54話 第四次試験
「第四次試験の合格、ですか?」
ジャスティスの言葉を聞き、訝し気に繰り返す充。
「そうさ」
頷きながらジャスティスは言う。
そこで珠輝が口を開く。
「でも、俺たちは試験なんて受けてませんよ」
「いいや、受けていたのさ。君たちにそのつもりがなくてもね」
珠輝の言葉に、首を横に振るジャスティス。
「君たちは、第四次試験を合格した。その試験内容は、異世界に行き、生き残ること、さ」
「な!?」
「ええ!?」
驚きの声を上げる瑠香たち。
では、まさか、瑠香たちがそれぞれの異世界に転移したのは、偶然などではなく……
「もしかして、転移させたのはわざと、ってことですか」
さしもの充も驚いたように目を見開く。
「その通り。異世界を転移しても、臨機応変に対応できるかを試させてもらったのさ」
「……少し、良いですか?」
手を上げて、茉菜が言う。
「ユナイテッドは基本的に『異世界』への干渉を禁じていると聞いたのですが……」
そう言う茉菜。
確かにそうだ。
ユナイテッドが禁じている異世界への転移を、わざわざ試験にするのは少しおかしい。
「もちろん、一般の人はおろか、ヒーローでさえも異世界に行くことは基本的に禁じられている。君たちが受けたのは特別な試験なんだ」
「特別……? なんだそれ」
隼人が首を傾げる。
「あれ、聞いてないのかい?」
少し驚いたような顔をするジャスティス。
その言葉に、全員が疑問符を浮かべ首を傾げる。
どういうことだろうか。
瑠香たちが受けたのは『異能使用特殊免除資格取得試験』だったはずだ。
「君たちが受けたのは、『レンジャー』になるための試験なんだけど……」
「レンジャー? なんだそれ、初めて聞いたぞ」
心が言うと、ジャスティスが頷いた。
「レンジャーは極秘の部隊だからね。民間人が知っているはずがないよ。でも、てっきり君たちは知ってるものだと……」
ジャスティスが全員を見回す。
一斉に首を横に振る瑠香たち。
初耳だ。
それを見て額に手を当てるジャスティス。
「なんだ、あの人、話してなかったのか……」
「どういうことだ?」
心が訊く。
「君たちはレンジャーに推薦されたんだよ」
「推薦したのは誰ですか?」
充がジャスティスに訊ねる。
「アレンさんという人だけど……知ってるかい?」
その言葉に驚きを露にする充。
同時に、心たちも驚いたような顔をする。
瑠香もその名前に聞き覚えがあった。
充を瑠香たちの下に送り込んだ人だ。
「さて、ここからは君たちの質問に答えることにしよう。何か聞きたいことがある人はいるかい?」
ジャスティスが瑠香たちを見る。
そこで、凛が手を上げた。
「あの、レンジャーって何ですか?」
「いい質問だ。レンジャーは基本的にはヒーローと同じだ。有事の際の異能の使用が許可されている。だが、それだけではヒーローと変わらない」
ジャスティスが頷き、説明する。
「レンジャーとヒーローの違いは、異世界への転移が許可されているところだ」
「そんな資格が……」
実辰が驚いたように呟く。
「ま、転移するためには色々許可を得たり、審査が必要だったりするんだけどね」
肩を竦めてジャスティスが言う。
「さて、他には?」
「あの、いいですか……?」
茉菜が手を上げる。
「私たちが受験した『異能使用制限特殊免除資格取得試験』はレンジャー試験のカモフラージュだったんですか?」
「まさか。あの試験は正規の物だよ。君たちには、第三次試験までは同じ試験を受けてもらって、第四次試験から別の試験を用意したんだ」
その説明に茉菜が納得したように頷く。
「他には何かあるかい?」
「私、いいですか?」
日和が手を上げる。
「第四次試験中は、どうやって私たちを審査していたんですか?」
「審査は、君たちがさっきまで着けていた『強制帰還装置』で行っていた」
