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51話 ジャスティス

 

 微かな振動と共に、遠くから破壊音が聞こえてくる。


 瑠香は周囲に倒れている異能犯たちを見た。

 倒したのは瑠香と充の二人だ。


 充と共に『異能世界』に転移した瑠香。

 何かの手違いなのか、転移した先は人のいない地下街だった。

 そこで、異能犯たちに襲われた瑠香と充。


 だが、『心体技』を習得した瑠香たちの敵ではない。

 五分掛からずに十数人の異能犯たちを無力化した瑠香と充。



「取り敢えず、出口を探すぞ」

「うん」

 周囲を見渡し、他に敵がいないことを確認して充が言う。

 瑠香は頷いた。


 歩き出す二人。

 微かに揺れる地下街。

 やはり、何かが壊れる音がする。


「ねぇ、充。この音、何だと思う?」

 瑠香は気になり充に訊ねる。


「戦闘の音だ。恐らく、誰かが戦っている」

「え、助けなきゃ!」

「いや、無理そうだ」

 首を振る充。


 その理由を訊ねようとする瑠香。

 それを充は手をかざすことで制止する。


 口を噤む瑠香。

 充が足を止めた。

 その視線を辿り、瑠香も足を止めた。


 道の向こう側に、誰かいる。

 ゆっくりとこちらに歩み寄る人影。

 それは男だった。


 その姿を見て驚く瑠香。

 ぼさぼさの白髪。

 ボロボロの服。

 浮浪者のような恰好をしている。


 電灯に照らされ、不気味に浮かび上がったその顔を見て、瑠香は息を呑む。


 閉じられた右目。

 その目を縦断するように刻まれた、大きな傷跡。

 そして顔を覆う大量の縫い跡。


 開かれた左目が瑠香たちを見据える。

 その青い瞳に浮かんだものを見て、瑠香は思わず一歩下がった。


 喜びだ。

 とても、愉しそうな顔。

 その口に浮かぶ凄惨な笑み。


 まさに、狂喜。


 それは狂気に侵されたとしか思えないほどの歓喜だった。


「──ああ、やっと、会えたね」


 男が声を発する。

 言葉を一つ一つ区切るような話し方だ。


「いいね、君たち、二人とも、とっても、とっても」

 一歩、また一歩と近付く男。


「こんなに、こんなに、愉しそう、だなんて」

 笑みを深める男。


『おい、気を付けろ』

 世界軸が言う。


『こいつ、強いぞ』

「──うん」

 頷く瑠香。


 身構える瑠香と充。

 その拳を、霊装が覆う。


 それを見て、男は足を止めた。

 そして、笑う。


「いいね、そう、だよ。そうで、なくちゃ──」

 身をかがめる男。

 その足が、思い切り地を蹴る。


「──殺し、甲斐が、ないッ!!」

 男がいた場所が爆散する。

 あまりの脚力に地面が吹き飛んだのだ。


「〝魄撃銃(ストロペトゥム)〟!」

 叫ぶ充。

 その手に銀色に光る銃が現れる。


「“弱撃弾(シュヴァハ)”!」

 疾走する男に銃口を向け、充は引き金を引く。

 破裂音がし、魄の銃弾が放たれる。


 しかし、男はとてつもない速度で手を広げ、顔の前に広げる。

 その掌に命中する銃弾。


 だが。


「効か、ない、ねッ!?」

「くッ!」

 いとも簡単に銃弾を受け止める男。

 顔を顰める充。

 目を見開く瑠香。


 化け物だ。


 威力は抑え目だった。

 とは言え銃弾だ。

 かなりの速度が出ていたはず。

 普通ならば衝撃で気絶していてもおかしくない。


 しかし、男はそれを、まるで虫でも捕らえるかのように受け止めてみせた。


「“強撃弾(シュタルク)”!」

 再び叫ぶ充。

 銃口から、先程よりも威力の高い弾が放たれる。


 男は、その弾を受け止めようとはしなかった。

 斜めに跳躍し、銃弾を避ける。

 そして、壁に足を着くと再び跳躍する。


 その標的は、瑠香だ。

 瑠香に向かって跳ぶ男。


『瑠香!』

「うん!」 

 世界軸が叫ぶ。

 瑠香は、さっと腕を掲げる。


 その手から、男目掛けて炎の渦が飛び出す。 

 炎は、男に直撃したように見えた。


