59話 常識
「やあ、みんな。よく集まってくれた。さ、席に座ってくれ」
瑠香たちを見渡し、アレンが言う。
戦闘訓練の次の日の朝、アレンに呼び出され集まった瑠香たち。
今日の訓練はお休みだ。
瑠香たちが集められた場所は、教室のような場所だった。
椅子と机が用意され、教壇のような物まである。
アレンに促され、席に着く瑠香たち。
全員が席に着いたのを見て、アレンが教壇に立つ。
「さて、今日皆に集まってもらったのは、他でもない『勉強』のためだ」
その言葉に、ガタッと椅子を鳴らす隼人。
「べ、勉強かよ……」
「ああ。とは言え、君たちがあの世界で学校に行っていたのは知っている。今日学んでもらいたいのは、そこじゃ学べないようなものなんだ」
その言葉に首を傾げる瑠香たち。
「ええっと、そうだね……例えば、数字とか、言葉とか、君たちが既に知っていることじゃなくてね。これから話すのは『異世界の常識』のことだ」
「ああ、そういや、俺たち何も知らないよな」
心が頷きながら言う。
「そう。だから、今のうちに話しておこうと思ってね。知っていることもあるかもしれないけど、最後まで聞いてくれ」
そう言い、アレンはチョークのような物を持つ。
「さて、まず、『この世界』のことについて教えよう。君たちは、さまざまな異世界に転移したはずだ。どんな世界を知ってる?」
「まずユナイテッドがある、この『異能世界』だよな」
珠輝が腕を組む。
「あと、僕たちが出会った『聖教世界』やろ」
指を折って言うリー。
「私たちが行ったのは、『魔法世界』だよね」
茉菜と顔を合わせて凛が言う。
「俺たちが行ったのは『陰陽世界』だぜ」
「俺たちは『神獣世界』だな」
「あとは『海洋世界』だ」
心、隼人、充も次々と世界の名を口にする。
「あと、忘れちゃいけないのが『地球』──『科学世界』って言うんだっけ?」
締め括るように一華が言った。
「君たちが行ってきたその世界。それらは、まとめて『三千世界』と呼ばれている」
「なんで『三千』なんだ?」
心が首を捻って疑問を口にする。
それを聞き、顎に手を当てる。
「そうだな……君たち、『宇宙』は知ってるかい?」
アレンの問いに頷く一同。
「どの世界にも宇宙は存在する。その宇宙の外側に何があるか、考えたことはあるかい?」
「何があるんだ?」
珠輝がアレンに訊く。
「別の宇宙さ。それが三千個ほどある」
アレンは黒板にいくつもの丸を描き、それを大きな丸で囲う。
『だから『三千世界』か……』
アレンの言葉にイチヤが納得したように言う。
「そう、その三千の宇宙の集まりが『三千世界』なのさ。君たちの行った世界も、その中の一つだよ」
「なんか、すごいスケールの話だね……」
冷や汗を垂らしながら凜が言う。
「まあ、取り合えず、『三千世界』という名は覚えておいてくれよ」
黒板をコツンと叩き、アレンが言う。
「さて、次は、『常識』についてだ」
その言葉に首を傾げる瑠香たち。
「『三千世界』での一般的な常識のことだよ。君たち、暦は知ってるかい?」
「それくらい知ってるぜ。今は何年、とかだろ?」
「そうそう、それだよ。君たちの世界の暦は、何て名前だい?」
心の言葉に頷くアレン。
「えっと、何だっけ」
「──西暦よ」
隼人が首を振って、隣の日和に訊く。
溜め息をついて日和が答える。
「なんやそれ? 初めて聞いたわ」
首を傾げるリー。
「お前は異世界から来たから、知らないのは当然だろ?」
「いや、おかしいで」
珠輝の言葉に首を振るリー。
その言葉に頷くアレン。
そして口を開く。
「さて、別の異世界から来た君たちに質問だ。君たちの世界の暦は?」
「『神聖暦』やろ」
アレンの問いに答えるリー。
「なんだそれ?」
「いや、そっちこそなんで知らんの?」
首を傾げる珠輝とリー。
「あの……」
そこでスズが手を挙げる。
「私の世界も『神聖暦』です」
『これは、どういうことだ……?』
困惑したような声を出すイチヤ。
「はいはーい! 私も『神聖暦』、知ってるにゃん!」
手をブンブンと振り、ティアが言う。
「俺の世界も『神聖暦』だ」
充も言う。
全員が頭の上に疑問符を浮かべ、首を傾げる。
一体、どうなっているのだろうか。
「さて、ジャスト。今は何年の何月だい?」
隣に立つジャストに、アレンが問う。
「今は『神聖暦10013年』の六月だ」
「いちまん!?」
