46話 ウタカタ
「──う」
軽く呻き声を上げて心が目を開く。
「心、大丈夫?」
一華は、起き上がる心に声を掛けた。
「一華か。俺、どれくらい寝てた?」
「一晩中。もう朝だよ」
昨日の夕方の襲撃で気絶した心は、丸一晩寝こんでいた。
相当、ダメージが大きかったのだろう。
「スズは?」
心が訊いてくる。
「向こうでご飯作ってるよ」
「そうか」
安堵したように言う心。
「心! 目が覚めたんですね!」
声を聞き付けたのか、スズが現れる。
「おう、スズ。無事でよかった」
片手を上げて応じる心。
その心に、パッと飛びつくスズ。
「いでッ!」
「あ! ご、ごめんなさい!」
傷が痛んだのか顔を顰めて呻く心。
慌てて心から離れるスズ。
そして心配そうに心を見る。
「あの、心……」
「大丈夫だ。そんなに心配すんなって」
「──いいえ、そうもいきません」
首を振るスズ。
「だって、私の、私のせいで、こんな怪我を……」
「スズ……」
泣き出しそうな顔をするスズ。
一華は、その肩にそっと手を置く。
「なあ、スズ、話してくれるか。なんでお前が追われてるのか」
「──はい」
スズは頷いた。
「全ては、この国の在り方が原因なんです」
そうしてスズは話し始めた。
「事の発端は、リンドウ一族とレンゲ一族にあります。二つの一族は、長い間いがみ合い続けてきました。それこそ、一族同士で戦争を起こすくらいに。この国の歴史は、幾度となく繰り返されたリンドウとレンゲの戦争によって、成り立っているのです」
悲しそうに語るスズ。
「レンゲ一族の者の特徴は、緑の瞳を持っていることです」
それを聞き、一華は昨日襲ってきたエイジと言う少年を思い出す。
あの少年も、緑の瞳を持っていた。
「そして、リンドウ一族の者の特徴は、──薄い金髪を持っていること」
スズは自身の髪を撫でる。
「じゃ、じゃあ、スズはリンドウ一族とレンゲ一族の……」
一華は息を呑む。
「はい、私は、混血です」
そう言い、俯くスズ。
「お二人に名乗った『ウタカタ』という名。……あれは、家名ではありません」
「じゃあ、何なんだ?」
心が訊く。
「蔑称です。──混血に、対しての」
「そ、そんな……」
一華は絶句する。
「混血は、この国において迫害の対象です。だから、私はこの髪と瞳を見られないようにフードを被っていました」
膝の上で固く手を握り合わせるスズ。
「私、もうお二人と一緒にはいられません」
突然そう言うスズ。
「私、嬉しかったんです。ウタカタと名乗ったとき、お二人が、全くそれを気にしなかったこと。──そして、こんな私を、友達と言ってくれたこと」
スズの目に涙が滲む。
そして、頬を伝った。
「それなのに、私は、無関係なお二人を巻き込んでしまって……、だから……」
「無関係? 何言ってんだ、お前」
心がいつになく真剣な顔でスズを見る。
「友達だって、言ったろーが。無関係じゃねえよ」
「もう、危ない目にあってほしくないんです!」
首を振り、スズは叫ぶ。
「私と一緒にいたら、きっとまた危険に晒されます! だから、だから!」
「じゃあ、一人ぼっちの友達を見捨ててけって言うのか!」
立ち上がる心。
「いいか、スズ! 友達ってのがなんだか教えてやるよ!」
心は怒ったように言う。
「友達ってのは、寂しい時には傍にいてやるもんなんだ!」
「わ、私は、寂しくなんか──」
「嘘を吐くなよ! 一人ぼっちで寂しくない奴なんていねえ! 正直に言えよ!」
その言葉に、大きく息を呑むスズ。
スズの目から、涙が一粒、また一粒と零れ落ちた。
「わ、私、ほんとは……」
「ああ、なんだ。なんでも言え。いくらでも聞いてやる」
「ほんとは、ずっと、寂しくて……、つ、辛くて、悲しくて……! 誰かに、受け入れてほしくて……!」
「ああ、でも、お前はもう一人じゃない」
子供のように泣きじゃくるスズ。
「ほ、ほんとに、友達に、なってくれるの……?」
その瞬間だけ、スズの大人びた口調が年相応のものに変わる。
心は、満面の笑みを浮かべる。
そして言った。
「もう、友達じゃねーか」
その言葉を聞き、スズは顔を覆う。
そして呟いた。
「……夢みたい。こんなに、幸せなことがあるなんて」
「だろ? 友達がいると、幸せになれるんだぜ」
心のその言葉に、スズは笑みを浮かべた。
「さっきは取り乱してしまって、すみませんでした」
泣き止んだスズは涙を拭って、少し気恥しそうに言った。
「心、一華。本当に、ありがとうございます」
「気にすんなって。友達なんだからよ」
心の言葉に、嬉しそうに笑うスズ。
「それで、その、これからどうしますか?」
「そうだなぁ」
スズの問いに首をひねる心。
「食糧もそろそろつきそうなんだよね……でも、また街に行くわけにもいかないし……」
一華は顎に手を当て言う。
その時だった。
『緊急事態発生。危険を察知しました。直ちに『強制帰還装置』を起動します。装着者は転移に備えてください。繰り返します──』
そんな声が聞こえる。
声の出処は、一華と心の指に嵌められた指輪だ。
『心!』
「ああ!」
「ま、まさか、これって!」
光に包まれる二人の体。
「そんな、もう、お別れだなんて……」
スズは立ち上がって言った。
だが、心は首を振って言う。
「スズ、お前、行く当てがないんだよな」
「は、はい……」
「なら選べ」
そう言い、手を差し出す心。
「俺たちと一緒に来るか、ここに残るか」
スズは迷わなかった。
「一緒に、行きます」
差し出された手を、スズが取る。
そして、目の前が真っ暗になった。




