45話 守りたいもの
何だか、外が騒がしい。
瑠香は瞼を震わせて目を開ける。
窓から、朝日が差し込んでいるのが見える。
もう朝か。
瑠香はベッドの上で起き上がると、軽く伸びをする。
そしてベットから降りようとする。
その瞬間、大きな音がして船が揺れる。
慌てて壁に手をつき、バランスを取る瑠香。
その時、扉を叩く音が聞こえた。
「はい!」
瑠香は返事をする。
すると扉を開け、充が入ってくる。
「瑠香、今すぐ支度をして上に──」
そこまで言いかけ、充は絶句する。
その視線を辿って、瑠香は自分の体を見る。
今、身に着ているのは薄手のネグリジェだ。
少し肌が見えている部分もある。
その場所をそっと押さえる瑠香。
「ごめん、あんま、見ないで……」
その頬は、少し赤く染まっている。
「あ、ああ、悪い」
慌てて顔を逸らす充。
「ミ、ミシェルから伝言だ。支度をして上に来い、だそうだ」
充はそう言い、慌てて部屋から出ていく。
一人になった途端、真っ赤になる瑠香。
とても恥ずかしい姿を見られてしまった。
瑠香は顔に手を当て、悶えそうになる。
しかし、すぐに顔を引き締める。
充の顔はかなり焦っていた様子だった。
きっと緊急事態だ。
急いで支度を整える瑠香。
支度を終え、瑠香は甲板に上がる。
船員の人たちが慌ただしく動き回ってるのが見える。
「ミシェルさん」
眉を顰め海の向こうを睨んでいるミシェルに瑠香は声を掛ける。
「お、来たね」
硬い表情を少し和らげ、瑠香を見るミシェル。
「どうしたんですか?」
「ん~、ちょっと面倒臭いことになってね」
ミシェルは海の向こう側を指差す。
「あれは……」
瑠香目を凝らし、それを見つける。
一隻の船。
黒い旗に骸骨のマーク。
「海賊船……!」
「そ」
頷くミシェル。
「向こうさん、どうやら、戦争始める気だよ。さっき大砲撃たれたんだ」
「う、撃たれた!? 大丈夫なんですか!?」
「うん。逸らしたから。さっき揺れなかった?」
逸らした、という言い方に疑問を感じる瑠香。
それを同時に納得する。
さっきの大きな揺れの原因はそれか。
「どうするんですか?」
瑠香は心配になって訊く。
「もう、潮の流れに乗っちゃってる。後には引けない」
「た、戦うんですか……?」
「それしかないね」
向かいの海賊船を見据えるミシェル。
「私たちは、どうすれば……」
「二人はお客さんだ。非戦闘員と一緒に下に隠れていてほしい」
「……わかりました」
頷く瑠香。
「俺は手伝うぞ」
充がそこで声を出す。
「いいの?」
ミシェルが驚いたように言う。
「世話になってる礼だ」
そっぽを向いて言う充。
「俺にできるのは、これくらいしかないからな」
「そっか、ありがと」
微かに笑って礼を言うミシェル。
ミシェルは踵を返すと船員たちの方へ向き直る。
「総員、戦闘準備! 今より敵を迎え撃つ! 戦闘員は甲板へ、それ以外の者は下へ避難を!」
その言葉に喚声を上げる乗組員たち。
瑠香は非戦闘員の人たちと一緒に船内に移動した。
瑠香は船内の一室で、非戦闘員の船員たちと隠れていた。
周りにいるのは女性や子供ばかりだ。
肩を寄せ合って、震えている。
頭上からは怒号と足音、そして大砲の音が聞こえてくる。
たまに大きく船が揺れる。
その度に肩を震わせる人々。
恐怖に耐えきれず、幼い男の子が泣き出してしまう。
慌てて母親らしき女性が泣き止ませようとする。
だが、男の子は泣き止まない。
瑠香は立ち上がる。
そして男の子の下へ歩いていく。
おずおずと瑠香を見上げる女性。
瑠香は安心させるように笑いかけ、男の子の頭をそっと撫でる。
男の子は顔を上げ、瑠香を見上げる。
「大丈夫だよ。お姉ちゃんが守ってあげるからね」
瑠香は男の子と目線を合わせ言う。
「ほ、ほんと?」
「うん。だから、泣かないで」
「わ、わかった!」
涙を拭う男の子。
「いい子だね」
瑠香は男の子に笑いかけ、立ち上がる。
『行くのか?』
「うん」
世界軸の問いに答える瑠香。
『それが、お前が戦う理由か』
世界軸は呟く。
「うん、そう。戦えない人たちを守るために、戦う。──ダメ、かな?」
『いいや、悪くねぇ。──俺と、『俺たち』と同じだ』
世界軸は笑い声を漏らす。
『行くぜ、相棒!』
「うん!」
瑠香は走り出した。
甲板に飛び出す瑠香。
周囲は、大混戦になっている。
隣に先ほどの海賊船が止まっている。
そこから乗り込んできたのか、甲板では襲ってきた海賊たちが戦っていた。
それを迎え撃つミシェル海賊団の戦闘員。
瑠香はその中に充を見つける。
「充!」
呼びかけて駆け寄る瑠香。
「瑠香! 何故来たんだ!?」
「私にも、手伝わせて!」
「……わかった! 助かる!」
その言葉に少し驚いたような顔をする充。
だが、すぐに頷いた。
充と合流する瑠香。
「ミシェルさんは?」
「隣の船に乗り込んでる!」
瑠香の問いに答える充。
襲い掛かってくる海賊たちを、威力を落とした魄の銃弾で気絶させる充。
その背後に、忍び寄る敵の姿を見つけた瑠香。
掌に魄を集中させ、風の弾を発射して敵を吹き飛ばす。
「瑠香、その力は──」
驚く充。
しかし、戦闘中であることを思い出したのか、すぐに表情を切り替えて周囲を見渡す。
甲板の敵は、ほとんどが無力化されている。
しかし、まだ敵はいる。
「行くぞ、瑠香!」
「うん!」
頷き合い、走りだそうとする二人。
しかし、その時。
『緊急事態発生。危険を察知しました。直ちに『強制帰還装置』を起動します。装着者は転移に備えてください。繰り返します──』
そんな声が聞こえる。
そして瑠香たちの体が光に包まれる。
「み、充! これ!」
「ちッ! なんで今!」
舌打ちをする充。
「瑠香、掴まれ!」
充が瑠香に向かって腕を伸ばす。
その腕にしがみ付く瑠香。
そして、目の前が真っ暗になった。
「あーあ、行っちゃったかぁ」
ミシェルは寂しそうに呟く。
「これから、少し寂しくなるだろうなぁ」
溜め息をつくミシェル。
「ま、また会えるだろうけどね」
肩を竦め、一人言うミシェル。
ミシェルは敵船の甲板で軽く伸びをする。
その周囲には、ミシェル一人によって倒された敵船の海賊たちが大勢横たわっていた。




