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87話 許さない

 

 どうにか全員無事だった瑠香たちは、半ば呆然としながらも魔動車を降りる。


 瑠香たちは無事だったが、魔動車は無事とは言い難かった。

 至るところがベッコベコにへこみ、もはや廃車同然だった。

 持ち主には悪いことをした。

 まあ悪いのはフェイルだが。


 魔動車に向かって心の中で合掌すると、瑠香は監獄の内部に目を向ける。


 監獄内部には誰もいなかった。

 がらんと静まり返った一階フロアを見回す瑠香たち。


 普通に大惨事だ。

 ガラスやら何やらの破片が飛び散り、椅子やテーブルなどの家具類も吹き飛んでいる。


 しかし、何故誰もいないのだろうか。


「フェイルさん、どうします?」

 同じく周囲を見渡していたフェイルに瑠香は訊ねる。


「誰もいないのは不気味ですが……取り敢えず進みましょう」

 フェイルは瑠香たちを見て言う。

 その言葉に頷く瑠香たち。


「この監獄、囚人たちは地下に収監されているようです。下に行きましょう」

 フェイルはそう言い、下に続く階段を指差す。

 そのまますたすたと歩き出すフェイル。

 瑠香たちもそれに続く。


 地下へ続く階段を下りながら、瑠香はふと考える。


 そういえばここは監獄だ。

 瑠香たちのように、侵入しようとする者だっているはず。

 だが、人は一人もいない。


 一体、どうやって警備しているのだ?

