84話 衝突
北にある皇宮を目指し、南大通りを疾走するアレンたち。
いたるところに暴徒と化した民衆がいるのが見える。
その横を駆け抜ける。
しかし、途中でアレンは足を止める。
「……参ったな」
「どうしましたか?」
アレンの横で足を止めてエマが訊いてくる。
アレンは目を細めて皇宮の方を見る。
「見てみな、あそこ」
そう言いアレンは皇宮の方角を指す。
そこには道を封鎖するエドランド帝国の兵士たちの姿たちがあった。
「……どうしましょう」
アレンを見て問い掛けるエマ。
「通してもらおう。力尽くででも」
そう言い、アレンは手に魄の剣を作り出す。
「行くよ!」
アレンは剣を手に駆け出す。
「誰だ!?」
「止まれ!」
高速で接近するアレンに気付いた様子の兵士たち。
「いいや、止まらないさ!」
そう言いアレンはバリケードを蹴り飛ばす。
「ぎゃあああああ!?」
「ぐッ、なんだこいつ!?」
バリケードと兵士たちが吹き飛ぶ。
慌ててアレンを取り囲み、一斉に抜刀する兵士たち。
「ちょっと、やりすぎか?」
包囲されてもアレンは余裕を崩さない。
「貴様、何者だ!」
剣をアレンに向け、指揮官らしき兵士が声を上げる。
「何者だ、って訊かれてもね」
「答えろ!」
こちらを睨み付けて声を荒げる兵士。
「そうだな。敢えて名乗るとすれば……」
そう呟きアレンは腕を持ち上げる。
そして、魄でできた剣を兵士に向ける。
「『鬼剣』のアレン。──昔は、そう呼ばれてたけどね」
「何を言って──」
その時だった。
「“爆発”っ!」
アレンの背後で大爆発が起こる。
悲鳴を上げて吹き飛ぶ兵士たち。
「大丈夫ですか、アレンくん!」
そう叫びエマが飛び込んでくる。
その後からマーリンも駆け寄ってきた。
「いや、大丈夫だけどさ。せっかくの格好いい名乗りが台無しになっちゃった除けばね」
「あ、そうですよね。アレンくんの〝練器〟、地味ですもんね」
「あっはっは、嫌味かなぁ?」
くすくすと笑うエマに乾いた笑いを上げるアレン。
「二人とも、もっと真面目に……」
そんな二人を困った顔で窘めるマーリン。
「ああ、そうだ──ねッ!」
そう言いアレンは一歩前に出ると剣を振り下ろす。
それによって飛んできた巨大な岩を叩き切る。
真っ二つになり重い音を立てて地面に落ちる巨岩。
砂埃が舞う。
「何!?」
「一体、どこから!」
驚愕するエマとマーリン。
「まだ来るよ!」
アレンは不敵に笑うと、砂埃の中を見据える。
さっと影が動き、巨大な男が飛び出してくる。
「ふンッ!!」
裂帛の気合と共に拳を振り下ろす巨漢。
「よい、しょっ!」
その拳を蹴り上げることで受け止めるアレン。
そして体をねじり、回し蹴りを放つ。
「ぐッ!」
うめき声を上げて吹き飛ぶ男。
「アレンくん!」
そこでアレンに声を掛けるエマ。
顔を上げるアレン。
再び飛来する巨岩。
「なるほど。動きを止めて、岩で押し潰す。──と、見せかけて」
アレンは呟き、右手に持った剣を砂埃の中に突き付ける。
「くッ!?」
「そっちの君が、攻撃か」
顔の目の前に剣を突き付けられ、動きを止める金髪の女性。
女性の動きを止めたアレンは、今度は飛来する岩に目を向ける。
「ほい」
アレンが岩に腕を向けると、飛んできていた岩が跡形もなく消失する。
「なッ!?」
それを見て驚愕したような表情を浮かべる女性。
「君、これ見えるんだね?」
剣を揺らし、女性に話しかけるアレン。
「──あなた、何者ですか?」
質問には答えず、警戒した顔でアレンに訊ねる女性。
「えー、もう一回名乗らないとダメ? 面倒だから嫌だなぁ」
「──いいえ、その必要はありません」
「ん?」
女性のその言葉に首を傾げるアレン。
「“紅炎”ッ!」
その声と共に轟炎がアレンに迫る。
飛び退る女性。
「……へえ、やるじゃん」
だが、アレンは余裕を崩さずに言う。
そして腕を持ち上げ、迫る炎に向けて一気に振り下ろす。
「──“斬鬼”ッ!」
爆風が吹き荒ぶ。
炎が二つに裂けた。
「アレンくん!」
「大丈夫だよー」
後ろで心配そうに声を上げるエマに、手を振るアレン。
そして砂煙の先を見据える。
砂煙から歩み出る一つの影。
銀髪の男だ。
その深紅の瞳でアレンを見据える男。
「やあ、さっきの炎は君のかい? 随分と派手な挨拶だね」
爽やかに笑いアレンは男に声を掛ける。
「お気に召してもらえたようで幸いだ」
銀髪の男は皮肉めいた口調で言う。
「君、面白いね。名前は?」
「カローレ。──〈炎熱騎士団〉の団長だ」
「へえ、魔術騎士団か。僕はアレンだ。よろしく」
名乗り合う二人。
「エマ、先に行きな」
「ですが……!」
「いいから。ここは任せて」
不安そうに言うエマに笑い掛けるアレン。
「行こう、エマ」
「……ええ。アレンくん、どうか無事で!」
マーリンに手を引かれてエマは頷く。
そして皇宮に向かって走り出す。
アレンはカローレと名乗った男に向き直る。
「ルシア。ガバラ、ラペトと合流してここから離れろ」
「はい、あの者たちはどうしますか?」
ルシアと呼ばれた女性は頷いた後、走り去るエマたちに目を向ける。
「追うな。危険だ」
「了解です!」
ルシアは頷き、エマたちとは別の方向へ走り出す。
「いいのかい? 追わなくて」
「部下の命の方が大切だからな」
アレンが問うとカローレは言う。
「ね、少し聞いていいかい?」
「……なんだ?」
アレンが言うと目を細めるカローレ。
「君たち魔法騎士団はバベル帝国の軍だろ? なんでエドランド帝国に従っているんだい?」
「多くは、エドランド帝国を恐れて恭順している」
微かに口を歪めてカローレは言う。
「じゃあ、君がエドランド帝国に従ってる理由は?」
「民衆を、守るためだ」
静かにそう答えて構えるカローレ。
「これも民を守るためだ。悪く思うな」
「痛いのは、嫌だよ?」
アレンは不敵に笑って言う。
そして二人は同時に地を蹴った。




