78話 〈炎熱騎士団〉
「なあなあ!」
「……」
「なあってば!」
「……なんだ?」
前を行く銀髪の男、カローレに盛んに話しかける心。
今充たちは、カローレたちに連行されている最中だ。
と言っても、拘束されているのは心だけだ。
充たちは特に拘束されていない。
だが、周囲には先程襲ってきた巨漢と金髪の女性、そして少年が控えており逃げられないようになっている。
心だけ拘束されている理由は、捕まってからもずっと暴れていたからだ。
その心は、腕を縄で縛られていながらも好奇心旺盛に周りを見回していた。
騒がしくしている心に根負けしたのか、カローレが口を開く。
「あれ! あれなんだ!?」
心は縛られた両腕を持ち上げて正面を指す。
心が指す先には、遠くからでも見えるほど巨大な水晶玉があった。
その水晶玉は、巨大な建造物の上に鎮座していた。
「……『王の灯』を知らないのか?」
「なんだそれ」
カローレの声に、心が首を傾げる。
「あれは、『王の灯』。この国を照らす希望さ」
「でも、なんか暗くね?」
心の言う通り、水晶玉はとても輝いているとは言い難い。
むしろ、灰色に濁ったような色をしている。
「『王の灯』はこの国に王がいないと光らないんだ」
「ん? じゃあ、王様いねーのか?」
心が首を傾げて言う。
その言葉を聞き、怪訝そうな顔をするカローレ。
「『王の灯』を知らなければ、この国のことも知らない。君たちは一体どこから来たんだ?」
カローレはそう訊ねる。
「ん? 異世界だぜ」
その問いにあっけらかんと答える心。
「おい」
充は心を睨む。
「いいだろ、別に」
「大事な情報を勝手に話すな」
「細けーこと言うなよ」
充が言うと、顔を顰める心。
だが、カローレはそれを他所に思案気な顔していた。
「そうか、異世界から……」
そう言い、顔を上げるカローレ。
そして、一つの建物の前で立ち止まる。
「丁度いい。話は中で聞かせてもらおう」
そう言いカローレは扉を開ける。
「ようこそ、我が〈炎熱騎士団〉の詰所へ」
建物の中に入ると、充たちは少し広めの部屋に案内された。
部屋に入ると、カローレは心の方へ向かう。
そして心の拘束をあっさりと解いてしまう。
「お、いいのかよ?」
訝しげな顔をして心がカローレに問う。
「ああ、問題ない。逃げたければ逃げても構わない」
そう言い、カローレは椅子に座る。
「だが、もし逃げないのならば掛けてくれ。少し聞きたいことがある」
カローレはソファーを指して言った。
その言葉に顔を見合わせる充たち。
一体どういうことだろうか。
何故、拘束を解いたのか。
何故、心たちを警戒していないのか。
わからないことばかりだ。
だが、襲われる心配がないなら断る理由はない。
充たちは軽く頷き合い、ソファーに座った。
それを見て満足げに頷くカローレ。
そして、口を開く。
「まず、君たちに謝らなければ。いきなり襲ってすまなかった」
「え、えっと?」
謝罪を口にするカローレに凜が首を傾げる。
「あの時はああするしかなかったんだ。許してくれ」
「あの、どういうことですか?」
実辰がカローレに訊ねる。
「先にあの人たちを襲ったのは私たちですけど……」
実辰の言う『あの人たち』とは、市民に剣を向けていた兵士たちのことだろう。
カローレたちは兵士たちを助けるために襲ってきたのだと思っていた。
だが、どうやら違うらしい。
「あんたら、一体何者だよ?」
そこで心がカローレに訊ねる。
「ああ、すまない。自己紹介がまだだった」
そう言い立ち上がるカローレ。
「私はバベル帝国魔術騎士団、〈炎熱騎士団〉団長、カローレだ。よろしく」
見事な敬礼をして言うカローレ。
「魔術騎士団、ってなんだ?」
「魔術騎士団とは、バベル帝国軍の特殊部隊だ。特殊能力を持った者で構成されている」