 瑠香がそんな疑問を抱いた、その瞬間。


 パカッと瑠香たちの足元の階段がなくなる。


「あ」

 目を丸くして瑠香は思わず声を出す。


 そう言えば前に見た映画でこんなシーンを見たかもしれない。

 即ちトラップ、罠だ。


「うわぁあああああああああっ!?」

 絶叫しながら落下する瑠香。


 しかし、今日はよく叫ばされる。

 全く、ツイてない。




『──い──おい、起きろ』

「──ぅ、ん……」

 声が聞こえる。

 瑠香は軽くうめき声を上げて目を開く。

 辺りは少し薄暗い。


『お、ようやく目覚めたか』

「……世界軸、私……」

 瑠香は頭に手を当てる。


『覚えてるか。お前落っこちたんだぜ』 

 状況を説明してくれる世界軸。


「そうだ……罠にはまって……」

『で、今までずっと寝てたんだぜ』

 それを聞いてガバッと起き上がる瑠香。


「世界軸! 今何時!?」

『安心しろ。お前が気絶してから十分も経ってねーよ』

「そっか……よかった」

 安堵する瑠香。


「……あれ、みんなは?」

 起き上がり周りを見回す瑠香。

 周りにはだれもいない。


『はぐれちまったみたいだな』

「そっか、探さなきゃね」

『あんま慌てないんだな』

 少し意外そうに世界軸が言う。


「はぐれるのは、初めてじゃないからね」

『──それもそうか』

「うん」

 瑠香の答えに面白そうに笑う世界軸。 

 瑠香は頷くとそろそろと足を踏み出す。


『……何やってんだ?』

 呆れたように問う世界軸。 


「罠があるかもしれないから」

 瑠香は真剣に答える。

 世界軸は、それを聞いて大爆笑する。


『あっはは! 大丈夫だ、罠はもうねーよ』

「え、なんでわかるの?」

 瑠香は目を丸くして訊ねる。


『俺が調べた。大丈夫だ、保証するよ』

 自信満々に答える世界軸。


「ねえ、世界軸」

『なんだ』

「最初から世界軸が調べてたら、私たちが落ちることもなかったよね!?」

『うるせーなぁ。細けーこと気にすんなよ』

「気にするでしょ!」

『はいはい、次から気を付けますよー』 

 面倒臭そうに言う世界軸。

 瑠香は溜め息を吐く。


 そして再び周囲に目を向ける。

 薄暗いが、何も見えないというほどではない。


 鉄格子のようなものが見える。

 それ以外は壁しか見えない。


「あれ、私もしかして捕まってる?」

『もしかしなくとも捕まっているぞ』

 あっさりと世界軸が言う。


『落ちた先がちょうどここだったんだ。侵入者は自動的に牢に落ちる仕組みだな』

「すごいね。便利」

 瑠香は感心して頷きながら鉄格子に近付く。


 そして鉄格子を両手で掴む。

 その手に力を込める。


「ほい!」

 ぐにゃりと曲がる鉄格子。

 その間からするりと外に抜け出す瑠香。


『……ま、能力者用にはできてなかったみたいだな』

「おかげで助かったけどね」

 左右を見て瑠香は言う。


「みんなと合流しなきゃ。どこにいるか分かる?」

『いんや。自分で探せ』

「えー」

 そっけなく言う世界軸に口を曲げる瑠香。


 だが、すぐに歩き出す。

 止まっていては何も起きない。


「それにしても、誰もいないね」

 周りを見て瑠香は言う。


 道の両脇には監房が並んでいるが、その中には誰もいない。

 しかも、看守らしき者すらいない。


『おい』

 周囲を見ます瑠香に世界軸が声を掛ける。


「ん、何?」

『……誰か、いるぜ』

 それを聞き、瑠香は道の先に目を向ける。


 うっすらと人影が見える。

 ゆっくりとそちらへ向かう。


 段々と道の先に立つ者の姿が明らかになっていく。


 痩身の男だ。

 軍服のようなものを身に纏っている。


「──止まれ」

 声を発する男。


「お前、侵入者だな」

「え、っと、はいそうです、って言うべきなのかな……」

『実際そうだろ』

 男の問いに首を捻る瑠香。

 世界軸が茶化したように言う。


「そうか。それがわかればいい」

 一歩こちらに足を踏み出す男。


「俺は、魔術騎士団〈暗影騎士団〉団長、ダグラだ」

「魔術騎士団……!」

 瑠香はその名を呟く。


 ウィスターから魔術騎士団の話は聞いていた。

 話では、バベル帝国を守護する精鋭部隊だとか。

 事情を話せばきっと協力を得られるはずだ。


「助けてください! 私たち、エドランド帝国からこの国を取り戻したいんです!」

「……ほう」

 興味深そうに眉を吊り上げるダグラ。


「どうやってだ?」

「革命を起こすんです! そしてこの国を解放して──」

 だが、瑠香の言葉はダグラの乾いた笑い声に遮られる。


「ハハハッ! 革命、解放か! これは傑作だ!」

 顔を歪めて笑い声を上げるダグラ。


「何がそんなにおかしいんですか……?」

 瑠香は眉を顰めて問う。 

 ダグラは笑い声を弱めてこちらを見る。


 その顔を見て瑠香は一歩後退る。

 ダグラの顔に浮かんでいたのは、歪んだ笑みだった。


「いいか、ガキ。一つ、いいことを教えてやる」

 顔を上げてダグラは言う。


「俺たちは、解放なんざ望んじゃいない。今のままでいいんだよ」

「どうして……」

「命令に従ってさえいれば、エドランド帝国は甘い蜜を吸わせてくれる。これ以上旨い話はない」

 その言葉に絶句する瑠香。


「でも、他の人は苦しんでるって!」

「は? んなこと知るかよ。誰が苦しもうが、俺にはどうでもいい」

 厭らしい笑いを浮かべダグラは言う。


 瑠香は目の前の男が何を言っているのか、理解できなかった。

 理解したくもなかった。

 首を振る瑠香。


「そんな……だって、魔術騎士団は国を守る人だって……」

「ああ? そんなのは昔の話だ。今は逆なんだよ」

 言葉を失う瑠香にダグラは言った。


「逆って、どういうこと……?」

「この国は今やエドランド帝国のものだ。──だが、支配に反抗する奴はどこにでもいる」

 手を広げてダグラは言う。


「今の魔術騎士団の役割は、そいつらを捕まえて牢にぶち込むことさ」

「そんな……」

「まあ、俺はこの監獄の配属になっちまったが……拷問ってのは、結構楽しいもんだぜ」

「なんで、なんでそんなこと……!」

「牢に来るのは反逆者だぜ? 何されても文句は言えないだろ」

 酷薄な笑みを浮かべてダグラは言う。

 その様子に、瑠香の中でふつふつと怒りが湧いてくる。


 ウィスターから、バベル帝国の民衆は苦しんでいると聞いた。

 そしてそれを話すウィスターの、辛そうな顔。


「あなたたちは、強いのに……」 

「あ?」

 拳を握り締める瑠香に怪訝そうな顔をするダグラ。


「他の人よりも、強いのに……誰かを、守ることが、できるのに……!」

 顔を上げダグラを睨み付ける瑠香。


「なんで、守るために力を使わないのっ!!」

 瑠香は吠える。

 ギリギリと、血が滲みそうなほど拳を固く握り締める。


 悲しみが。

 怒りが。

 涙となって瑠香の目から溢れ出た。


「守るため? 馬鹿が。力は、奪うために、存在してるんだよッ!」

 そう叫び、地を蹴るダグラ。

 ダグラは瑠香目掛けて突進する。


「世界軸っ!」

『ああ!』

 瑠香が叫ぶと、その手に杖となった世界軸が現れる。


 この国の歪みが、今垣間見えた。


 瑠香はこの国のことをよく知らない。

 この国に生きる人と、会ったこともない。


 だが、思うのだ。

 自由を奪われて。

 希望を奪われて。


 果たして、笑って暮らせるだろうか。

 幸せだと、言えるだろうか。


 ──違う。

 恐怖で支配される日々は、きっととても辛いはずだ。


 目の前の男には力がある。

 民衆を守れるだけの力が。

 だが、その力を事もあろうに民衆に振りかざしている。


『なんで、人間は優しくなれないんだろうな』

 剣人の言葉が脳裏によぎる。


 それはいつしか剣人と見た、世界の不条理さによく似ていた。


 だが、それでも。 

 どれほど不条理だとしても。


 許さない。

 絶対に、許してはいけない。

 そう思ったのだ。


 大丈夫だよ、剣人。

 私が、全部助けるから。

 もう誰も悲しまないようにするから。


 もう、あなたが悲しまなくてもいい世界にしてみせるから。


 涙を拭う。

 そして、瑠香は世界軸を構えた。




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