64話 早朝
次の朝。
五時半に起きた瑠香は、身支度を済ませてリビングに向かう。
階段を降りると、ソファに座っている充が見えた。
「充、おはよう」
「ああ、瑠香か」
顔を上げて瑠香をちらりと見ると、頷く充。
「みんなは?」
「まだだ」
周りを見て訊ねる瑠香。
リビングには充しかいない。
瑠香の問いに首を振って答える充。
「そっか」
瑠香はそう呟くとソファに近付く。
そして、充の隣に腰を下ろす。
微かに身じろぎをする充。
しばらく、沈黙が続いた。
「──なあ」
不意に充が声を出す。
「ん、なに?」
「どうして、隣に座るんだ?」
瑠香の方を見ずにそう訊ねる瑠香。
「え、嫌だった、かな」
「ち、違う、そうじゃなくて……!」
慌てたようにこちらを向く充。
その言葉が止まる。
至近距離で見つめ合う二人。
互いの瞳に吸い寄せられるように、目が離せない。
瑠香は、鼓動が早くなるのを感じた。
その時。
「おはよーさーん」
誰かが階段を下ってきた。
慌てて顔を背ける瑠香と充。
「おはよう。二人とも、早いな」
階段から現れたリーと珠輝。
「あ、ああ、おはよう……」
ぎこちなく充が言う。
瑠香は、そっと胸を押さえる。
まだ、動悸は収まらない。
この感情は何だろう。
なんだかとてもむず痒い。
そっと充の顔を盗み見る瑠香。
少し物憂げにどこかを見つめるその横顔。
充が瑠香の視線に気付き、こちらを見る。
目が合う。
再び、胸が高鳴る。
瑠香は慌てて目を逸らした。
「おはよ」
その時、日和が階段を下りてくる。
「みんな、おはよう」
その後ろから顔を覗かせる実辰。
「おー、おはようさん」
片手を上げてリーが言う。
「お、おはよう」
瑠香は慌てて立ち上がり二人に少しぎこちなく笑い掛ける。
「みんな早いね」
集まったメンバーを見て実辰が驚いたように言う。
「私、結構早起きしたつもりだったんだけど……」
「──俺は、先走る奴がいないか見張っていただけだ」
実辰の言葉に充が答える。
その言葉に、少し申し訳なさそうな顔をする日和。
「あの、なんかごめんね。心が迷惑かけて……」
「いや、いいさ。あれを止められる奴がいるとは思えないからな」
溜め息混じりに言う充。
「まあ、私じゃ絶対に止められないし……」
日和も頷いて言う。
「何が止まらないって?」
その時、そんな声が聞こえる。
みんなが階段の方を見る。
ちょうど階段から隼人が現れたところだった。
「ああ、早いじゃない。もっと遅いかと思ってたわ」
少し驚いたように日和が言う。
「遠足の日はちゃんと起きれるんだよ」
そう言い肩を竦める隼人。
その言葉に半眼になる日和。
「今日は遠足じゃないんだけど」
「似たようなもんだろ」
「全然違うってば……」
肩を落とす日和。
実辰が背中をポンポンと叩く。
「そういや、上で心と会ったぜ。そろそろ降りてくるかもな」
「ああ、そう……」
隼人の言葉に頷く日和。
その時、階段を駆け下りてくる音がする。
「お前ら、揃ってるか!」
隼人の言う通り、心が階段から現れる。
「あんた、朝から元気ね……」
その大声を聞き、げんなりとした顔をする日和。
「あったり前だろ! なんてったって、今日は楽しい遠足だからな!」
「あんたまで……」
「あはは……」
隼人と同じことを言う心に溜め息をつく日和。
その隣で実辰が苦笑している。
「みなさん、おはようございます」
心の後ろからスズが現れる。
柔らかに笑い挨拶をするスズ。
「みんな、おはよ」
スズに続いて、一華が階段を下りる。
その背には木刀が背負われてる。
「一華、やっぱり木刀持ってきたんだ……」
少し呆れて瑠香は言う。
「何か、持ってないと安心できなくてさ」
照れたように言い、木刀を揺する一華。
「ふにゃあ……私、早起き苦手にゃ……」
「ほら、ちゃんと歩いて」
一華の後ろから、ティアが現れる。
あくびをしながらノロノロと歩くティアの背を、凛が押す。
「おはようございます」
その後ろから、顔を出し頭を下げる茉菜。
一気に人が増え、賑やかさを増したリビング。
「ん~、これで揃ったか」
リビングに集まった顔ぶれを見回して隼人が頷く。
「よし。全員、ちゃんと『団服』着てるな」
満足げに頷き、そう言う心。
瑠香たちは白が基調となった服を着ている。
女子は、裾がスカートのように広がった白い上着に、ぴったりとした黒のパンツルック。
男子は、女子より短い白の上着と黒いズボン。
これは、ユナイテッドから支給された〈白の解放団〉専用の団服だ。
とても動きやすい素材で作られており、防水防火、耐寒耐暑などの多くの機能を備えた優れものだ。
更に『異空間収納』なる機能まで搭載されている。
この服のポケットは異空間に繋がっており、大量の物資を収納することが可能らしい。
話では、この機能があれば引っ越しの荷物運びが一回で済むとか。
一応上限はあるようだが、かなりの量が入るようだ。
また、どれほど物を詰め込んでも重さを感じないのだ。
そんな無駄にすごい機能が、瑠香たち全員の服についている。
今まであまり着る機会がなかったが、今回は遠出になるということで着用したのだ。
ポケットに食糧を詰め込む瑠香たち。
「よーし、準備済んだな!」
準備が済むと心がリビングの扉に手を掛ける。
「それじゃ、ジャストが来る前にさっさと行こうぜ!」
扉を開き外へ出る心。
がやがやと話しながら瑠香たちもそれに続く。