ユナイテッドの本部に到着したときに回収された『強制帰還装置』。
それがどうやら、瑠香たちを審査していたらしい。
「あの装置には、転移できる機能の他に、装着者の精神状態と、周囲の危険を感知する機能が付いている」
解説してくれるジャスティス。
「装着者が、異世界に転移した精神的負荷に耐えきれないと判断した場合。あと、装着者の手に負えないような危険が迫っていると判断した場合。その時は、強制帰還装置が発動するようになっていたんだ」
「でも、私たちは特に危険な状況じゃなかったですけど……」
「君たちの強制帰還装置は連動している。だれか一人でも危険に陥った場合、全員が強制的に帰還するようになっていた。今回の場合は、そちらの二人だったかな?」
日和の言葉を聞き、ジャスティスが言う。
そして、凛と茉菜の二人の方を見た。
凛と茉菜は顔を見合わせて、頷く。
思い当たる節があるようだ。
「さて、まだ聞きたいことはあるかい?」
「俺からもいいか?」
心が手を上げた。
「どうしてユナイテッドからもらった強制帰還装置で転移した先が、異能犯たちのアジトだったんだ?」
「言われてみりゃ、そうだな」
心の言葉を受け、隼人も首を傾げる。
瑠香は驚いた。
隼人たちも、あの場所にいたのか。
ならば、聞こえてきた戦闘音は隼人たちのものだったのだろう。
二人の言葉を聞き、ジャスティスは表情を硬くした。
「──それについて、一つ君たちに謝りたい」
ジャスティスは頭を下げた。
「本来、転移先はこの本部だったはずなんだ。しかし、そうはならなかった」
「なんでだ?」
「──恐らく、装置に何らかの細工がされていたのだろう」
心の質問に答えるジャスティス。
「罠だった、ってことですか……?」
「ああ」
一華の言葉に、ジャスティスは頷く。
「誰が、そんなことを……」
「犯人はまだわかっていない。現在調査中だ」
そして、瑠香たちを見るジャスティス。
その真剣な目に息を呑む瑠香。
「細工をしたのが、ユナイテッド内外のどちらかもわからない。君たちには、十分注意をしてもらいたい」
「裏切りの、可能性があるってことですか?」
充の言葉にジャスティスは頷く。
「情けない話だけどね。ユナイテッドは巨大すぎる。光の当たらない場所もあるんだよ」
「なるほどなぁ……。でも、そんな状態で外に出るのは危険すぎるよな……」
心が呟く。
「それについてだけど、今後の話をするために人を呼んでいるんだ。そろそろ来るはずだけど──」
ジャスティスが扉を見る。
その時、ちょうど扉が叩かれる。
「お、来た来た。入っていいよ!」
「──失礼します」
一人の男が部屋に入ってきた。
灰色の髪はぼさぼさで、分厚い眼鏡を掛けている。
白衣を着ていていて、研究者のような恰好だ。
「紹介しよう。こちらが君たちの指導員だ」
「──エスタと、申します。よろしく」
気だるげな声でエスタと名乗る男。
「指導員、ってのは……?」
「ユナイテッドのヒーローやレンジャーが、不適切な行動を取らないように監視する役目を持っている人たちのことさ」
「──監視とは人聞きの悪い。もっとわかりやすい役目もあるでしょうに……」
ポケットに手を突っ込み、だるそうに言うエスタ。
「まあ、ヒーローやレンジャーの行動をサポートする役割もあるけどね」
「そっちが公の仕事ですよ……」
エスタは溜め息を吐き、ぼさぼさの頭を掻くと、どこからか資料を取り出す。
「──さて、本題に入りましょう。君たちの、今後の処遇についてですね」
「処遇……?」
その単語に不安そうな顔をする実辰。
「まぁ、最後までお聞きください。まず、レンジャーの資格についてなんですが……」
資料を見てエスタが言う。
「レンジャー資格取得のための第四次試験についてですが、合格基準の三日間をわずかに満たしてませんでした」
「え、それじゃあ……」
