74話 作戦会議
「それでは、作戦会議を始めよう」
瑠香たちの革命運動への飛び入り参加が決まり、急遽始まった作戦会議。
その場にいるのは瑠香たちとウィスター、レイナだけだ。
泥酔してしまったフェイルは寝室で眠っているらしい。
ソファにごろんと寝転ぶレイナ。
「眠い……」
「すまないレイナ。起こしてしまって」
眠そうに目を擦るレイナにウィスターが言う。
「そう言えば、ウィスターさんとレイナさんの関係は聞いてませんでしたね」
瑠香は首を傾げて言う。
「ああ、彼女はテリアさんの紹介なんだ。革命のことを相談したら紹介してくれたんだよ。私も詳しいことは知らないんだが……レイナ」
そう言うとウィスターはレイナを呼ぶ。
レイナはむくりと起き上がるとこちらを見る。
「なに?」
「自己紹介をしてくれ」
「はぁい」
レイナは立ち上がるとあくびをする。
「私、レイナ。異世界から来た」
「……え、それだけ?」
レイナの簡潔すぎる自己紹介にぽかんと口を開く日和。
「あと、えーと、強い」
面倒臭そうにそう言うレイナ。
「あと、お兄ちゃんを探してるの」
「お、お兄ちゃん?」
その言葉に疑問符を浮かべる瑠香たち。
それだけ言うとレイナはソファに戻ってしまった。
「レイナは詳しく話してくれなくてね。私もあまり知らないんだ」
ソファに寝転ぶレイナを困ったように見るウィスター。
「だが、テリアさんの紹介だ。信用に値する人物だと言うのは間違いない」
レイナを見てウィスターが言う。
「そう言えば、どうしてウィスターさんはテリアさんの所にいたんですか?」
瑠香は気になったことを訊いてみる。
「私の父が亡命した先がアルセア共和国だったんだ。私が育ったのもあの国だ。昔からテリアさんにはお世話になっていたんだよ」
「そうなんですね……」
「ああ。だが、あの人には悪い事をした。まさか出発当日に官邸が襲われるとは……」
「どういうことですか?」
言葉の意味が分からず瑠香は首を傾げる。
「官邸が襲われたのは、私がいたからだ。恐らく、エドランド帝国が裏にいる」
「そ、そうなんですか!?」
衝撃の事実を聞き、驚く瑠香たち。
「そうだ。君たちを巻き込んでしまってすまない」
頭を下げるウィスター。
「いや、まあでも、騒ぎに首突っ込んだのは俺たちだしな……」
頭を掻きそう言う隼人。
「そうか。ありがとう」
そう言い瑠香たちを見渡すウィスター。
「引き返すなら、ここまでだ。私たちの敵はエドランド帝国。この世界一の国力を持つ大国だ。君たちにも危険が及ぶかもしれない。それでも、協力してくれるのか?」
「もちろんです」
瑠香はすぐに頷く。
隼人たちも頷いている。
「そうか。助かる」
ウィスターはしばらく瞑目し、そう言った。
「さて、それでは作戦会議に戻ろう」
そう言い、ウィスターは一つの地図を広げる。
「まず、君たちに一つ断っておきたい。今回の革命を提案したのは私ではないんだ」
「そうなんですか?」
その言葉に日和が驚いたように言う。
「三十八年前の皇宮炎上事件で逃げ延びたのは、父の他にもう一人いる。その人の名はエメリア・レ・モナルカ・ディ・バベル。父の妹で、私の叔母に当たる人だ」
「叔母さん!? ってことは、その人も皇族なんですか!?」
「ああ、そうだ。黙っていてすまない。協力が確実になるまで秘密にしておくべきだと思ったんだ」
瑠香が驚いて叫ぶと、申し訳なさそうにウィスターが言う。
「革命が成功した暁には、叔母上が即位することになっている」
「その、こんなこと聞くのは失礼かもしれないですけど、その人は本当に皇族なんですか?」
そこで日和がそう言う。
だが、ウィスターは頷いた。
「確かに、不安に思う気持ちはわかる。だが、叔母上は本物だ。皇族に伝わる、皇族が持つと光る魔道具が光ったのを、この目で確かに見た」
「それを騙すことってできないんですか? 魔術があればできるんじゃないんですか?」
茉菜がそう質問する。
その言葉に首を振るウィスター。
「あの魔道具は古代から伝わる強力な魔道具だ。現世にそのような高等魔術を使える者はいないだろう」
