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閑話 神条瑠香の朝

 

 朝。

 目覚まし時計の音が聞こえる。


 瞼を震わせ、少し体を起こす瑠香。

 そして、目を閉じたまま時計を探す。


 時計の音を止めると、瑠香は起き上がりカーテンを開く。

 柔らかな朝の日差しが部屋に差し込んだ。


「ふわぁ……」

 軽くの伸びをして、小さなあくびを漏らす瑠香。


 ベッドから抜け出すと服を着替える。

 着替えが終わると、壁に立てかけた一本の杖を手に取った。

 瑠香が触れると、挨拶をするように杖にはまった宝石が光る。


「おはよ、世界軸」

『おう、今日は少し遅いな』

「いろいろあって疲れたもん……」

 そう言葉を交わし、伸びをする瑠香。


 そして部屋の扉を開ける。

 扉が並んだ廊下を歩く瑠香。


 瑠香たちが暮らすこの家は、もはや『屋敷』と言っても過言ではない大きさだ。

 なにせ、〈白の解放団〉全員で生活出来る広さなのだ。


 巨大なキッチン。

 大きなリビング。

 大浴場や、広い庭まである。

 そして、十数個の個室。


 贅沢なことに、瑠香たちには個室が与えられていた。

 トイレとクローゼット付きの六畳。

 一人で生活するには十分すぎる広さだ。

 瑠香は一階へ繋がる階段を下りる。

 階段の下はリビングのような空間が広がっている。


「やあ、おはよう」

 リビングへ降りると、アレンと充がいた。

 新聞を読んでいたアレンが顔を上げて言う。


「おはようございます」

 ぺこりと頭を下げる瑠香。

 そして充の方へ顔を向ける。


「充も、おはよう」

「あ、ああ」

 瑠香の挨拶にぎこちなく頷く充。

 そんな充の脇腹を、肘でつつくアレン。


「ほら充、おはようって言われてるんだから」

「お、おは、よう……」

 少しそっぽを向いて充が言う。


「うん、おはよう」

 瑠香は笑みを浮かべて言う。


「ごめんね、充は挨拶することにあまり慣れてなくて」

「お、おい、アレン……!」

 苦笑してアレンが言うと慌てたように充が顔を上げる。


「まあ、仲良くしてくれよ」

「はい!」

 満面の笑みで頷く瑠香。

 それを見てまたそっぽを向いてしまう充。

 その顔は少し赤い。


 少し、からかい過ぎただろうか。

 瑠香とアレンは顔を見合わせて苦笑する。


「それで、他のみんなは……」

 瑠香は周りを見渡す。

 アレンと充の他には誰もいない。


「凛と茉菜ならキッチンにいるみたいだよ」

 そのアレンの言葉に動きを止める瑠香と充。


「り、凛が……?」

「……」

「どうしたんだい?」

 二人の様子を見て首を傾げるアレン。


「い、いえ……あの、アレンさん、凛が何か持ってきたら食べてあげてください。……全部」

「ああ、いいよ」

 笑顔で快諾してくれるアレン。

 その言葉にほっと息をつく瑠香と充。


「そう言えば、隼人たちは庭にいるみたいだぞ」

 そこで充がそう教えてくれる。


「わかった、ありがと」

 瑠香は手を振るとその場を後にする。

 まず、リビングの隣にあるキッチンに向かう。


「……って、けむいけむい! 何これ!?」

 キッチンに入ると朦朦と煙が立ち込めていた。

 咳をしながら中に入る瑠香。 


「けほっ、けほっ……って、あ、瑠香ちゃん、おはよう!」

 煙の中から出てきた凜が瑠香に気付いて声を出す。


「おはよう、凜。茉菜もおはよう」

 瑠香は凜の後ろにいる茉菜にも声を掛ける。


「あ、おはようございます。その、えっと、瑠香さん」

 少しぎこちなくそう返す茉菜。


「瑠香でいいよ。私も茉菜って呼んでるし」

「は、はい」

 瑠香の言葉に茉菜は頷く。


「で、これは何をしてるの?」

 煙を払いながら瑠香は二人に訊ねる。


「よくぞ聞いてくれました!」

 えっへん、と言う風に胸を張る凜。


「料理だよ!」

「げ」

 自信満々に答える凜に小さく声を漏らす瑠香。

 予想通り、マズいことになった。


「……ちなみに、何作ってるの?」

 恐る恐る訊ねる瑠香。


「これは、カレー? ……はい、カレー、ですよ?」

 黒いどろどろとしたものが渦巻く鍋を見やり疑問形で答える茉菜。

 そうなるのも無理はない。

 これは断じてカレーなどではない。


 瑠香はそっと鍋から目を逸らす。


「瑠香ちゃん、味見する?」

「い、いや、いいよ。お腹空いてないし……」

 首を振り嘘をつく瑠香。


「そう? 残念……」

 しょんぼりと肩を落とす凜。

 少し可哀そうだが、ここは譲るわけにいかない。

 命が懸かってるのだ。


「じゃ、じゃあ、私もう行くね」

「あ……」

 瑠香がそう言うと茉菜が助けを求めるような顔をこちらに向けてくる。

 そっと目を逸らす瑠香。

 目の端で茉菜がガクリと肩を落とすのが見えた。


 瑠香は断腸の思いで扉を開けるとキッチンを出た。


