60話 『通常六系統』
「さて、『魄練』についてだけどね」
アレンが教壇に立って言う。
「本当は、ここで『心体技』を教える予定だったんだけど、君たち、もう身に付けちゃってるから、あとは『魄練』について教えるだけなんだよね」
「でも俺たち、もうほとんど知ってるぜ?」
心が机に肘をついて言う。
「そうかな? 結構大事な事、知らないと思うよ?」
悪戯っぽく笑うアレン。
そんなアレンに、充がハッとする。
「そうか、こいつら、『魄練』の段階をすっ飛ばしてるから教えてないのか」
「そうだよ、充。さすがだね」
満足そうに頷くアレン。
そのアレンの言葉に、隼人が首を傾げる。
「どういうことだ?」
「君たちは、『魄練』を最初から使えた。だから、『魄練』を扱う上で最も大切な事を知らないんだ」
「その、最も大切な事っていうのは?」
珠輝がアレンに問う。
「ずばり、『能力の系統』、さ」
「系統、って?」
実辰が首を傾げる。
「『魄練』は多種多様だ。それこそ、能力者の数だけあると言ってもいい。そんな能力も、一応系統化されているんだ」
指を立てるアレン。
このポーズ、アレンの癖のようだ。
「まず、『心体技』のおさらいから始めよう。まず、『心』についてわかる人は?」
アレンが問う。
「『心』は『魄』の流れを掴むこと、だろ」
端的に答える珠輝。
「その通り。じゃあ、『体』はどんなものかな?」
「『魄』を流して肉体を強化すること。技の名前は『霊装』と『幽眼』」
アレンの問いに答える一華。
「その通りだ。じゃあ『技』は?」
「別名、『魄練』。人それぞれの固有技のこと、ですよね」
瑠香は締めくくるように言う。
「完璧だ。本来なら、ここでようやく能力の系統について教えるんだ」
「で、どんな分け方なんだ?」
「まず初めに、大きく二つの分類がある。『通常系統』と『特殊系統』だ」
心の問いに答えるアレン。
「『通常』に六系統、『特殊』に六系統。合わせて十二系統あることになる」
「うへ」
アレンの言葉に、早くも顔を顰めている隼人。
それを気にせず、アレンは続ける。
「『通常六系統』は『増強型』、『変化型』、『気質型』、『変成型』、『操作型』、『遺伝型』の六つがある」
指を六本立てるアレン。
そして、その指を一本折る。
「まずは『増強型』。これは単純だ。『筋力を上げる』とか『足を速くする』とか、単純に何かの力を増幅させることが出来る」
「なんか、弱そうじゃね?」
首を傾げる隼人。
確かに、身体強化なら瑠香たちも出来るし、霊装を纏えば一撃の威力も高くなる。
増強型はハズレではないだろうか。
「いいや、そんなことはないさ」
首を振るアレン。
「『増強型』の身体強化は、他の霊装を凌駕するのさ。──ほら、ジャストとか良い例だよ」
隣に立つジャストを見やるアレン。
「まあ、厳密に言えば、僕は『増強型』じゃないんだけどね」
肩を竦め、首を振るジャスト。
確かに、あのレベルで身体強化ができたら途轍もなく強力だ。
小手先の技では、ことごとく粉砕されてしまうだろう。
「さて、次は変化型だ」
話を進めるアレン。
「『変化型』は魄を何かに変化させることだ。スズの持っている『陰陽術』がわかりやすいかな」
「は、はい」
急に話を振られ、慌てて頷くスズ。
「スズ、君の扱う陰陽術はどんなものだい?」
「陰陽術は、魄を火や水などに変化させる能力です」
すらすらと答えるスズ。
その言葉に頷くアレン。
「そう、それが『変化型』さ。そして、次は『気質型』だ」
そう言いアレンは、顔の前で手を握る。
不可解な行動に首を傾げる瑠香たち。
「さて、なにが見える?」
「何がって……」
困惑したような声を出す心。
何も見えはしない。
アレンは一体何がしたいんだろうか。
「お前ら、幽眼だ」