ジャストの言葉に絶句する実辰。
「西暦は今、2000年代だから、八千年位は差があるな……」
頭を押さえる珠輝。
「一体どうなってやがるんだ……」
「そんな不思議な事か」
天を仰ぐ隼人に、充が片眉を上げて言う。
「さて皆、何か質問はあるかい?」
「まず『神聖暦』ってのは何だ?」
アレンの言葉を受けて、さっそく質問をする珠輝。
「『神聖暦』って言うのは、三千世界全体で使われている暦だよ。人類が誕生した時から使われているって噂だ」
「でも、異世界でも同じ暦を使っているのって、何かおかしくないですか?」
実辰が首を傾げる。
「まあ、君たちからしたらそう感じるかもね。まず、前提が違うんだ」
「前提?」
「そうさ」
珠輝の言葉に頷くアレン。
「君たちが見てきた異世界の様子はどうだった?」
「魔獣がたくさんいた」
隼人がその問いに答える。
「剣とか、お城とかがありました」
「機械みたいな物はなかったな」
茉菜と心が言う。
「こっちには海賊がいたな」
充も言う。
「そう、それぞれの世界で文明が大きく違うんだ。でも、共通するものはあったろ?」
そう言い、アレンは水晶玉のようなものを持ち上げる。
「あっ」
それを見て瑠香は驚きの声を上げる。
言われてみれば、確かに『海洋世界』にも水晶玉のようなものがいくつもあった。
周りの皆も瑠香と同様の反応をしていた。
「この水晶は『転移結晶』や『水晶指輪』に使われているものだ。見覚えがあるだろ?」
「確かに、別の異世界にもそれはあったが……それがどうかしたのか?」
珠輝が腕を組んで首を傾げる。
「言ってしまえば、人類の歴史を辿るとある一点に行きつくんだ」
「ある一点ってのは?」
隼人が問う。
「僕も詳しくは知らないんだけどね。人類が誕生したのは、今から一万年くらい前だと言われているんだ」
「一万年前……」
壮大な話に気が遠くなる瑠香。
「人類は、誕生から長い時間をかけて、様々な三千世界中に広がって行ったとされる」
アレンが黒板に描いた『三千世界』の図を指す。
「それぞれの世界で、それぞれの文明を作り上げた人類だけど、『三千世界』の概念と水晶、そして『神聖暦』は、どの世界でも共通して使われているんだ」
「人類誕生の話かよ……」
唖然とした顔をしている隼人。
「ちょっと待て、『どの世界でも』共通しているって言ったか?」
「ああ、そうだよ。……君たちのいた『科学世界』を除いてね」
珠輝の言葉に頷くアレン。
「なんで地球だけ違うんだ?」
心が首を捻って問う。
「あそこは少し特殊でね。水晶は周囲の魂魄を吸収して動いているんだけど、『科学世界』は魂魄が薄いから、転移がしにくい。だから、独自の文化が発達したんだ」
「なるほど、隔離状態、ってことか」
納得したように珠輝が頷く。
「まあでも、完全に独自の文化ってわけでもない。ほら、月や日にちはほぼ同じだろ?」
「確かに、地球は今頃六月くらいだもんな」
隼人が指を折って数える。
「一万年前から伝わったものが今も続いている名残だ。あと、君たちの世界にも『カレー』とか『ケーキ』とかあるだろ?」
「おい、まさか……」
目を見開く心。
「そのまさかさ。他の世界にも同じような食べ物は存在するよ」
「──確かに、今気が付いたが、異世界に来ても食文化に大きな違いはなかったな」
珠輝が言う。
「だろ? 食文化が違い過ぎたら、馴染むまでもっと時間が掛かったはずだ」
アレンが頷きながら言う。
どっと脱力する瑠香。
なんてことだ。
確かにこの世界にも、地球と同じような食べ物ばかり並んでいた。
それに対して違和感を抱いていなかったが、ここは『異世界』なのだ。
食べ物が同じなのはおかしい。
そう考えると、確かに共通の文化が存在してるんだろう。
「だからこっちでも普通に暮らせたのか……」
頬杖をついて隼人が言った。
「まあ、違和感をあまり感じなかったのは、この『異能世界』が君たちの元の世界とかなり近いからだろうけどね」
事もなげに言うアレン。
「さて、次はもっと面白いものを教えてあげよう」
「面白いものってなんだよ?」
黒板を消しながらアレンが言い、心が興味深そうに訊いた。
アレンは振り向くと、ニヤッと笑い人差し指を立てる。
「『魂魄』のことさ。興味あるかい?」
「ある!」
ガタンッと言う音を立て、立ち上がる心。
「さて、じゃあ、話してあげよう。君たちの『能力』について」




