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83話 ポンコツ騎士と魔動車は止まらない

 

「オルァアアアアアアアアアアアアッ!」

 ハンドルを握ったフェイルが鬼気迫る顔で叫ぶ。


「いやぁぁぁぁああああああああああッ!!」

「きゃあああああああああああああああッ!!」

 悲鳴を上げる瑠香と一華。

 珍しく一華が女の子らしい悲鳴を上げている。


「にゃはははははははははははははッ!!」

 ただ一人大爆笑しているティア。


 なんで。

 どうして。

 こうなったのだろうか。



 遡ること、数分前。


「フェ、フェイルさん!」

「なんですか!?」

 街中を疾走する瑠香たち。


 走りながらも瑠香はフェイルに声を掛ける。

 叫び返すフェイル。


「監獄って、皇都の東はずれにあるんですよね!? 間に合いますか、これ!」

「わかりません! とにかく、走るしかないでしょう!」

「そ、そんなぁ……」

 汗だくになりながら瑠香は喘ぐ。


 北のはずれにある飛行場でウィスターたちと別れた瑠香たちは、目的地である監獄へ向かっていた。

 監獄は東のはずれにあるらしく、飛行場からはかなり離れている。


 前を行くフェイルは全速力で走り続けている。

 瑠香たちには霊装がある。

 とはいえ、いくらなんでも数分間全速力で走るのはさすがにキツい。


 しかも、皇都はかなり広い。

 今から走って監獄まで行くのは無理がある。


 その時だった。


「あ、ティアちゃん、いいもの見つけちゃったにゃん!」

 前方を指差すティア。

 そこにあったものは。


「く、車……?」

 首を傾げる瑠香。


 そこには、地球で見るような車らしきものがあった。

 しかし、肝心の車輪がついていない。


「珍しい。魔動車ですか」

 車のような物の前で足を止めるフェイル。


「魔動車?」

「はい。魔術を組み合わせて作られた自動車です。ちょうどいい。借りていきましょう」

「え」

 意気揚々とフェイルが車の扉を開ける。

 あっさりと開く扉。


 いそいそと魔動車に乗り込むフェイル。

 そして内部を色々といじくりまわす。

 すると、ブゥーンと言う音を立てて機体が地面から浮き上がった。


 なるほどそうやって動くのか、と感心する瑠香。


「何をしてるんですか? 早く乗ってください」

 ハンドルを握り締め、突っ立っている瑠香たちに声を掛けるフェイル。


「でも、大丈夫ですか? それ人の物じゃ……」

「ちょっと借りるくらいなら大丈夫でしょう」

「そ、そうですか……」

 きっぱりと言うフェイル渋々と頷く瑠香。


「ほら、早く乗ってください」

 そう急かされ、瑠香たちは魔動車に乗り込む。

 瑠香、一華、ティアが後部座席。

 茉菜が助手席だ。


「じゃ、行きますよ!!」

 そう言い、勢いよくアクセルを踏み込むフェイル。

 ガクンと車体が後ろに下がる。

 慌ててフェイルがブレーキを踏む。


「フェイルさん、今のバックですよ……」

「わ、分かってます!」

 瑠香が言うと、顔を赤らめてコホンと小さく咳をするフェイル。


「大丈夫かなぁ……」

「心配いりません! 行きますよ!」 

 瑠香が眉を顰めると、今度こそアクセルを踏むフェイル。




 ──そして、今に至る。


 ビュンビュンと景色が通り過ぎていく。

 その景色を楽しむ余裕は、今の瑠香たちにはない。


 フェイルはとんでもないスピード狂だった。

 しかも、運転が荒い。


 はっきり言って、運転が下手糞だった。

 しかし、不幸にもその運転に既に命を預けてしまった瑠香たち。



「おらぁああああああああああああッ!」

 人が変わったように叫ぶフェイル。

 フェイルによって暴走車と化した魔動車が東大通りを爆走する。


「フィイルさん! スピード落として!?」

「ああ!? なんですって!?」

「スピードッ!」

「うるさい! ちょっと黙っててくださいっ!!」

「あ! ダメだこれ!」

 叫び返すフェイルに頭を抱える瑠香。


「ブレーキ! ブレーキ踏め!?」

 顔を真っ青にして運転席の背をバンバンと叩く一華。


「ブレーキぃ!? 今止まったら死にますよ!?」

「死んでもいいから! 止めてぇ!!」

「無理でぇええええええすっ!」

「にゃああああああはははははははははっ!」

 ぎゃあぎゃあと騒がしい車内。


 そんな中一人静かな茉菜。


「あ、あれ、茉菜!?」

 心配になり慌てて茉菜を覗き込む瑠香。


「茉菜生きてる!? 茉菜!」

 茉菜は生きていた。 

 だが、顔は真っ青だ。

 虚ろな目は焦点が合っておらず、ずっとぶつぶつと何かを呟いている。


「あ、ヤバい! 茉菜がヤバい!!」

 あまりの緊急事態に語彙力が残念なことになってしまう瑠香。


「乗り出さないでぇっ!?」

 片手で瑠香を後部座席に押し込むフェイル。

 その瞬間、グワンと蛇行する魔動車。


「ぎゃああああああああああッ!?」

「ひいいいいいいいいいいいいいいッ!」

「にゃっはっはっはっはっはぁっ!」

 一華と瑠香は抱き合って悲鳴を上げる。

 ただ一人だけ、ティアは楽しそうに腹を抱えて笑い声を上げている。


 その時だった。

 目の前に巨大な建物が見えた。


「あ、監獄! 監獄見えました!」

 その建物を指して瑠香は叫ぶ。


「止まります! 急ブレーキに備えてください!」

 そう叫ぶフェイル。

 それを聞き、それぞれ座席にしがみ付く瑠香たち。


 ──しかし。


「あの、フェイルさん……?」

「……」

「あの、ブレーキ……」

「……」

「あの、ブレーキは……?」


 何も起きないままどんどんと監獄が迫ってくる。

 不安になってフェイルに声を掛ける瑠香。


 だが、返事がない。


「フェイルさん!」

「……あの」

 そこでフェイルが小さく声を上げた。


「すみません」

「は?」

 いきなり謝られてぽかんと口を開く瑠香。


「ど、どうしたんですか? 早く、早くブレーキを踏まないと──」

「ブレーキ、壊れちゃいました」

 フェイルは振り返り、無表情で言う。

 その足はブレーキを力いっぱい踏み込んでいる。


「へ?」

 間抜けな声を出す瑠香。


 監獄の入口がすぐそこまで迫っていた。


「きゃあああああああああああああッ!?」

「ぎゃあああああああああああああッ!?」

「いやあああああああああああああッ!?」

「うにゃああああああああああああッ!?」

「ひいいいいいいいいいいいいいいッ!?」


 全員で悲鳴を上げる。

 魔動車は止まらない。



 そして──



 轟音と共に監獄の扉に突っ込む魔動車。

 車内は激しい衝撃に見舞われる。


 そして最後に爆音と共に壁に衝突し、その動きを止めた。


 席に座ったまま、あっけにとられた顔をしている瑠香たち。

 全員、無事だ。

 どうやら、魔動車は思ったより頑丈だったらしい。


「……フェイルさん」

「はい」

 瑠香が口を開く。

 返事をするフェイル。


「……運転、どれくらいしたことあります?」

「……初めてです」

「……あの、フェイルさん」

「はい」

「もう、運転は絶対にしないでください」

「……はい」

 瑠香の言葉にフェイルはしおらしく頷いた。 




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