唐突に充が言う。
そう言われ、ハッとする瑠香たち。
そして、幽眼を発動する。
すると、見えた。
半透明の魄で出来た刀。
とてつもない練度の高さだ。
振り下ろせば、人でも真っ二つになるだろう。
「これ、僕の能力の〝練器〟っていうんだけどね。『気質型』だよ」
「す、すげぇ……」
「やべーな……」
感嘆の声を漏らす隼人と心。
『少し心の能力に似てないかい?』
イチヤがアレンの能力を見てそう言う。
「確かにな」
その言葉に頷く珠輝。
だが、心は首を振る。
「いや、俺にはあんなの作れねーよ」
「珍しいわね。あんたが素直にそう言うの」
少し驚いた様子の日和。
「出来ねーもんは出来ねーよ。あれが凄過ぎんだ」
アレンの刀を指して心が言う。
「まあ、僕と心の能力は大きな違いがある。それについては後で話すとして……」
そう言いアレンは刀を消す。
「『気質型』は見ての通り、魄に実体を持たせたり、変形させたりする力だ。結構自由度が高いんだよ」
「こんなことまで出来るのか……」
感心したように珠輝が言った。
「まだまだあるよ。次は『変成型』だ。『変成型』は自身の肉体を変化させる能力だ」
「どんなヤツだ?」
いまいちピンとこないのか、首を傾げる隼人。
「うーん、そうだね……。例えば、『巨大化』とかがわかりやすいかな?」
「ああ、なるほど……」
ざっくりとしたアレンの説明に納得した様子の隼人。
「次が、『操作型』だ。操作型は文字通り、何かを操る能力だよ」
「操る……」
実辰が首を傾げる。
「操れるものは生物から物体まで、色々だ」
アレンは頷くと言う。
「そして、最後に『遺伝型』だ。これは言葉通り、遺伝によって発現する能力さ。この『異能世界』において最も多い系統だね」
「『異能特異点を越える』だな」
「その通り」
アレンは充の言葉に頷く。
「その、『異能特異点』っていうのは何ですか?」
一華が手を挙げて質問する。
「『異能特異点を越える』って言うのは、『遺伝型』の能力が次々に発現し、それが世界全体に浸透することさ」
「んん?」
隼人が難しい顔をして呻る。
それを見て笑い声を上げるアレン。
「はは、少し難しかったかな。じゃあもっと簡単に説明しよう」
そう言いアレンは顎に手を当てる。
「まず『遺伝型』と言う能力は、非常に稀な能力でね。充、その理由は?」
「『遺伝型』は遺伝によって発現する。つまり、親が『遺伝型』じゃなきゃ発現しないから、だろ」
「その通りさ」
頷くアレン。
「ああ、そういうことか」
納得したように珠輝が手を打つ。
「え、どういうことだよ?」
隼人が珠輝の方を見る。
「『遺伝型』は親から子へ継がれる。なら、その遺伝はどこから始まるんだ?」
「あ」
ぽかんと口を開く隼人。
確かに盲点だった。
『遺伝型』は親から子へ遺伝する。
ならば、その遺伝が始まった、その始点は一体どこなのだろうか。
「まあ、言ってしまえば『遺伝型』は生まれつきなんだよ」
そこでアレンが言う。
「親が他の系統でも、子供がいきなり『遺伝型』になるんだ。親の能力はその子供に引き継がれ、更に子孫に遺伝していくんだ。だけど、子供が『遺伝型』なる確率はとてつもなく低い確率なんだよ」
「なるほどな……」
アレンの説明に、感心したように頷く珠輝。
「だけど、偶然が重なり合うことで、この『異能世界』みたいに『遺伝型』が世界中に広まることがある。それを『異能特異点を越える』というんだ」
『そうか、だからこの世界では『異能』が当たり前なのか』
イチヤが納得したような声を出す。
「これで『通常六系統』の説明は終わりだ」
「はぁ、考えすぎて頭いてーぜ」
溜め息をつく隼人。
「おや、まだ『特殊六系統』が残ってるよ?」
「げ」
意地悪く笑うアレンに、隼人が顔を顰めた。