首を捻る心にカローレが答える。
「へえ、何か格好いいな」
「でしょ!?」
そこで会話に割り込んでくる声。
声の主は、先程戦った石を巨大化させる少年だ。
黒髪の少年は満面の笑みを浮かべながら身を乗り出す。
「魔術騎士団は少数精鋭なんだ! 入団するの結構難しいんだよ!」
「こら、ラぺト。話の邪魔ですよ」
そこで呆れたように少年を窘める金髪の女性。
「あ、ごめんなさい。ルシアさん」
その声を聞き、ラぺトと呼ばれた少年は肩を竦めて言う。
ルシアと呼ばれた金髪の女性は軽くため息を吐くと充たちの前にティーカップを並べていく。
「ああ、ありがとう、ルシア」
カローレは温かい紅茶を少し飲み、充たちを見る。
「話を戻そう。君たちは、何故あの兵士たちを襲ったんだ?」
「ああ、あいつら、市民っぽい人たちを襲おうとしてたんだぜ」
頭の後ろで手を組んでカローレの問いに答える心。
「君たちは、市民を助けようとしたのか?」
「ああ」
カローレの言葉に頷く心。
そこ返答を聞き、目を瞑るカローレ。
そして目を開くと、頭を深々と下げた。
「君たちには感謝しなければ。市民を救ってくれてありがとう」
「いや、別に大したことはしてねーけどな」
頭を掻いて心が言う。
「なあ、あんたら、あの兵士たちと仲間じゃないのか?」
そこで充は疑問に思ったことを訊く。
その問いに頷くカローレ。
「ああ、彼らはこの国に駐在するエドランド帝国の兵士たちだ」
「え、何で他の国の兵士が?」
そこで首を傾げる凜。
「それには深い事情があるんだが……君たちになら話してもいいだろう」
そう言い、カローレはバベル帝国が今置かれている現状を語り始めた。
「……なるほど、保護国、か」
カローレの話を聞き、顎に手を当てて珠輝が言う。
「事故に見せかけて皇族全滅……胸糞わりー話だな」
「確かに、あまり気持ちのいい話ではありませんね……」
顔を顰める心に同意するスズ。
「しかもさ、この国には重い税金がかけられているんだ。みんな大変な思いをしてるんだよ」
ラぺトが溜め息をついて言う。
「本当は私たちが民衆を守るべきなのだが……私たち魔術騎士団もエドランド帝国の支配下にあるんだ」
少し顔を顰めているカローレ。
「そうか、だからあの時襲ってきたんだな?」
そこで気付いたように心が言う。
「ああ。あの場を収めるためには、立場上ああするしかなかったんだ。すまない」
そこで再度謝罪するカローレ。
「だが、あそこで止めておいて正解だった。民衆を救ってくれた君たちがエドランド帝国に捕まるのを防げた」
「ああ、そうか。俺たちも助けられたんだな。ありがとよ」
カローレの言葉に心が言う。
「いいってことさ。……ところで」
そこで充たちを見回すカローレ。
「君たちは異世界から来たと言っていたな。それは本当か?」
「ああ、本当だぜ」
カローレの問いに首肯する心。
「何故この世界へ?」
「いや、知り合いを追っかけて来たんだけどよ……」
頭を掻いて心が言う。
「ここに来る途中で仲間とはぐれちまったんだよ。この国で合流出来るはずなんだけど……」
「なるほど、そういう経緯があったのか」
納得したように頷くカローレ。
そして口を開く。
「もし良ければ、面倒を見てあげようか」
「いいのか!?」
その言葉を聞き、立ち上がる心。
「ああ、市民を助けてくれたせめてもの礼だ」
頷いてカローレが言う。
「それに、君たちは既に騒ぎを起こしてしまっている。誰かの助けなしでこの国に滞在するのは難しいだろうからな」
「あー、確かにな。助かるぜ。いいよな、お前ら」
カローレの言葉に頷いた後、充たちの方を向く心。
頷く充たち。
それを見てカローレは安心したように笑った。




