62話 尾行
昼食を食べた瑠香たちは、自分たちが暮らす家へと向かった。
瑠香たちが住んでいるのは、『本部島』にある居住区だ。
そこには、本部に勤めている社員やヒーローたちが生活している。
瑠香たちに与えられたのは、かなり大きな一軒の屋敷だった。
そこで共同生活を送っている瑠香たち。
今は、皆で大きなリビングのような場所で思い思いにくつろいでいる。
水晶玉から画面を出して、テレビのようにして見ている心、一華、スズ。
凛と茉菜は本を読んでいる。
実辰、日和、ティアはテーブルに座り、お茶を飲みながら談笑している。
その横で、ボードゲームに興じる珠輝と隼人とリー。
瑠香と充は心たちの横に座り、テレビを眺めている。
その時、階段の方から足音が聞こえる。
上の階から降りてきたのはアレンだった。
「お、みんな揃ってるね」
瑠香たちを見てアレンが言う。
「なんだ、何か用かよ」
ソファに座ったまま、反り返ってアレンを見る心。
皆の視線がアレンに集まる。
「いや、ちょっと長い間留守にしようと思ってね」
「留守? どこか行くんですか?」
アレンに問う日和。
「ああ、友人が困ってるみたいでね。ちょっと行ってくる。ジャストの言うことを聞くんだよ」
そう言い残し、さっさと部屋を出てしまうアレン。
「あ、おい、アレン」
立ち上がる心。
「俺、追いかけてくる」
「あ、ちょっと待ちなさいよ!」
日和が止めようとするが、それよりも先に部屋を出て行ってしまう心。
溜め息をつく日和。
その隣で苦笑している実辰。
「あ、次、ボクの番やね。見てない間にズルとかしてない?」
「するわけないだろ。このまま行けば俺の勝ちだからな」
駒を動かしながら冗談を言うリーに、すげなく返す珠輝。
「なんや、つれないなぁ。隼人からもなんか言ってやって──」
そう言い、隣を見るリー。
しかし、その言葉は途中で止まる。
「──あら、どこ行ったんやろ」
そこに隼人はいなかった。
『心、どういうつもりだい?』
身を隠しながらアレンの後を追う心。
イチヤが小声で訊いてくる。
「なーんか怪しいぜ」
『だから隠れているのかい?』
「ああ」
物陰に隠れながら頷く心。
アレンは居住区を抜けると、向こうに見える巨大な建物に向かって歩き始めた。
その建物は、ユナイテッドの本部だった。
「アレンの奴、何しに行くんだ?」
『あれは、本部だね』
顔を出し、アレンの様子を伺う心。
「──おい」
その時、心の後ろから声が掛かる。
後ろを振り向く心。
「なんだ隼人、お前も来たのか」
「ああ、アレンの様子が気になってな」
そこにいたのは隼人だった。
「今アレンをつけてる途中だ」
「お、楽しそうだな」
ニヤッと笑い、アレンの方を伺う隼人。
「やべ、見失いそうだ」
「行こうぜ」
心と隼人は頷き合いアレンの後を追いかける。
アレンの尾行を続ける二人。
ある場所の前まで来たときアレンが止まる。
二人も少し離れた場所で足を止める。
「やっぱり本部か」
目の前にそびえ立つ建物を見上げて隼人が言う。
「あ、中に入るぞ」
心は建物の内部に入るアレンを指す。
『どうするんだい?』
「行くしかねーだろ」
心は立ち上がる。
隣の隼人も頷き、本部の方へ向かう。
ガラス製の扉の前に立つと、自動で開く。
「いらっしゃいませ」
中に入ると受付係が頭を下げる。
「本日はどういったご用件でしょうか」
「え、あ、えーっと」
そう言われ、困り果てる心。
知り合いをつけてきた、とは言えない。
「あ、ああ、エスタさんに会いに来たんだ」
しかしそこで、機転を利かせて隼人が言う。
「面会ですね。どうぞ」
そう言い通してくれる受付係。
密かに胸を撫で下ろす二人。
足早に受付を通り過ぎると、広場に出る
広場には階段や扉がたくさんあり、多くの人が行き交っている。
「どこだ……?」
辺りを見渡しながら隼人が呟く。
「いたぞ」
同じように周囲を見回し、心はある一点を指す。
そこには、階段を上るアレンがいた。
「行こう」
再び追い掛け始める二人。
見つからないように距離を取って階段を上る心たち。
しばらくするとアレンが止まり、一つの扉に入る。
扉に近付き、中をそっと覗く二人。
扉の向こうには長い廊下があった。
「──行くか?」
「ああ」
小声で問い掛けてくる隼人に心は頷く。
ゆっくりと中に入る二人。
廊下は一本道で、真っ直ぐ伸びていた。
隠れる場所がない。
廊下の突き当りに扉があるのが見える。
アレンはその中に入っていった。
その扉に近付く二人。
扉の向こうから話し声が聞こえる。
二人は扉に耳を近付けて、中の音を聞こうとする。
「──行くのか?」
聞き覚えのある声が聞こえる。
顔を見合わせる心と隼人。
ジャストの声だ。
「ああ、緊急事態みたいなんだ」
ジャストにそう返すのはアレンの声だ。
「行先は?」
「『魔術世界』のバベル魔術帝国ってところ」
ジャストの問いにアレンが答える。
「あの子たちのこと、よろしく頼んだよ」
「ああ、任せてくれ」
「──俺たちのことを話してるのか?」
「だろうな」
隣の隼人が呟いた。
心はそれに頷く。
『──心』
その時イチヤが囁き掛けてくる。
「ああ、わかってる。そろそろ離れるぞ」
心はそう返し、隼人の方を向く。
頷き返す隼人。
二人は音を立てないようにその場を離れる。
廊下を抜け、階段を足早に駆け降りる。
そして、本部から抜け出すと家に向かって駆け出した。




