56話 結束
「さて、〈白の解放団〉の諸君」
瑠香たちの方を見てアレンが言う。
「これから、僕がリーダーを務めさせてもらうよ。いいかな?」
「リーダー!? 俺がやる!」
そこで心が立ち上がり言う。
『心、アレンに任せるべきだ』
「なんでだよ」
『経験が違う』
「む」
イチヤと言い争い、口をつぐむ心。
そしてアレンの方を見て、大人しく座る。
「ええっと?」
アレンは困ったように首を傾げる。
そこで瑠香は気付く。
そう言えば、イチヤの声が聞こえるのは人柱だけだった。
アレンにも、聞こえてないのだ。
「ああ、今イチヤが喋ってたんだ」
「……ああ、そういうことか」
心の説明を受け、頷くアレン。
そして、頭を掻く。
「うーん、しかし声が聞こえないとなると、なかなかに不便だね……」
そのジャスティスの言葉に、充、ティア、スズも頷く。
「どうにか出来ないものか……」
腕を組みアレンが呻る。
『おい』
そこで、いきなり世界軸が話しかけてくる。
瑠香はそれに驚く。
「……どうしたの?」
小声で返事をする瑠香。
『俺なら役に立てるぜ』
「え?」
世界軸の言葉に首を傾げる瑠香。
『察しが悪いな。聞こえない声を聞く方法だよ』
「で、出来るの?」
『出来るぜ』
瑠香が半信半疑で訊くと、自信満々に答える世界軸。
そこで瑠香は思い出す。
そう言えば、この『世界軸』は凄い力を持っているのだ。
普段のふざけた言動のせいで、すっかり忘れていた。
『──おい、何か考えてないか?』
「なんにも」
首を振り、誤魔化す瑠香。
そして立ち上がる。
皆の視線が瑠香に集まる。
少し委縮しながらも瑠香は声を出す。
「あの、何とか出来る、かもしれないです」
「ほんとかい?」
驚いたようにアレンが言う。
瑠香はそれに頷き、世界軸の指示通り心とアレンたちを呼ぶ。
「じゃあ、手を繋いでください」
世界軸の指示をそのまま伝える瑠香。
言われた通りに心、ジャスティス、アレン、充、ティア、スズが手を繋ぐ。
「じゃあ、行きますよ。──世界軸」
みんなに声を掛け、小声で世界軸に呼びかける瑠香。
『ああ、任せとけ』
世界軸が言う。
次の瞬間。
瑠香は、何かが頭の中を通り過ぎるのを感じた。
手を繋いでいる心たちもそれを感じたのか、頭に手を当てている。
『さ、終わったぜ』
世界軸が言う。
「おい、今のは?」
訝しげな顔をして瑠香に問う心。
「今での、終わったみたい」
「ほんとかよ」
瑠香の言葉に驚いたような顔をする心。
そしてイチヤに声を掛ける。
「おいイチヤ、なんか喋ってみろよ」
『そうだね……皆さん、どうでしょう。聞こえますか?』
声を発するイチヤ。
その声を聞き、アレンたちが息を呑む。
「これは、驚いたな」
アレンが目を見開き言う。
「ああ、正直に言ってしまえば半信半疑だったが……」
ジャスティスが頷く。
「この声がイチヤさんなんですね」
スズが心を見て問う。
それに頷く心。
『これで会話できるようになったね。助かったよ』
「ああ。瑠香、だったか? お前のお陰だぜ」
イチヤと心が瑠香に礼を言った。
「そんな、いいよ。大したことはしてないし」
だが、瑠香は首を振る。
これは世界軸のお陰だ。
瑠香は何もしていない。
「世界軸、ありがと」
『いいってことさ』
小声で瑠香が礼を言うと、世界軸はカラカラと笑って言った。
「あの、アレンさん」
瑠香は談笑している皆を横目に、アレンに近付く。
「ん? なんだい?」
瑠香に目を向けるアレン。
瑠香はその赤い瞳を真っ直ぐ見た。
「聞きたいことが、あるんですけど……」
「ああ、いいよ。僕に答えられることならね」
快諾するアレン。
瑠香は覚悟を決めて問いを口にする。
「あの、『奏鳴剣人』という名前を知っていますか?」
奏鳴剣人。
一年ほど前、瑠香たちの前から姿を消してしまった剣人。
しかし、数週間前に剣人から届いた手紙。
そこに書かれていた異世界のこと。
そして、瑠香の両親の現状。
充は剣人の名を知っていた。
それを聞いたのは、今瑠香の目の前にいるアレンだという。
剣人を探すことは、瑠香の両親への手掛かりになる。
そして、剣人自身の行方にも。
「ああ、知っているよ。ただ、その名に関しては人伝に聞いただけで──」
「ちょっと、良いですか?」
その時アレンの言葉が遮られる。
驚いて声の主を見る瑠香。
そこに立っていたのは、日和だった。
「あの、今、『奏鳴剣人』って聞こえたんですけど……」
「ああ、言ったよ」
アレンが頷く。
瑠香も同様に頷いた。
それを見て、日和が瑠香の前まで歩いてくる。
そして瑠香の正面に立つと、こちらを見下ろす。
瑠香より、頭一つ分背が高い。
その為、見上げるような体勢になる瑠香。