「なるほど……」
納得したように頷く茉菜。
「さて、君たちが革命に参加するにあたって、気を付けてほしいことがいくつかある」
「気を付けてほしいこと?」
ウィスターの言葉に首を傾げる隼人。
「まず、エドランド帝国がバベル帝国を支配している名目はあくまで『保護』。正式な王位継承者が現れれば手を引くだろう。しかし、素直に国を明け渡してくれるとも思えない」
「ああ、それもそか」
納得したようにリーが言う。
「え、なんでだ? 俺、わかんねーんだけど……」
早くも音を上げる隼人。
そんな隼人に苦笑してリーは言う。
「なぁ、隼人、今国を支配してるのはエドランド帝国やろ?」
「あ、ああ」
「なら、そこに現れた正式な皇族。もちろん、そんなん邪魔やろ?」
「そう、かもな」
「でも、エドランド帝国は手を引かざるを得ない。そんな時、キミならどうする?」
「そうだな……」
リーの言葉を受け、思案気な顔をする隼人。
「俺が悪い奴なら、その邪魔な奴を先に殺すな」
その隼人の言葉にギョッとする瑠香たち。
だが、リーは動じずに頷く。
「そうやろ? つまりそういうこと。……合ってます?」
リーは最後にウィスターの方を見て確認する。
「ああ、その通りだ。エドランド帝国は私の存在を確認でき次第、私を殺そうとするだろう」
その言葉に息を呑む瑠香。
「つまり、のこのこと出てって『ボクが皇族です』なんて言えないってことやな」
「そうだ。つまり、今回の革命は強硬策となる。戦闘が避けられない場面もあるだろう」
ウィスターは瑠香たちを見回して言う。
「しかし、私たちの目的は苦しむ民衆の解放だ。一般人へ危害を加えるのは避けてくれ」
「わかりました」
頷く瑠香。
「この飛空艇は約三日後にバベル魔術帝国に到着する。それまでに策を練ろうと思う」
「この作戦会議、その叔母さん交えなくてええんですか?」
そこでリーが問う。
確かに、その叔母さんが今回の革命の要なのに作戦会議を勝手に進めていいのだろうか。
「叔母上は既にバベル帝国に潜伏しているんだ。そこで私の到着を待っている」
そしてウィスターはバベル帝国の地図を見る。
「詳しい作戦は向こうで練るが、大まかな流れは既に決まっている。君たちには私が担当する作戦を手伝ってもらう」
ウィスターは皇都の地図上に指を滑らす。
「まず、バベル帝国の皇都、バビロニアの地理から説明しよう。バビロニアの中央に位置する巨大な建物が皇宮だ。そして皇宮から東西南北に伸びる大通りがある」
ウィスターは地図の中央を指差し、その後中央から伸びる大通りを指す。
「作戦では三つの部隊に分かれる。まずは叔母上を皇宮まで護衛する部隊だ。これは私が担う」
皇宮を指し、ウィスターは続ける。
「次に、皇都西部にある転移装置がある転移所を乗っ取る部隊だ」
「転移装置? なんでですか?」
「エドランド帝国からの援軍を阻止するためだ。援軍が来れば厄介なことになる」
皇都の西側を指しながらウィスターは言う。
「最後は、皇都東部にある監獄へ向かう部隊だ」
「監獄? なんでまたそんなところに」
怪訝そうな顔をする隼人。
「バベル帝国元将軍、プラタという人物がそこに捕らわれているからだ」
「将軍!」
その言葉に興奮した様子の隼人。
「この人物は最後までエドランド帝国に反逆していたらしくてな。事情を話せばきっと協力してくれる」
「転移装置の乗っ取りに、脱獄の手助け……完全に犯罪ですね……」
指を折りながら茉菜が言う。
「革命なんて、失敗すればただの犯罪者。私たちがやろうとしているのはそういうことさ」
気にした様子もなくウィスターはそう言い、立ち上がる。
「今日はもう遅い。明日フェイルも交えてまた話そう」
そう言い瑠香たちを見回すウィスター。
「君たちには世話になりっ放しだ。なんとお礼を言ったらいいか……」
「大丈夫ですよ。私たちが好きでやってるだけですから」
瑠香は首を振って言う。
「そうか。ありがとう。私は、この巡り合わせに感謝しなくては」
そう言ってウィスターは微かに笑った。