 キッチンを出た瑠香は気を取り直して足を前に出す。

 次に向かうのは隼人たちがいる庭だ。


 外に繋がる扉に手を掛ける瑠香。

 そこで足を止める。


 外から何やら歓声が聞こえる。

 扉を開ける瑠香。


「珠輝、そっちに行ったで!」

「任せておけ!」

 リーと珠輝の声が聞こえる。


「させるか、心!」

「ああ、行くぜ!」

「心、頑張ってください!」

 隼人、心、スズの声も聞こえる。


 瑠香はスズのそばに行く。


「おはよ、スズ」

「あ、おはようございます、瑠香!」

 瑠香が声を掛けると笑みを浮かべてスズが言う。


「これは、サッカー?」

 瑠香は目の前で繰り広げられる熱い戦いに目を向ける。


「はい、そうですよ」

 頷くスズ。

 だが、瑠香の知ってるサッカーと大分違う気がする。

 サッカーは残像ができるほど早く動き回るスポーツだっただろうか。


 恐らく『霊装』による身体強化を使っているのだろう。

 とんでもない速度でボールを蹴り合う隼人たち。


「あれ、一華?」

 そこで瑠香は、庭の隅で素振りをしている一華を見つける。


「鍛錬だそうですよ。おーい、一華~!」

 一華に声を掛けるスズ。


 するとこちらに気付いたのか素振りを止めて近付いてくる一華。


「瑠香、おはよ」

「うん、おはよう」

 挨拶を交わす一華と瑠香。


「すごいね、これ」

 目の前で白熱するサッカーを見て苦笑する一華。


「あ、おい! お前ら! 一緒にやるか!?」

 そこで瑠香たちに気付いた心がこちらに向かって手を振る。


「っしゃ! ゴール!」

「あ、ずりーぞ! リー!」

 顔を見合わせる瑠香たち。


 そして頷き合う。


「やってみよっか」

「うん!」

 瑠香たちは心たちの元へ向かう。




「はぁ~、疲れた!」

 汗をびっしょりとかいた瑠香は、隼人たちに手を振って一人屋敷へ戻る。


 あのサッカーもどきはとても楽しかった。

 だが、お陰で大量に汗をかいてしまった。


「お風呂、入ろ」

 そう呟くと瑠香は大浴場へ向かう。

 女湯と書かれた暖簾をくぐると脱衣所へ向かう瑠香。


 服を脱ぐ前に世界軸を外そうとする。


「……ちょっと」

 外れない世界軸に目を細める瑠香。


『なんだよ』

「付いてくるつもり? ここ女湯なんだけど」

『俺は男でも女でもねーよ』

「俺って言った! 言ったよね!?」

『うるせーな。大体、お前みたいなちんちくりんの裸なんぞ見ても何とも思わねーよ』

「ちんちくりん!?」

 瑠香が叫ぶと、やれやれという風に溜め息をつき外れてくれる。

 溜め息をつくと服を脱ぐ瑠香。


 そして浴場への扉を開く。


「はぁ~、極楽だにゃあ~!」

 湯煙の中からそんな間延びした声が聞こえてきた。


「ティア、猫なのにお風呂大丈夫なんだね……」

「あったり前だにゃん! だってティアちゃんはかわいいかわいい──」

「はいはい、猫の亜人なんでしょ」

「先に言われたのにゃ!?」

 三人の声が聞こえる。


「ん? くんくん……誰か来たのにゃ」

 こちらを見る三人。


「あ、おはよう」

 瑠香は手を挙げて挨拶をする。

 日和、実辰、ティアがそこにいた。




「ふぅ……」

 体を洗い終わり、お湯に浸かる瑠香。


 浴場には気まずい沈黙が漂っていた。

 原因はわかっている。


 昨日、剣人のことついて言い合ったのが原因だろう。


「ね、瑠香」

 突然、日和が立ち上がった。

 そのスタイルに圧倒される瑠香。

 服越しには分かっていたが、実際に見てみるとすごい。


 神は無情だ。

 人間を平等に作ってくれはしないのだ。


「う、うう……」

「え、ど、どうしたの……!?」

 自分の未発達の胸を触りいきなり泣き出す瑠香を心配そうに見る日和。


「瑠香、分かるよ……」

 そこで瑠香の肩に手を掛ける者が一人。

 実辰だ。


「ティアもおっきいし、私、この空間に居辛かったもん……仲間が増えて安心したよ……」

「実辰……」

 手を握り合う瑠香と実辰。


 そして、さりげなく実辰の胸部に目をやる。

 ──瑠香の方が、大きい。


「ふ」

「あ、笑ったなぁ! この!」

 手を振り回し憤慨する実辰。


「ごめんごめん」

「許さないいいいい!」

「まあまあ」

 涙目で金切り声を上げる実辰。

 それを宥める瑠香。


「あ、それで、なんだっけ?」

 瑠香は日和の方へ向き直る。


「あ、ああ、あの、聞きたいことがあったんだけどさ……」

「うん」

 日和の言葉に頷く。

 日和はしばらく逡巡した後、口を開く。


「瑠香の知ってる『奏鳴剣人』を教えてほしいなって思って。ダメかな」

 その言葉に瑠香は目を丸くする。

 そして満面の笑みを浮かべて言った。


「うん、いいよ! 初めて知り合った時、剣人は子猫にね──」


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