73話 ウィスターの正体
「こ、こんばんは、ウィスターさん」
目の前に立つウィスターに挨拶をする瑠香。
「ああ。ところでフェイルがこっちに邪魔していないか?」
「あ、はい、いますよ」
瑠香は部屋の中が見えるように身を傾ける。
ウィスターは部屋の中を覗き込み、ソファで眠っているフェイルに目を止める。
そして額に手を当て溜め息をつく。
「……すまなかったな」
「いえ、楽しかったですし、大丈夫ですよ」
笑って瑠香はそう言う。
「そうか、助かったよ。……レイナ」
ウィスターが背後に呼びかける。
するとウィスターの後ろからひょこりと顔を出すレイナ。
レイナは無言で部屋の中へ入ってくると、フェイルに近付く。
「起きろ」
レイナがフェイルの頬をぺちぺちと叩く。
「むにゃ……嫌れすよぉ……」
しかしフェイルは寝返りを打つだけで起きる気配はない。
レイナは溜め息をつくとフェイルの手から酒瓶を奪い取る。
そしてフェイルを軽々と片脇に抱きかかえた。
奪った酒瓶をラッパ飲みしながら部屋を出て行ってしまうレイナ。
それを唖然として見送る瑠香たち。
「フェイルが失礼した」
ウィスターはそう言い瑠香たちの方へ向き直る。
「ところで、君たちは私のことに興味があるみたいだな」
その言葉を聞き、瑠香たちの間に緊張が走る。
「き、聞いていたんですか……?」
「ああ。盗み聞きするをするつもりはなかったんだが……」
「いえ、私も余計な詮索してすみませんでした」
瑠香は頭を下げて謝る。
「気になるか?」
「……はい」
ウィスターの問いに頷く瑠香。
その言葉を聞いたウィスターはしばらく無言になる。
少しして、ふっと息をつくウィスター。
そしてソファに歩いていく。
ウィスターはソファに座ると瑠香たちの方を見た。
「いいだろう。私のことであれば何でも教える」
「え、いいんですか?」
その言葉に驚く瑠香。
「ああ、君たちになら話してもいい」
「どうしてですか?」
気になって瑠香は訊ねる。
それを聞き、ふと笑うウィスター。
始めて見たウィスターの笑顔だった。
「私の、勘だ。君たちは信用できる」
ウィスターは微かに笑いそう言った。
「それで、ウィスターさんは何者なんですか?」
質問を許された瑠香はまずそう訊いてみることにした。
「随分と直球に訊くんだな」
ウィスターは苦笑をしてそう言った。
そして瑠香たちを見渡す。
「君たちには、私はどんな風に見えてるんだ?」
「えーと、偉い人?」
その問いに首を捻りリーが答える。
「あと、バベル帝国の関係者なのかなって」
「ほう?」
瑠香の言葉に興味深そうに片眉を動かすウィスター。
「あと、すごく強いってことだな」
腕を組んで隼人が言う。
「でも、それくらいしか知らないのにゃ」
ティアがそう締めくくる。
「そうか。……しかし、どこから話したものか……」
ウィスターは思案気に呟く。
「まず、君たちに言っておかなければならないことがある。バベル帝国で革命が起きるという件は覚えているか?」
「はい」
ウィスターの問いに頷く瑠香。
「私たちがバベル帝国に行くのは、その革命に参加するためだ」
「え!?」
その言葉に驚く瑠香たち。
「そうなんですか!?」
「ああ」
瑠香の問いに首肯するウィスター。
「どうして、ウィスターさんが……?」
「君たちに話したバベル帝国の皇宮炎上事件は覚えているか?」
「エドランド帝国との戦争中に起こったものですよね?」
「そうだ」
茉菜の言葉に頷くウィスター。
「それで、皇族が全員死亡したといったが、それは真実ではない」
「にゃ?」
その言葉を聞き、驚いたような声を上げるティア。
尻尾と耳がぴょこぴょこと揺れる。
「歴史上では皇族は全員死亡したことになっているが、実は生き残りがいる」
「そんなの歴史がひっくり返る一大事だにゃあ!」
その言葉に唖然とする瑠香。
「そして、私の名はウィスター・レ・モナルカ・ディ・バベルという」