「とは言え、今回に関しては危険察知からの強制離脱。試験は続行可能な状況でした。そのため、特例として合格といたしました」
凛の呟きに首を振りエスタは言った。
「お次は、先程の戦闘行為についてですが……。皆さんは第四次試験を合格し、レンジャー資格取得試験に合格いたしました。しかし、まだその資格は発行されていません。その状態での戦闘行為でしたので、『無許可の戦闘行為』と見なされます」
「そんな! でも、戦わなければ危険だったんです!」
一華が憤慨して言う。
それに頷くエスタ。
「仰る通りです。今回の件については正当防衛が認められます。また、ユナイテッド側の不手際による転移のトラブルでしたので、今回の責任はユナイテッドにあります。更に、逮捕された異能犯が、ほとんど軽傷だったのも大きいです。重症、または死亡が確認された場合には、何らかの処罰が下っていた可能性があります」
その言葉に胸を撫で下ろす瑠香たち。
大怪我をさせないように手加減をしていてよかった。
「さて、今後についてですが、皆さんにはユナイテッド本部で生活してもらうことになります」
「え? どうしてですか?」
怪訝そうな顔をする日和。
「今回の異能犯の犯行が、皆さんを標的にした物なのか、無差別な物なのか区別がつかないからです。ですが、異能犯に狙われている可能性も考慮し、このような対処となりました」
そう言い、資料をめくるエスタ。
「次にそちらの方々についてですが……」
リー、ティア、スズを見るエスタ。
「あなた方も審査と試験に合格していただければレンジャーの資格と居住権を与えることが出来ます」
「いいんですか?」
スズが驚いたように訊く。
「ええ、問題ありません。もちろん、合格していただく必要はありますが。どうします?」
「ボクはお願いしますわ」
「私もにゃ」
「私も、お願いします」
頷くリー達。
「わかりました。そのように手続きいたします」
エスタは頷く。
「さて、今後の皆さんの扱いですが……」
全員を見てエスタが言う。
「皆さんはこの世界の出身ではないので、最低限のルールさえ守っていただければ、自由行動が許されます」
「最低限のルールってなんですか?」
実辰がエスタに訊く。
「この世界ではユナイテッドの規則に従うことです。それだけ守っていただければ、皆さんの自由は保障いたします。異世界に行くのも自由ですし、異世界に永住していただいても構いません」
そこまで言い、エスタは資料をしまう。
「と、まあ、こんな感じでしょうか。何かご質問などは……?」
「はい」
珠輝が手を上げる。
「何故、俺たちには自由が許されるのですか?」
「それは、皆さんが異世界の出身だからです。異世界の方を、この世界の法で縛ることは出来ません。だから、この世界にいる場合のみ、この世界の法を守ってもらうことになっています。この世界の出身であれば、そうはいかないですけどね」
「なるほど、わかりました」
珠輝が納得したように頷く。
「他に、なにか聞きたいことがある人は……?」
そう言い瑠香たちを見回すエスタ。
そして誰も質問がないことを確認すると頷く。
「それでは、これからよろしくお願いいたします。──僕は、これで失礼いたします」
そう言い頭を下げると、背を向けてさっさと歩き出してしまう。
それを見て苦笑するジャスティス。
「まあ、悪い人じゃないんだ。仲良くやってくれよ」
ジャスティスは瑠香たちに言う。
「さて、これからどうしよう──」
呟くジャスティス。
その時だった。
扉がノックされる。
エスタが戻ってきたのかと思う瑠香。
しかし、部屋に入ってきたのは全く別人だった。
長身に、茶髪の青年。
赤い瞳をしている。
その赤い瞳が、瑠香たちを見る。
その姿を見て、充が立ち上がる。
「アレン!」
「やあ、充。元気だったかい?」
アレンと呼ばれた青年は片手を上げて、そう言った。