日和の顔を見て、瑠香は息を詰める。
少し、睨むような顔。
「その名前を、どこで知ったの?」
静かに問う日和。
何かを押し殺しているような声。
「え、えっと……?」
「どこで、知ったの?」
戸惑う瑠香に、語気を強めて再び問う日和。
その様子を見て、他のみんなも寄ってくる。
「剣人は、私たちの友達なんだけど……」
「はぁ?」
瑠香の言葉に、日和は顔を顰めた。
「おい、どうしたんだよ」
隼人が、瑠香と日和の顔を交互に見る。
日和は隼人の方を見て訊く。
「あんたも、『奏鳴剣人』を知ってるわけ?」
「ああ、知ってるぜ。友達だ」
頷いて答える隼人。
それを見て、溜め息をつく日和。
「あなたたち、騙されてるよ」
「どういうことだ?」
顔を顰める珠輝。
「私たちが知ってる『奏鳴剣人』は裏切り者だった。私たちは騙されてたの」
「おい、何言ってんだ? 剣人が人を騙すわけねーよ」
首を振って隼人が言う。
「でも、騙されたの。あいつは自分を、〈黒の使徒〉だって言ってた」
「そんな!」
日和のその言葉に瑠香は思わず声を上げる。
「日和の言ってることは正しいぜ」
そこで心が言った。
腕を組んでこちらを見ている心。
「あいつは〈黒の使徒〉だった」
その言葉にアレンがハッとしたように目を見開く。
「そうか。あの時ルナが化けていたあの少年が、そうなのか……」
「どういうことだよ?」
アレンに訊く隼人。
「彼らを保護するときに、〈黒の使徒〉に襲われたんだ。その中に、その少年がいたんだよ」
心たちを指してアレンが言う。
「そんなこと有り得ねーよ! あいつが〈黒の使徒〉だなんて、そんなこと!」
顔を歪め、隼人は叫ぶ。
「あなたたちもきっと騙されているだけよ。あいつは敵なの」
「うるせえ! 俺は信じねーぞ!」
首を振る隼人。
「私は、あんたたちのことを思って──」
「余計なお世話だ!」
日和と隼人が言い争う。
「瑠香ちゃん……」
凛が心配そうにこちらを見る。
その顔に頷き掛ける瑠香。
そして、日和の前まで行く。
「あの、日和さん」
「なに?」
瑠香に鋭い視線を向ける日和。
それを真正面から見返す瑠香。
「剣人は、私たちの友達なの」
「それが?」
「私は、剣人がそんな事するはずないって思ってる」
「瑠香……」
瑠香のその言葉に、隼人が目を見開く。
「でも、あいつが裏切ったのは事実なの。それはどう説明するの?」
「人違いだよ。その人は、剣人じゃない」
「は?」
日和が、意味が分からないというような顔をする。
瑠香は言葉を続けた。
「私たちは剣人を探す」
「何言ってるの? 危険よ。あいつを探すなんて」
「それでも探すの。そこで確かめればいい。あなたたちを裏切った剣人が本物かどうか」
日和の目を見つめる瑠香。
少したじろぐ日和。
「もし……もし、本物だったら……?」
声を押し殺して、日和が問う。
瑠香は目を閉じる。
瑠香は信じたい。
剣人がそんなことをしないと。
でも、もし本当に剣人がそんなことをしていたら。
瑠香は目を見開き、言う。
「その時は、私が全力で剣人と戦って止める」
その言葉に息を呑む日和。
「なんで……友達なんでしょ……?」
「うん、友達だよ。……友達だから、その時は私が戦う。友達が道を踏み外した時は、正しい道を教えてあげるのが友達だから」
瑠香はそう言い切る。
その場に沈黙が訪れる。
互いに目を離さない瑠香と日和。
やがて、根負けしたのか日和は視線を外す。
「瑠香、だったっけ? 本気で言ってるの?」
「うん。本気だよ」
その問いに頷く瑠香。
すると日和は溜め息をついた。
「わかった、私の負けだよ」
そして、手を差し出す。
「さっきは酷いこと言ってごめんね。ついカッとなっちゃって」
「ううん、私こそ」
手を握り合う瑠香と日和。
「あなたは信用できそう。これからよろしくね」
「うん、こちらこそ!」
笑みを浮かべる二人。
「和解出来たようでなによりだよ」
胸を撫で下ろし、アレンが言った。
「すみません。騒ぎにしちゃって」
日和が頭を下げる。
瑠香もそれに倣う。
「いやいや、気にすることないよ」
笑いながら手を振るアレン。
「よし、これで俺たちの方針は決まったな」
そこで隼人が声を上げる。
皆の視線が隼人に集まる。
「まずは、剣人を探し出してその正体を確かめることだ」
「ああ、そうだな」
隼人の言葉に頷く珠輝。
「よーし、そうと決まったら〈白の解放団〉の活動を開始するぞ!」
心が意気揚々と拳を掲げる。
「いや、当分の間は活動禁止なんだけどね」
「あ、そうか」
呆れたようにジャスティスが言う。
頭に手を当てる心。
それを見て、瑠香たちは笑い声を上げたのだった。