「瑠香、大丈夫か!」

「うん! でも──」

 駆け寄ってくる充。

 瑠香は頷く。

 そして、男の方を見る。


「──危ない、危ない」

 男は無傷だった。

 しかし、その服は少し焦げている。


 空中で身をひねって、炎を避けたのだ。

 恐るべき身体能力と反射神経だ。


 少し離れた場所で舌なめずりをする男。

 愉しくて仕方がないという表情だ。


 瑠香は一歩後ろに下がる。

 勝てる気がしない。


 この男は、『心体技』が使える。

 その練度の高さは、瑠香はおろか、充さえも凌駕している。


 マズい。

 勝てない。


 後退する瑠香を見て、男は目を細める。


「逃げる、の? それは、良く、ないなぁ。それは、つまらない、なぁ」

 首を振り、男は言う。

 瑠香を見る男。


「本当は、だめ、なんだけど。もう、いい、か」

 そして、笑う。



「もう、殺そう」



 一瞬、辺りが暗くなったと錯覚する瑠香。

 悪寒が走る。

 瑠香は、戦慄した。


 これは、目の前の男の気配だ。

 狂気で満たされた禍々しい気配が、その場に満ちている。


 その狂気的な気配に、充も一歩後退った。


 男が一歩足を踏み出す。


 怖い。


 殺される。

 身を震わせる瑠香。


 瑠香を守るように、充が立つ。


 その顔を見上げる瑠香。

 不意に頭がズキンと痛んだ。


 ダメだ。

 守ってもらってばかりじゃ、ダメだ。


 私も、守るのだ。

 今度こそ──


 守るのだ。



 その時だった。

 轟音と共に、いきなり天井が爆発する。


 瓦礫の雨が降る。

 土煙が瑠香たちを襲った。


 思わず目を閉じる瑠香。

 そして、目を開く。


 光が、差していた。

 太陽の光だ。

 天井に空いた巨大な穴から、暗い地下街に光が降り注ぐ。


 そして、光の真ん中に。


 襲撃者と対峙するように、一人の男が立っていた。


「あれは──」

 充が目を見開いて言う。


 瑠香たちに背を向けて立つ男が振り返った。

 普通の人だ。


 特別背が高い訳ではない。

 特別体格が良い訳でもない。


 だが、その気配は圧倒的だった。


「君たち、大丈夫かい?」

 優しい声でそう訊く男。


「安心すると良い。この僕が、──『ヒーロー』が、助けに来たからにはね」


 その声を聞き瑠香はハッとする。

 聞いたことがある。


 この声を聞いたのは、Bスタジアムだ。

 二次試験を伝えた、あの男と同じ声。

 自らを『ヒーロー』と名乗った、あの男と。


 確か名前は──


「──ジャス、ティスッ!!」

 その名を叫んだのは、先程まで瑠香たちと対峙していた男だった。


「ああ、ああ! とても、とても、いいッ!!」

 両手で顔を覆い、狂喜に身を震わせる狂人。


 それを見て、No.1ヒーロー、ジャスティスは顔を顰める。


「君に名前を覚えてもらっても、あんまり嬉しくないね」

「では、あなたが、その名を、轟かせる、理由は、どこに?」

 ニタニタ笑いながら問う男。


 ジャスティスは手を掲げた。

 そして、その拳を握り締める。


 光の中に立つ、その姿。

 それを見て、瑠香は息を呑む。


 それはまさに、『ヒーロー』だった。


「人々の安心を守る、正義の証。そして、悪を許さない、正義の証。それが、僕の名だからさ!!」

 そして、拳を振り下ろすジャスティス。


「“正義拳(ネクサス)”ッ!!」


 爆風が吹き、砂煙が巻き上がる。


 ジャスティスの動作は、拳を上から下へ動かす、ただそれだけだった。

 それなのに、吹き飛ばされそうになる瑠香。


 瑠香は思わず顔を覆った。

 その耳元で、誰かが囁く。


「覚えて、おいて。僕の名は、カラー。次こそ、必ず──」


 ──君を、殺して、あげる。


 ハッと顔を上げる瑠香。

 砂煙が晴れた。


 そこには、誰もいなかった。


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