「ん? 名前にバベルって……」
「って、ことは……!」
顔を見合わせる瑠香と日和。
「そうだ。私は、バベル帝国の皇子だ」
あっさりと頷くウィスター。
「皇子様!?」
瑠香は驚いて叫ぶ。
他のメンバーも驚いたように目を見開いている。
「私の父、ダンゼルは、三十八年前に起きた皇宮炎上事件から国外へ逃げ延びた、バベル帝国皇太子だ。世間ではその時に死んだことになっているがな」
「なんてことだにゃ……!」
頭を抱えてティアが言う。
「私の知ってる歴史が崩れていくのにゃ!」
「でも、どうしてお父さんは王様にならなかったんですか?」
日和がウィスターの方を向いて訊く。
「事件当時、父は十歳だったと聞く。その年で即位するのは無理だろう」
「なるほど……」
「そして、父が成長した時には既にバベル帝国はエドランド帝国の手に落ちていた」
拳を握り締めウィスターは言う。
「それで、そのお父さんは今どうしているんですか?」
瑠香はウィスターに問う。
しかし、瑠香は訊いたことを後悔した。
瑠香の言葉を聞き俯くウィスター。
その顔には見覚えがあった。
瑠香が、充に両親のことを訊いた時と同じ顔。
そんな顔を、ウィスターはしていた。
「死んだ。今から数か月前に」
「そんなっ……」
瑠香は顔を歪める。
「どうして……」
「殺された。犯人は捕まっていない」
その静かな声に息を詰まらせる瑠香。
ウィスターの声は静かで、表情もいつもと変りないように見える。
だが。
その固く握られた拳だけは、ウィスターの心を物語っていた。
「父さんは、いつも俺に言っていた。いつか、バベル帝国の平和を取り戻してみせると」
静かにそう言うウィスター。
「父さんは、もういない。だから、その夢を継ぐのは俺しかいないんだ」
そう言いウィスターは顔を上げる。
「……それで、革命を?」
瑠香はウィスターに問う。
頷くウィスター。
「そうだ。父さんの、願いを叶えるために」
「……あの、ウィスターさん」
「なんだ?」
瑠香が声を出すと、ウィスターはこちらを見る。
「私に、何か出来ることはありませんか?」
その言葉に驚いたような顔をするウィスター。
「いや、しかし……」
「私、ウィスターさんの力になりたいんです」
「何言ってるんだ、瑠香」
瑠香の肩に隼人が手を掛ける。
「あ、ごめん。私、みんなのこと考えずに──」
「そうじゃねーよ。何お前一人でやろうとしてるんだ。『私』じゃなくて、『私たち』だろ?」
笑ってそう言う隼人。
周りを見ると他のみんなも頷いている。
「で、でも、危険じゃ……」
「何言ってんだ。お前一人の方が危ねーだろ」
「でも……」
「それに、瑠香を一人で突っ込ませたら充に怒られちまう」
頭を掻いて隼人が言う。
「そうね、一人よりみんなの方が安全よ」
「はい」
日和が言い、頷く茉菜。
「あーあ、まーためんどくさいことになったわ」
「ティアちゃん、頑張っちゃうぞー!」
苦笑するリーに元気よくこぶしを突き上げるティア。
「瑠香って、危なっかしいところあるよね……」
「言えてるぜ」
一華と隼人も言う。
「みんな……」
瑠香は驚いて皆を見渡す。
「ま、待て待て、私は協力を許可した覚えは……」
「ウィスターさんがいいって言わなきゃ、俺たちで勝手に参加するぜ」
慌てたようなウィスターに向かってそう言う隼人。
「そうやな。今の話聞いて黙ってられるほどボクら薄情やないし」
「そうだにゃ!」
リーとティアが言う。
「君たちは一体……」
目を見張りウィスターが呟く。
そんなウィスターに笑い掛ける瑠香。
「私たちは〈白の解放団〉っていいます。困ってる誰かを助けるための団です」
「そうだ! たくさん助けるぞ!」
「「おー!」」
隼人の号令に拳を突き上げるティアとリー。
その様子を見て困ったように溜め息をつくウィスター。
「……分かった。正直に言えば猫の手も借りたい状況だったんだ。助かる」




