が響いた。
しかし。
「ぐ……!」
顔を歪めながらも、メシウスは左掌でプラタの拳を受け止めていた。
そして、もう片方の右手がプラタに向けられる。
その掌の光輝く様を、目を見開いて至近距離で見るプラタ。
直後、光が放たれる。
爆発音が響き渡った。
「く……ッ!」
砂埃の中で顔を歪めるメシウス。
その左腕は、だらんと力なく垂れ下がっている。
折れている。
プラタの攻撃が予想以上に重かったのだ。
だが、今ので一撃で仕留められたはずだ。
折れた腕を庇いながら一歩後退するメシウス。
しかし。
「──おい、どこに行く」
そんなメシウスに声が掛かる。
その声を聞き、驚きに目を見張るメシウス。
目の前には、先程と全く変わらない姿で平然と立っているプラタがいた。
「確実に当たったはずだが……噂通りの『不死身』か」
「さあな」
メシウスの言葉にプラタは肩を竦める。
「ま、いい線いってるぜ、お前。『使徒の牙』か? それとも『使徒の剣』か?」
軽く腕を振りながらプラタは問う。
〈黒の使徒〉の団員は、三段階の階級に分けられている。
一番下が『使徒の牙』。
『使徒の牙』には、最低限の能力が使える者たちが配属される。
次に『使徒の剣』。
ここに配属される者たちは『使徒の牙』より強い。
いわば〈黒の使徒〉の精鋭たちだ。
そして最後に『使徒の王』。
ここに名を連ねる者たちは、世界の頂点に位置する者たちと言ってもいい。
『使徒の王』が一人いるだけで、一つの国が滅びるという。
このメシウスという男も異能力を持っている。
恐らく、三つのうちのどれかに属しているはずだ。
「舐めるなよ。私は『使徒の王』だ」
碧眼を細めてメシウスが言う。
その言葉にプラタは目を見張った。
「はぁ? お前、『使徒の王』なのかよ? 弱すぎやしねーか?」
「ふん、愚かしい。今のが私の全力だと勘違いしているようだな」
プラタが言うと馬鹿にしたように鼻を鳴らすメシウス。
「なんだ、まだ本気じゃねーのかよ。早く全力でかかって来い」
「誰がお前の指図など──」
肩を回すプラタにメシウスは再び鼻を鳴らそうとする。
そして言葉を止めた。
その目は驚きに見開かれていた。
「──早く本気を出さねーと……死ぬぜ?」
プラタの身を覆う魄がどんどんと膨張していく。
(──魄を自ら制限していたのか)
メシウスは目を細めてそう分析する。
強い。
『使徒の王』であるメシウスですら、勝てるかどうかわからない。
それほどまでに、プラタの身を覆う魄は膨大だった。
「行くぜ! メシウスとやらッ!」
そう叫び、プラタは地を蹴る。
メシウス目掛けて一直線に突進するプラタ。
その速度は、常人の目で追えるものではない。
かろうじて腕を交差させ、メシウスは防御態勢に入る。
その腕を霊装が覆う。
そこに、同じく霊装を纏ったプラタの拳が衝突する。
後方に大きく吹き飛ばされるメシウス。
そのまま背後の皇宮の壁に叩き付けられる。
「ぐッ!?」
壁に叩き付けられ、メシウスは苦痛に声を漏らす。
顔を歪めてプラタの姿を探す。
そして目を見開く。
プラタは目の前にいた。
既に拳を振り上げているプラタ。
「くッ!」
すかさずメシウスは身を捻り、回避行動を取る。
直後、メシウスの頭部があった場所が吹き飛ぶ。
プラタの拳が壁にめり込んでいる。
プラタは拳を振り抜いた後、更に腕を横に振った。
瓦礫が吹き飛び、メシウスを襲う。
腕を交差させて顔を覆い、身を守るメシウス。
そのメシウスに再度拳を振りかざすプラタ。
それを見たメシウスは目を見開いた。
そして、小さく呟く。
「──〝神怒〟」
その瞬間、メシウスの姿が光に包まれる。
そしてその姿が消えた。
空振るプラタの拳。
「……ようやく本気になったかよ」
体勢を整え、プラタは背後を振り返る。
そこにはメシウスが立っていた。
「──見たところ、てめーの能力は『自然型』の『光』ってところか」
首を鳴らしてメシウスに言うプラタ。
メシウスはそれに答えずに警戒したようにプラタを見ている。
「『自然型』の能力は強力で厄介だが、種が割れるのは早い」
拳を打ち合わせてプラタは不敵に笑う。
「もう終わりか?」
「──いいや、続きと行こうか!!」
目を細めて問うメシウスに向かって再度走り出すプラタ。
それを見たメシウスも地を蹴り、プラタに突進する。
拳を振り上げる二人。
そして二人の拳がぶつかり合った。




